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脳筋戦士ぴこたん、今日もネットの罠に釣られる! 〜やらかすたびに強くなるリテラシー勇者冒険譚〜  作者: ぴこたん
第二章 実践編

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第29話 “タダ”の木馬――正規を装う侵入者

今日は、この後に閑話を公開するピコ。もし、お時間あったら是非目を通してほしいぴこっ!


 インフォシティの朝は、いつだって新しい誘惑で始まる。

 露店の呼び声、光る看板、更新されたばかりのサービスたち。

 その日、中央市場の一角に、人だかりができていた。


「最新ソフト・音楽・電子書籍、全部タダ!今すぐクリック!」

 半透明の幟が風もないのにたなびいて、

宝石みたいに輝くアイコンが次々自動で並び替わる。

 筋トレアプリ、作業用BGM、電子書籍のベストセラー、

さらには“筋肉増強レシピ全集”なる謎ファイルまで。


「おぉぉぉ!?

 タダで筋肉強化アプリが手に入るぴこ!?

 これ、オレのための市だぴこぉぉ!」

 ぴこたんの眼がキラッと光り、胸板が興奮で膨らむ。


 ミミは肩をすくめた。

「出たよ“タダ”に吸い寄せられる筋肉……。

 ねぇ、表示の作りが怪しくない?

