第3話 伝説の冒険者の“秘密のプロテイン”を拡散したら街ごとデマ祭りになった件
インフォシティの夜。
街の中心にある大きな酒場《バイト亭》は、今日も冒険者や商人でにぎわっていた。
テーブルには山盛りの肉、ジョッキには泡立つ酒。笑い声と剣の金属音が入り混じる、混沌とした活気に包まれている。
その片隅で、ひときわ目立つ巨体があった。
分厚い胸板はまるで鋼鉄を積み上げたかのように隆起し、肩から背にかけて走る筋肉は縄のようにねじれている。背に背負う大剣が霞むほど、本人の肉体が武器そのものだった。
赤い兜には、なぜか小さな角の飾り。威圧感とは裏腹に、どこか愛嬌を漂わせている。
そして彼は豪快に笑いながら、泡立つ大ジョッキを高く掲げた。
「ぴこぉ〜!今日も筋肉は裏切らんぴこ!!」
その笑顔は、戦場では敵を震え上がらせ、酒場では仲間を安心させる――脳筋戦士ぴこたん、その人である。
「おぬしぃ〜!聞いたか!?すっげぇ情報を仕入れたぴこ!」
マッスルポーズを決めながら、ぴこたんは自信満々に声を張り上げた。
その顔は興奮で真っ赤になり、目はギラギラ輝いている。
「なになに、今度はどんな珍情報だ?」おぬしは眉をひそめる。
ぴこたんは身を乗り出して囁いた。
「伝説の冒険者バルド……知ってるぴこよね?」
「ああ、“一撃の巨人殺し”と呼ばれるあの剣豪か」
「そのバルドが!実は《秘密のプロテイン》を飲んで強くなったらしいぴこ!
飲めば筋肉が爆発的に成長して、オレもマッスル神になれるんだぴこおおおぉぉ!!」
「……出たよ」おぬしは頭を抱えた。
「また根拠のない噂を信じ込んでるな」
だがぴこたんは耳を貸さない。
興奮冷めやらぬ様子で魔法SNS《ツイッ塔》を開き、書き込みを始めた。
「よっしゃー!今判明!伝説の冒険者バルドは秘密のプロテインで最強になった!
オレも明日から飲むぴこぉぉ!!」
投稿完了。満足げな笑み。
「これでオレのフォロワーも爆増ぴこぉぉ!」とぴこたんは胸を張った。
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数分後――
《ツイッ塔》の画面が爆発的に光り始めた。
「それどこで買えるの!?」「本当なら欲しい!」「リンクを教えて!」
コメントが洪水のように押し寄せ、街の冒険者たちがざわつき始めた。
「おい、秘密のプロテインって本当にあるのか?」
「俺も飲みたいぞ!」
「見た目は怪しいけど……バルドが使ってるなら間違いない!」
ざわめきは次第に熱狂へと変わる。
酒場を飛び出した冒険者たちは街中を駆け回り、商品を探し始めた。
その隙を突くように、裏路地から黒い影が現れる。
「へっへっへ……これが例のプロテインだよ!」
影の商人たちが、粉末の入った怪しい瓶を売り出したのだ。
欲に目がくらんだ冒険者たちは次々と財布を差し出す。
「……ぴこたん、お前のせいで大変なことになってるぞ」
「え、えぇぇぇ!? オレまだ飲んでないのに!?」
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やがて――
黒い煙が酒場の屋根を覆い始めた。
それは人々のざわめきが集まり、形を成していく。
ずるり、ずるり……。
現れたのは、半透明の巨体。
体中に無数の口が浮かび、それぞれが勝手に喋っている。
「みんなが言ってる!」
「絶対本当だ!」
「あの人も使ってるんだって!」
声はひとつではなく、何十人もの合唱のように耳を塞ぐ。
顔は定まらず、時に有名冒険者の顔に、時に仲間の顔に、次々と変化する。
背中からは新聞の切れ端やSNSの吹き出しが羽根のように舞い落ち、見る者の心を惑わせた。
――デマの魔物、《ルーモラス》。
「ククク……愚かな戦士よ。お前の言葉がワシを育てたのだ!」
「ひぃぃぃ!?オレのマッスル発言が化け物になってるぴこぉぉ!」
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ルーモラスが大きく息を吸い込むと、吐息と共に街中へデマがばら撒かれる。
「プロテインは一晩で筋肉十倍!」「飲むだけで勝てる!」
嘘の言葉が黒い煙となって人々に絡みつき、冒険者たちはさらに錯乱していった。
「だめだ、これ以上広がったら街が崩壊する!」おぬしが叫ぶ。
ルークは剣を構えながら説明する。
「デマは根拠もなく広がり、人を惑わし、被害を拡大する! 裏付けを取らぬまま広めるのは愚かだ!」
「そうそう、特に“有名人が使ってる”ってのは、みんな弱いんだよねぇw」ミミが皮肉っぽく笑った。
ぴこたんは頭を抱える。
「オ、オレが広めたせいで街が混乱してるぴこぉぉ! どうすればいいんだぴこぉぉぉ!!」
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ルーモラスがにやりと笑い、無数の口から一斉に声を放つ。
「お前が言ったことだろう? “秘密のプロテイン”! ワシはその噂で力を得た!
