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脳筋戦士ぴこたん、今日もネットの罠に釣られる! 〜やらかすたびに強くなるリテラシー勇者冒険譚〜  作者: ぴこたん
第二章 実践編

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第22話 スカウト魔《ラザール》――登録料先払いと口座貸しの罠

ついに新しい仲間が登場ぴこぉぉぉ!


 インフォシティの南区、就労掲示板エリアは、昼も夜も光を失わない。

 浮遊するホロ看板には

「高時給!」「未経験歓迎!」「誰でもできるカンタン作業!」の文字が踊り、

通りすがるアバターの視界に柔らかく吸い込まれていく。

 その雑踏の中、質素な僧衣に深いフード、腰には巻物を何十本も提げた青年が、

両手を揃えて掲示に向かっていた。

 巻物には「経歴」「資格」「日々の精進」と達筆で記されている。


「拝見いたします……ありがたい求人でございます」

 声はまっすぐ、瞳は澄んでいた。彼の名は《就活僧カリヤ》。

真面目なほどに疑わない、まっすぐな求道者だ。


「おぬし〜、あの僧、求人にお祈りしてるぴこ」

「“お祈り”は企業の方から来るやつだよ」ミミが肘でつつく。

「彼、まっすぐ過ぎるな」ルークが静かに呟く。

「刃こぼれする前に鞘に戻す術も必要だ」


ぴこたんは胸を張って近づいていった。

「よう、就活僧!

 筋肉の国から来たぴこたんだぴこ!

 困ってるなら、オレが――」

 言い終える前に、カリヤが深々と頭を下げた。

「初対面にて失礼を。わたくしカリヤ。

 働き口を求め、精進を重ねております。

 ちょうど良さげな募集を見つけまして……

 “誰でもできる、らくらく高収入”との由。ありがたきご縁……」


 ぴこたんの眉がぴくりと跳ねる。

 「“誰でもできる高収入”……筋肉センサーが鳴ってるぴこ」

 おぬしは掲示の詳細を開いた。

 募集主は《スカウト魔ラザール》。

 黒いスーツのシルエットに獣耳のマスク。

 募集内容は曖昧で、仕事内容の具体がない。

 「月◯◯万可」「在宅OK」「面接不要」「まず登録料を払えば優先紹介」

 ――赤旗きけんしんごうが列を成していた。

「登録料先払い?」ミミが目を丸くする。

「はい詐欺フラグ」

「口座を貸せばボーナス?」ルークが鼻で笑う。

「犯罪の片棒だ」


 その時、横から軽い声が差し込んだ。

「最近、そういうの増えてるの。気をつけてね」

 振り向くと、情報商会の制服を着た若い女性が、

 大きな帳簿を抱えて足早に通り過ぎるところだった。

 栗色の髪、瞳は忙しさの奥で鋭い。

「商会のリナだ」おぬしが囁く。

「掲示板の管理にも顔が利く。……でも行っちゃったね」

 彼女は振り返って小さく微笑み、

「困ったら商会の窓口に」とだけ残し、人波に紛れて消えた。薄い香りと、紙の音の余韻を残して。


---


「わたくし、登録料の件は“投資”と心得て……」

「待ったあぁぁぁ!」ぴこたんの声が響く。

「投資じゃないぴこ!それは“入口で金取る罠”ぴこ!」

 カリヤはきょとんと瞬きをした。

「しかし“自分を試すための捨て金”も修行と――」

「修行はタダの崖じゃないよ」ミミがため息をつく。

「ロープ張らずに飛ぶのは修行じゃなくて自殺行為」


おぬしは端末を掲げる。

「募集要項に“具体的な仕事内容”がない。

 契約条件も曖昧。登録料・保証金・教材費の先払いを要求。

 個人情報――口座番号や身分証――の提出を急がせる。

 これらは典型的な赤旗だ」

「うむ」ルークが頷く。

「真っ当な雇用は、剣の鍔のように細部が堅い。

 細部が曖昧な剣は、握ると手を切る」


 そのとき、掲示板の光が一段強くなった。

 人混みが割れ、黒スーツの影が滑るように現れた。

「やぁやぁ、若き志願者たち」

 《スカウト魔ラザール》が歯の浮くような笑みを浮かべ、

一枚の“求人票”を空中で翻す。

「君、まじめだね? まずは登録料を払ってくれれば、

 特別に未公開の高収入案件を紹介しよう。

 口座も貸してくれれば、ボーナスも付けようじゃないか。

 うん? 何も心配はいらない。皆やってる、カンタンさ」


 カリヤが胸元の巻物をぎゅっと握る。

「口座を貸す……

 わたくしの口座が、お役に立つのであれば」

「ダメだってば!」ミミが叫ぶ。

「口座貸しは“マネーミュール”っていって、

 犯罪の受け皿になる危険な行為!