 注意文が極小フォントで、ダウンロードだけやたら目立ってる」


「うむ」ルークが目を細める。

「規約への導線が細い。正規の露店は、対価と条件を堂々と掲げるものだ」


「一応、出所を見よう」

 おぬしは端末を掲げ、露店の看板をスキャンした。

 表向きは“フリーウェア集積所”。

 でも運営者情報は曖昧、所在地は雲の彼方。問い合わせ先は捨てアドレス。

 さらに、ファイル配布サーバは複層にリダイレクトされ、

最後は広告だらけの見知らぬドメインへ。


「薄い……どこまでも薄いな」おぬしがつぶやく。


「薄くても、筋肉厚くなるならOKぴこ!」

 ぴこたんは“筋肉増強レシピ全集(完全無料)”の大きなボタンに指を伸ばした。


---


 指先が触れた瞬間、アイコンの輪郭がにちゃりと歪み、影が一滴、床に落ちた。

 黒い雫はみるみる膨らみ、四つ足の木馬の形を取る。

 木目はひび割れ、内部で何かが蠢いている。


「ひっ……!」ミミが羽を震わせる。

「出た、トロイ!」


「《トロイの木馬》――便利そうに見える容れ物に悪意を仕込み、

 内側から侵入を図る古典の罠だ」おぬしが即座に構える。


 木馬はゆっくりと口を開け、中から小さな影

――針の指を持つ盗賊型の小魔物が、ぞろぞろと這い出してくる。

 紫がかった目は、ぴこたんの魔導端末を真っすぐ見据えていた。


「やめろぴこ!オレの端末に入るなぴこ!」

 ぴこたんは両腕を広げて庇おうとするが、小魔物は霧のようにすり抜け、

端末の画面にぺたりと貼り付く。


「やばい!」ミミが叫ぶ。

「見た目は“PDF”、“MP3”、“APK”でも、

 実体は実行ファイルかも!権限要求が来る前に切断して!」


「待て」ルークが剣を半ば抜いた。

「不用意な操作は相手の狙いだ。おぬし」


「わかってる――《隔離領域サンドボックス》!」

 おぬしが印を切ると、端末の画面に薄い結界が張られ、

貼り付いた小魔物たちが不満げに歯を鳴らす。

 木馬の腹からはさらに大きな影が鎌首をもたげ、漆黒の嘶きを上げた。


「無料、無料、無料――」

 木目の隙間から声が漏れる。

 低く、甘く、腹に響く、奇妙に魅力的な響きだ。


「無料に弱い心に寄生するのか」ルークが吐き捨てる。

「性根の浅ましさを抉る、下卑た術だ」


「ぴ、ぴこたんは浅ましくないぴこ!鍛錬好きなだけぴこ!」

 言いながら、ぴこたんはちらりと“完全無料”、“今だけ”、“限定”の文字に目を引かれている。

 木馬の囁きはさらに巧妙に、彼ひとりを狙う言葉に変わっていく。


「努力家の君へ。ご褒美だよ。君は特別だ。

 今クリックすれば、最強の体が――」


「ダメ!」

 鋭い声が市場の喧噪を切り裂いた。


 リナだ。

 商会の制服に帳簿を抱え、まっすぐこちらへ歩いてくる。

 その瞳は、露店の奥に潜む何かを正確に射抜いていた。


 「“タダ”をうたう裏には必ず裏切りがあるの。

 正規の流通を通さず無料でばらまくものは、

 作り手からも商会からも血を抜く。

 そして今日はそれだけじゃない――あなたの端末からも血を抜く」


 木馬が舌打ちのように蹄を鳴らす。

「商いの娘か。

 口を慎め。需要があるから供給がある、世の理だろう?」


「理じゃない。寄生よ」リナは一歩も退かない。

「正規の場でお金が回るから、次の作品が生まれる。

 “タダ見”“タダ取り”が広がれば、作り手は倒れる。

 市場は砂になって崩れる。

 そして――利用者の端末はあなたに食い荒らされる」


木馬は笑った。

「では証明してみせろ。

 これは“善良なフリーウェア”かもしれないぞ?」


 おぬしは頷き、結界越しにファイルの殻へ手を翳す。

 「では、開こう。《真正解析オーセンティック・ディスアセンブリ》」

 光の糸が木馬に刺さり、内部の構造が空中に展開する。

 拡張子偽装、権限昇格、外部C2(司令)への心臓線――

そして、おまけの“広告インジェクション”と“キーロガー”。


「ほらね」リナが短く言う。

「無料の皮を被った吸血」


 木馬の影が膨張し、露店の幕を押し倒す。

 市場の通路に黒い波が走り、客たちの端末へ小魔物が一斉に飛び移ろうとした。


「させない!」ミミが羽を打ち鳴らす。

「《拡散遮断ネット・ミュート》!」

 舞い散る粉が空気中のリンクを可視化し、黒い波に遮断線を引く。

 火花のような粒がぱちぱち弾け、流入が鈍る。


「それでも漏れる!」おぬしは歯噛みする。

「C2が多重化されてる。どこかに“本体”が――」


「本体はここだよ」

 木馬が背を裂き、中心から人影が姿を現した。

 仮面の下に笑みを貼り付け、黒檀の杖を持つ影――木馬偽装魔トロイアン

 木馬は彼の乗り物、そして彼自身もまた“容れ物”。


「表の顔は善良。裏には刃。私はそういう設計が好きだ」

 トロイアンが杖を振ると、木馬の残骸がガラクタの兵へと変わり、

関節の間からコードの束を垂らして突進してくる。


「来る!」ルークが前に躍り出る。

 剣の軌跡が白い弧を描き、ガラクタ兵の腕を斬り落とす。

 が、切り口からさらにミニマムなバグが湧いた。

「分裂か……厄介だ」


「分割インストール、サイドロード、

 ブラウザ拡張での常駐……複数の導線を持ってる」

 おぬしは展開図を睨む。

「正規ストアの署名も偽造してる。

 このままだと“見た目は正しい”にだまされる」


 リナが一歩進み、帳簿の帯封をほどいた。

 中から出てきたのは、商会の紋章が刻まれた小さなスタンプ。