つまりワシは……お前そのものだ!」
「ぎゃああああああ!!オレのマッスル投稿がぁぁぁ! 嘘パワーになってるぴこおおぉぉ!!」
黒い煙の腕が伸び、ぴこたんを絡め取る。
彼の体はじわじわと嘘の言葉に飲み込まれていった。
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「ぴこたん!思い出せ!」おぬしの声が響く。
「信じる前に確認するんだ!“誰が言っているか”“証拠はあるか”を見極めろ!」
「そ、そうだ……!」
ぴこたんの目に光が宿る。
「オレは……ちゃんと確かめるぴこ!今度こそ……裏付けを見るぴこ!!」
全身に力を込め、叫ぶ。
「必殺――《真実照明》!!!」
その瞬間、ぴこたんの剣が光に包まれた。
眩い光はルーモラスの体を貫き、無数の口が次々と閉じていく。
「ぐわあああ! 真実の光など……聞きたくないぃぃ!!」
嘘の言葉は黒い煙となって消散し、街を覆っていた不穏な空気も晴れていった。
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酒場の前。混乱していた人々も正気を取り戻す。
「やっぱりそんなプロテインは存在しなかったのか……」
「噂に踊らされただけか……」
ぴこたんはがっくり肩を落としながらも、拳を握りしめた。
「オ、オレ……これからはちゃんと調べてから話すぴこ……! 二度とデマを広めたりしないぴこ!!」
ミミはクスクス笑いながら肩を叩く。
「ホントかね〜? 次は“マッスル神が降臨した”とか言って広めるんじゃないの?」
「う、うぐっ……でも……がんばるぴこ!!」
ルークは真剣な眼差しで言った。
「忘れるな。デマを広めるのは、炎を撒くのと同じ行為だ。街も仲間も焼き尽くす。
だからこそ、広める前に一度立ち止まるのだ」
「そうだな」おぬしが頷いた。
「情報は力だ。だが、力は正しく使ってこそ意味がある。
これからは――ファクトチェックを忘れるなよ、ぴこたん」
「うむ!オレは“真実のマッスル戦士”になるぴこおお!!」
……その直後。
ぴこたんの足元に、またもや一枚の巻物が落ちてきた。
『緊急速報!マッスル一週間で三倍になる裏技!』
「な、なんだと!?これは本物かもぴこ!?……って危ないぴこ!?ぴ、ぴこぉぉ!!」
「懲りてねぇー!!!」
笑い声とツッコミに包まれ、第3話は幕を閉じた。
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――教訓まとめ――
今日は「デマ拡散」がテーマだったぴこ!
オレ様ぴこたん、伝説の冒険者バルドが“秘密のプロテイン”で強くなったって噂を、何も確かめずに拡散しちゃったぴこ……。その結果、街中が大混乱して、デマの魔物まで現れる大惨事に!
でも大丈夫ぴこ!みんなも覚えておくぴこ!
1.「有名人が言ってる」だけじゃ信用できないぴこ!
2.情報は誰が言ってるか、証拠はあるかを必ず確かめるぴこ!
3.デマを広めるのは炎をばらまくのと同じ。被害者が出る前にブレーキを踏むぴこ!
これさえ守れば、ルーモラスの黒い煙に飲まれずに済むぴこ!
ミミ「……でもぴこたん、巻物が落ちてきた瞬間に目キラキラさせてたけど?」
ルーク「学んだことを行動で示せ。真実を照らす光は“確認する心”だ」
ぐぬぬ……オレ様、筋肉だけじゃなく冷静さも鍛えるぴこ!
次回は“パスワード使い回し”の迷宮に挑む予定ぴこだから、絶対見逃さないでほしいぴこ!