 最悪、共犯扱いで人生詰む!」

「人生詰むのはやだぴこ!」ぴこたんがカリヤの袖をつかむ。

「カリヤ、君の巻物は汗の結晶ぴこ!闇金に沈めるなぴこ!」


 ラザールは肩を竦めた。

「情熱的だねぇ。じゃあ、証拠を見せようか」

 指が鳴らされ、空中に“成功者の声”が次々と浮かぶ。

 《初月で◯◯万!》《誰でもできた!》《自由な暮らしを!》

 だが、そのレビューの端にうっすらとノイズが走っている。

 コピー&ペーストの手癖、同じ誤字。新規作成のアカウント群。


「水増しレビュー」おぬしが唇を歪める。

「同じ指で打たれた“複数の声”だ」

 ラザールの笑みが僅かに尖る。

「細かいことを。じゃあ、もっと“実感”を」

 彼が掲げた求人票が闇色に滲み、薄い札となって宙を旋回し始めた。

「《勧誘札スカウトタグ》。

 触れた者の“履歴”を読み取り、相性の良い甘言を吹き込む」

 札は風に乗って舞い、誰もが欲しがる言葉

 ――「採用」「即日」「高収入」――を、耳元の距離で囁く。


 一枚がカリヤの頬に当たる。

 札は薄皮のように貼り付き、巻物の表面から情報を吸い上げていく。

「やめてください……!」カリヤの声が震えた。

「ぼ、僕の修行は……」

「素晴らしい経歴だ。すぐにでも稼げるよ。まずは登録料だね?」

 甘い声が、札の中で何度も重なり、意思を削る。


「カリヤ!こっちだ!」ぴこたんが叫び、札に手を伸ばす。

 ラザールの指が弾けると、札の群れが刃のようにぴこたんへ殺到した。

「筋肉で防ぐぴこ!」

 ぴこたんは両腕で札を受け止め、歯を食いしばる。

 紙切れのくせに、心の奥に直接、疲労と焦りを注ぎ込んでくる。


 ルークが一歩踏み出し、剣を半ば抜いた。

「《契約処断コントラクト・スプリット》」

 刃先の光が札を裂き、露わになった文字列

――細かい“但し書き”と“免責”、“外部決済”の導線――が宙に舞う。

「見ろ、細字の地獄だ。

 『成果報酬』と見せかけて教材販売、

 『面接不要』の裏で口座貸し。

 “登録料”は入口で搾る常套手段だ」


 おぬしは両掌を掲げ、白い輪を三つ出した。

「《真実照明ファクトライト》、

 《鏡追跡リバースサーチ》、

 《契約紋解読(ToSリーディング)》」

 白光がレビューの出自を照らし、盗用の素材が浮かび、

規約違反の条文に印が付く。

 ミミは人垣に向かって声を放った。

「みんな、聞いて!

 “条件が具体的に書かれてない求人”は要注意!

 “登録料・保証金・教材費の先払い”は危険!

  個人情報の過剰要求は拒否! 公式の求人経路を使って!」

 ざわめく群衆の何人かが足を止め、目の前の“高収入”の文字から視線を外す。


「おっと、邪魔はいやだね」ラザールの笑みが剥がれる。

「ならば直接、履歴を買い取らせてもらおう」

 彼の背後に黒い“入力フォーム”が開き、

メール、電話、住所、口座、身分証の項目が点滅し始める。

「今入力すれば“採用確定”だ。君の未来は保証しよう」


 カリヤの指が、ふらりと動いた。

「カリヤ、ダメだ!」

 おぬしの声が突き刺さる。

「“保証”と言う者ほど保証しない。

 保証を語るのは契約で、口約束ではない」

 ぴこたんは札の束を引きちぎりながら、叫んだ。

「耳ふさげ!目を閉じろ!

 その代わり、オレの声を聞けぴこ!

 君の口座も、身分証も、君の“身体”の一部ぴこ!

 渡しちゃダメぴこ!!」


 一瞬の沈黙。

 カリヤの手が止まり、彼は深く息を吸った。

「……わたくしの身体。

 そう、修行は他人に預けるものではない。――拒みます」

 彼は胸の巻物を解き、太筆で空に一文字を書いた。

「拒」

 文字は光となり、貼り付いた札を弾き飛ばす。


 ぴこたんは立ち上がり、全身に力を込めた。

「仕上げ行くぴこ!