 「――《正規流通印トレーサビリティ・シール》」

 彼女がハンコを空に押すたび、正規の配布元にあるべき署名、

 開発者ID、改ざん検知の値が、木馬の表面に“欠落”として現れていく。


「見て。

 正規のものは、誰が作り、どこから来て、どんな権利で配られているかが辿れる。

 あなたにはそれがない」


「うるさい」トロイアンの仮面の笑みがわずかに軋む。

「“欲しい”という気持ちがあれば十分だ。

 無料、今だけ、限定、あなたのため――それで人は走る。

 走れば、私は中に入る」


 ぴこたんは握り拳を作り、歯を食いしばった。

 胸の奥で、さっきの甘い囁きがまだ響いている。

「君は特別だ」「ご褒美だ」「今クリックすれば」――

そのたびに、筋肉が微妙に力を抜かれそうになる。


「……ぴこたん」リナが横に並んだ。声は柔らかい。

「特別かどうかは、君が何にお金と時間を払うかで決まるんだよ。

 タダで済ませることに誇りは生まれない。支払うって、感謝と責任の形なの」


「支払うのは筋肉でもOKぴこ?」

 半笑いのぴこたんに、ミミが即ツッコミ。

「重課金だわそれは」


 笑いの薄皮が緊張をほぐし、視界の色が戻る。

 ぴこたんは大きく息を吸い込んだ。

「わかったぴこ。タダほど高いものはない――

毎回言ってるのに、また忘れかけてたぴこ。

 筋トレだってプロテインだって、正規の栄養でコツコツ積むから力になる。

 なら、データも同じだぴこ!」


 トロイアンが杖を突き立て、木馬の残骸をさらに増殖させる。

「来い、囲め。選んだのは彼ら自身――無料を!」


「無料に鎖されるな!」ルークが吠え、剣を逆手に握り直す。

「《真正鑑定オーセンティック・ジャッジ》!」

 刃の光がコード束の根本を断ち、ミニ虫たちが煙のように霧散した。


 おぬしは結界の内側で最後の導線を追う。

「見つけた。《心臓線(C2)》を引き抜く――今だ!」


「合図、了解!」ミミが粉を打ち上げ、

「《リンク封鎖シンク・カット》!」

 空中の線がばちばちと切断され、トロイアンの仮面に小さなひびが走る。


「仕上げはオレだぴこ!」

 ぴこたんが一歩踏み込み、地面を鳴らす。

「正規で積む力以外、いらないぴこ。

 必殺――《マッスル正規ブレイク》!」


 拳が空気をうならせ、正面から木馬の胸板に叩き込まれた。

 正規流通印と鑑定の斬撃と、リンク封鎖の三重奏が共鳴し、

木馬の構造は一瞬で“容れ物”から“空虚”へと変わる。

 トロイアンの仮面が砕け、黒い煙が四散した。


「ぐ……ぉ……人は……タダに勝てない……」

 掠れた声は風に攫われ、静寂が市場へ戻ってきた。


---


 人々がはっと目を覚まし、端末からこびりついた小魔物が剥がれ落ちる。

 露店のテントは跡形もなく、代わりに正規のソフト屋台や音楽レーベルのブースが

ぽつぽつと光を取り戻し始める。


「助かった……」「危うく端末が……」

 ざわめく感謝の合間を抜け、リナは帳簿を一枚めくって確認し、ほっと息をついた。


「被害、最小限で済んだみたい。みんな、ありがとう」

 彼女はぴこたんの方を向く。

「さっきの言葉、忘れないで。“支払う”って、ありがとうを渡すこと」


「うむ!」ぴこたんは胸板をどん、と叩いた。

「マッスルもありがとうで育つぴこ!」


「栄養と睡眠と継続だよ」ミミが苦笑する。

「あと無料のリンクをむやみに踏まない」


ルークは剣を収め、静かにうなずいた。

「価値は、適正な対価を通じて守られる。

 剣に鞘が必要なようにな」


 おぬしは市場の上空に残る微かなノイズを一つずつ落としながら言った。

「正規のストア、

 公式配布、開発者の署名、権限の確認――きちんと通れば危険は減る。

 “無料”を掲げるもの全てが悪ではないが、“辿れない無料”は疑え」


リナは微笑んだ。

「また市場で変な露店を見かけたら、商会にも知らせて。きっと手を打てる」


「了解ぴこ!まずは正規の“筋肉レシピ本”を買いに行くぴこ!」

「それは普通にいいやつ」

 笑いながら、四人は朝の市場を抜けた。

 陽は高く、看板の光は透明度を増し、露店の香ばしいパンの匂いが腹を鳴らせる。

 “タダ”の甘い囁きよりも、今日の昼食の方がよっぽど魅力的に思えた。


---


――教訓まとめ――


今日は「“無料”をうたったダウンロード詐欺」がテーマだったぴこ!

“タダ”の誘惑の裏には、しっかり牙を隠した木馬が潜んでいたぴこ……!

見た目がきれいでも、出所が辿れないものは要注意ぴこよ。


みんなも覚えておくぴこ!

1.出所・署名・権限を確認!正体のわからない“無料”は疑うぴこ。

2.トロイの木馬に注意!便利な見た目でも中身は悪意かもしれないぴこ。

3.公式ストア/開発元サイトから入手!アップデートも必ず正規ルートでぴこ。

4.不審ファイルはサンドボックスへ!安易な実行は危険ぴこ。

5.対価は“ありがとう”の形!お金を払うことで作品も文化も守れるぴこ。


ミミ「“タダ”って言葉が一番高くつくんだよね」

ルーク「価値は正しき流れに宿る」

リナ「支払うことは、信頼と感謝の証なの」

ぴこたん「筋肉もアプリも、正しいルートで育てるぴこぉぉ!」


次回予告:

星の数ほど並ぶ“満点レビュー”。

だが、その輝きは本物か、それとも買われた信頼か――?

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