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脳筋戦士ぴこたん、今日もネットの罠に釣られる! 〜やらかすたびに強くなるリテラシー勇者冒険譚〜  作者: ぴこたん
第二章 実践編

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第32話 刻印なき王冠――レビューの海と真贋の線


 インフォシティの中心広場は、夕陽に透ける光粒で満ちていた。

 屋台の上には小さなホログラムがふわふわ浮かび、

香辛料の匂いと音楽のリズムが混ざり合って流れていく。

 その喧騒を割るように、頭上の大ホロスクリーンが唐突に眩しく輝いた。


「期間限定!

 王侯貴族ご用達――王冠クラウン・オブ・レガリアが今なら半額!」


 金糸の蔓がからまるような映像。

 宝石が滝のように降り注ぎ、王冠がゆっくりと回転して光を散らす。

 スクリーンの下にはレビューの吹き出しが絶えず流れ、

「本物!」「人生の格が上がった」「この価格で奇跡!」と、星が弾けるたびに歓声が上がる。


「おぬしぃぃ!見たかぴこ!?

 王冠だぴこ!しかも半額ぴこ!!」

 ぴこたんは二の腕をパンッと叩き、胸板を反らせた。

「これを装備すればオレはキング・オブ・マッスルぴこ!

 風格が三割増しぴこ!!」


「どこに被っていくつもりなのさ……」ミミが額を押さえる。

「しかもさ、そのレビュー、妙にテンプレ臭くない?

 “最高です!”“人生変わりました!”ばかり」


 ルークは目を細めた。

「映像の作りは豪奢だが、証が見えない。

 正規の刻印も、保証の紋章も映らん」


「一応、出所を当たろう」

 おぬしは端末を掲げてスクリーン下の購入リンクをスキャンした。

 表示されたショップ名は正規ブランドの綴りに似ているが、

よく見ると一文字だけ紛らわしく入れ替わっている。

 URLの末尾には意味不明な文字列がぶら下がり、証明書の発行元は聞いたこともない機関。

 しかも会社情報のページは、押すと「404 仮設工房」とやらに飛ばされる。


「タイポスクワットと、怪しい証明書だな」おぬしは眉をひそめた。

「返品・交換の記載は小さく、

 “到着から24時間以内に未開封のみ”……現実的じゃない」


「ふむ……」ぴこたんは一瞬だけ首をかしげ――そしてすぐ、きらめく王冠に目を戻した。

「でも半額ぴこ!半額は正義ぴこ!!」


「――待って、ぴこたん」

 よく通る声が背後から飛んだ。振り向けば、商会の娘リナが小走りで近づいてくる。

 栗色の髪を高く束ね、帳簿を抱えた姿は、広場の喧騒の中でも凛として目を引いた。


「それ、偽物の匂いがするわ。

 少なくとも、うちの商会が扱っている正規の王冠は、

 こんな“ネット即売・半額”なんてやり方をしない」

 リナはスクリーンを見上げて、冷静に指を折る。

「本物は職人の手で作られ、鑑定書と保証印章が必ず付く。

 販売経路も限られていて、在庫は商会の倉庫で管理されているの。

 今そのうちの一本が“半額”で放出されるなら、わたしが知らないわけない」


「え、でもレビューがいっぱいあるぴこ。ほら、“最高”の嵐ぴこ」

「偽レビューは買えるの。星は金で増やせる。でも、刻印は偽れない」


 おぬしは頷いた。

「証明書も不正、URLも紛らわしい。

 決済方法は暗号ギフトカードと匿名送金が“推奨”