  必殺――《鎖断拒絶リジェクト・チェイン》!」

 重く太い光の鎖が、入力フォームへ繋がる黒い導線を束ね、ねじ切った。

 ラザールのスーツの裾がはためき、仮面の奥の目が細くなる。


「君ら、よくも……甘い言葉に釣られぬ者など、世にどれほどいる」

「十分にいる」ルークが静かに言う。

「中身を見ようとする者は、思ったより多い」

おぬしは監視印を掲げた。

「通報完了。

 規約違反と詐欺行為の疑いで、掲示の凍結要請を上げた。

 商会の窓口経由でエスカレーション済み」


 画面に「審査中」「掲載停止」の印が次々灯り、

ラザールの掲示は一枚、また一枚と闇へ沈む。


「覚えておけ。甘い夢は、歯に絡む砂糖だ」

ラザールは最後に吐き捨て、影の端へ溶けた。


---


 人熱ひといきれが少しずつ引き、風が通った。

 カリヤはその場に膝をつき、深く頭を垂れた。

「皆様のおかげで、道を誤らずに済みました。

 わたくし、恥ずかしながら“疑う”ことが修行だと知りました」

「疑うは悪じゃない」おぬしが穏やかに言う。

「確かめる勇気は、誠実さの一部だ」


「修行僧、筋肉の道は険しいぴこ。

 だが、入口で金を取る道は崖へ続くぴこ」

 ぴこたんが親指を立てる。

 ミミは微笑んだ。

「カリヤ、公式の求人から探そう。

 企業情報の確認、条件の具体性、面談・書面のやりとり。

 わかるまで一緒にやるから」

 ルークが短く言う。

「身分証・口座は、剣と同じ。

 不用意に人手に渡すな。

 渡す先が正しい“鞘”か、確かめろ」


 遠く、さっきのリナが再び視界の端に現れた。

 彼女は短く手を振り、

「今度、商会で“求人見抜き講座”をやるの。時間があれば来て」とだけ残し、すぐに雑踏へ。

 ほんの一瞬のこと。

 だが、その声は確かな“次への予告”の手触りを持っていた。


 カリヤは目を上げ、深く頷いた。

「よろしければ、わたくしも、皆様の旅に同行させてください。

 働き口が見つかるまでは、せめて役に立つ巻物を書きましょう」

「歓迎だ」おぬしが手を差し出す。

「筋肉にも写経は効くぴこ!」

「それは違う」

 いつものツッコミが帰ってきて、四人の輪に新しい影が加わった。


 就労掲示板の光は、少し柔らかく見えた。

 甘い誘いは、まだ、消えない。

 けれど――確かめる眼と、隣で止めてくれる声があれば、足は崖から一歩、遠ざかる。


---


――教訓まとめ――


今日は「アルバイト詐欺」の回だったぴこ。

まっすぐな就活僧カリヤ殿が、スカウト魔ラザールの“甘言”に絡め取られかけたけど、確かめる勇気で切り抜けたぴこ。入口でお金や個人情報を吸う手口――


みんなも覚えておくぴこ!

1.仕事内容が曖昧=赤旗。 条件が具体的に書かれていない募集は避けるぴこ。

2.登録料・保証金・教材費の“先払い”は禁止級。 入口で金を取る道は崖行きぴこ。

3.口座貸し=マネーミュール。 最悪、共犯扱いで人生が詰む危険ぴこ。

4.身分証や口座情報は“身体”と同じくらい大事。 不用意に渡さないぴこ。

5.レビュー水増しに注意。 新規アカ群、同じ誤字、テンプレ文は偽装の匂いぴこ。

6. 応募は公式経路から。 企業の実在(所在地・責任者)と、契約の“書面”を必ず確認ぴこ。

7. 不審なら触れない・記録する・通報する。 スクショとURLを残して、窓口へ。


ミミ「“疑う”は悪じゃないよ。確かめるのは誠実さの一部」

ルーク「細部の堅さが剣を守る。契約も同じだ」

おぬし「甘い言葉ほど、根拠と書面を求めよう。そこで本性が出る」

身分証と口座はマッスル級に大事ぴこ!渡さないぴこ!


次回予告:

働き口の甘言から、今度は心に寄り添う囁きへ。

“偶然の出会い”が差し出す優しさは、本当にあなたのためか――感情を担保にする取引の見抜き方を、一緒に磨くぴこ。

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