 ……赤旗きけんしんごうだらけだ」


「……むむむ……」

 ぴこたんの瞳に葛藤が走る。

 そのとき――空気の温度が一段低くなった。


 スクリーンの王冠が、ぐにゃりと歪む。

 宝石の光が糸のようにほどけ、広場に黒い影が垂れ込める。

 笑い声――乾いた、薄く響く笑いが、頭上から降った。


「目が眩むだろう、筋肉の王。

 安さという冠ほど、人をひざまずかせるものはない」


 光の幕を裂いて現れたのは、絢爛な外套をまとった痩せた紳士。

 手には飴細工のように脆そうな王冠を掲げ、瞳はガラス玉のように冷たい。


「我は《幻冠商人クラウンディール》」

 紳士は滑るように宙へ浮き上がり、広場を見下ろして嗤った。

「偽りの栄光を被せ、真の価値を腐らせる者。

 さあ、幻を買え。半額だ。安いぞ。誰でも王になれる」


「出た、うさんくさいキャッチコピー!」ミミが叫ぶ。

「でも、あの王冠、見た目はすごく……」

「見た目はな」ルークが剣を抜く。

「問題は中身と証だ」


「ぴこたん!」リナが勢いよくぴこたんの耳を引っつかむ。

「いったん落ち着きなさい。

 偽物を買えば、被害者はあなた一人じゃない。

 本物を作る職人、正規に売る商人、みんな傷つくの」


「い、耳が伸びるぴこぉぉ……!

 でも、安さがオレを呼んでいるぴこ……!」


 クラウンディールが指を鳴らすと、空間に王冠の分身がぱっと咲くように増殖した。

 百、千、万。広場いっぱいに、見分けのつかない王冠が渦を巻く。

 どれもが金色に煌めき、そこに“半額”“限定”“在庫わずか”の赤札が踊った。


「どれが本物かわからない!」ミミが悲鳴を上げる。

「全部偽物だろう」ルークの声は低い。

「ただし、売るために必要なのは“本物らしさ”だけ」


 クラウンディールの笑みが深くなる。

「そう。人は見たいものを見る。

 欲しいものを欲しいと言ってくれる星を信用する。

 URL?証明書?保証?どうでもいい。半額だ、今だけだ、君に似合う」


 ぴこたんの喉が、ごくりと鳴った。

 光の王冠が、彼の頭上にふわりと降りる。

「似合うぴこ……似合うぴこ……」


「――ダメ」

 リナの声が硬く響く。

 彼女は帳簿から小さなスタンプを取り出し、虚空に押した。

 透明な波紋が広がり、分身の王冠の縁に微細な文字が浮かぶ。


「《正規流通印トレーサビリティ・シール》。

 正規品なら、職人番号、製作年、流通経路、保証期間が辿れる。

 見て、どれも――空白」


 王冠たちの表面に、ぽっかりと穴が開いたような無表示の欄が、無数にあらわになった。

 ルークが続く。

「《真正鑑定オーセンティック・ジャッジ》!」

 淡い青光が走り、レビューの吹き出しから投稿日の並び、

アカウントの新規作成ラッシュ、同文コピペが浮き彫りになる。

「証拠は揃った。これは幻だ」


「証、証、証――」クラウンディールが肩をすくめる。

「証を求める者が、半額に勝てるとでも?」


「勝てるわ」リナは一歩踏み出す。

「誇りで商いをしているから」


ルークが剣を構え直した。光の刃に、刻印の模様が淡く宿る。

ミミは空へ舞い、分身の王冠に《静電封じ》の粉を振るい、動揺を抑えにかかる。


「オレ……」

 ぴこたんは拳を握りしめ、目をつぶった。

 安さの甘い囁きが、耳の奥で糸のように絡みつく。

 今だけ、限定、君にこそ――


「……オレは、安さに負けたくないぴこ」

 ぱちり、と瞼が上がる。

「筋肉だって、正規の栄養と正しい鍛錬で積み上げるから輝く。

 王冠の輝きも、正しい価値でこそ本物ぴこ!」


 ぴこたんの体に、地の底から湧くような光が集まる。

 胸板の奥で、律動する鼓動がリズムへ、リズムが力へ変わる。


「必殺――《真価粉砕バリュー・クラッシュ》!!」


 地を踏み鳴らす一歩とともに、拳が空を裂いた。

 拳の先から迸る“正価”の衝撃が、分身の王冠たちに触れた瞬間、

金色の皮膜がベリッと剥がれ落ち、中身の安っぽい鉛が露出して、砕け散る。

 クラウンディールの外套がはためき、顔に初めて焦りが走った。


「馬鹿な……!欲望はいつだって価格で支配できるはず――!」


「価格は価値の影でしかない」ルークの刃が閃く。

「証なき影は、踏めば消える」


「そして“返金・返品不可”、“匿名送金のみ”――悪党の常套句だよ!」

ミミがくるりと宙返りし、粉で最後の分身を曇らせる。


「トドメ」

 リナが静かに印を押す。

《保証印章》が光り、クラウンディールの掲げる王冠の中央に空白の四角が穿たれた。

「あなたの商品には、保証がない。だから価値もない」


 ぴこたんの拳が、空白へ吸い込まれるように突き刺さる。

 クラウンディールの体が、ひとひらの金箔みたいに剥がれて散った。

 残ったのは、軽いため息のような虚空。


 広場に静けさが戻った。

 頭上のホロスクリーンは広告をやめ、夕暮れの街並みを映している。

 足もとには、砕けた偽物の欠片がさらさらと砂になって消えていった。


「助かった……」「買うところだった……」

 人々が胸を撫で下ろす中、リナはぴこたんの隣に並び、ふっと笑った。


「覚えておいて。

 偽物を買うと、損をするのは“あなたのお金”だけじゃない。

 職人の手間、文化の信用、正規の商売――ぜんぶ、細く削られていくの。

 お金は“ありがとう”の形。

 正しい相手に渡すからこそ、次の作品と仕事が生まれる」


「うむ……」ぴこたんは素直に頭をかいた。

「オレ、半額セールの魔力に弱すぎぴこ。

 でも、今日ちょっと強くなれたぴこ」


「強くなったのは筋肉では?」ルークがわずかに口角を上げる。

「両方だぴこ!」

「いい返し」ミミが笑った。

「じゃ、正規の屋台で王冠クッキーでも買って帰ろ?」


 おぬしは最後にリンクの残響を掃き出しながら、皆へ向き直る。

「URLの綴り、証明書、保証印、返品・決済条件

――ひとつでも妙なら、閉じること。

 “半額”は、確認が済んでからでも遅くない」


「うん」リナがうなずく。

「それと通関・関税を盾にした“追加請求詐欺”も最近多い。

 “関税が未払い、リンクから即時支払え”なんてのは、ほぼ偽。

 公式の案内を自分で確認してね」


「了解ぴこ!今日の“王の教訓”は胸に刻んだぴこ!」

 ぴこたんは拳をぐっと握り、胸に当てた。

 夕陽が筋肉と笑顔を橙に染める。

 王冠はなくとも――背筋は、まっすぐ。


――教訓まとめ――


今回は「偽ブランド通販」の回だったぴこ!

“半額”“限定”“今だけ”――甘い言葉ほど危険ぴこ。

キラキラ光っても、証がない輝きはただの幻ぴこ!


みんなも覚えておくぴこ!

1.派手広告+「半額・限定・在庫わずか」には要注意!

2.URLの綴り・証明書・会社情報・返品条件・決済手段を確認ぴこ!(匿名送金推しは赤旗ぴこ)

3.正規品は“辿れる”ぴこ! 刻印・鑑定書・保証印章・流通経路トレーサビリティで確認ぴこ!

4.レビューは買えるぴこ! 投稿日や文面が似てたら怪しいぴこ。

5.「関税未払い」を名目にした請求リンクは踏まないぴこ。公式案内を自分で調べるぴこ!

6.偽物は自分だけでなく、職人・商人・文化を傷つけるぴこ!お金は“ありがとう”の形――正しい相手に払うぴこ!


リナ「“半額”より“信頼”が本物の輝きよ」

ミミ「偽レビューより、ちゃんとした口コミのほうがずっと美味しい情報だもんね!」

ルーク「価値は証と誇りで立つ。剣も商いも同じだ」

ぴこたん「うむ!オレはもう半額に惑わされないぴこ!……ただし筋トレ器具のセールは別ぴこ!!」


ミミ「それも落とし穴だと思うよ」

おぬし「筋肉も値段も、正しい鍛え方が一番だな」


次回予告:

無料プレゼントを餌に“権限”という鍵束が狙われる。

懐中灯アプリが求めるのは、光か、それともあなたの住所録か――。

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