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脳筋戦士ぴこたん、今日もネットの罠に釣られる! 〜やらかすたびに強くなるリテラシー勇者冒険譚〜  作者: ぴこたん
第一章 基礎編

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第9話 アーカイヴ聖堂の決断――ベアメタル鏡写しとVM転位(後編)


「時間がない」

おぬしは鏡に触れ、口早に指示を飛ばす。「まずは“黄金街区の商人台帳”を隔離領域のVMで起動、整合が取れたら書き戻し。ギルドの契約記録は昨日の増分を優先。市民写真庫は直近1週間の増分だけ先行、残りは後で追いかける」


「曲芸みたいね」ミミが舌を鳴らす。「でも、やるっきゃない」

ルークが剣を納め、代わりに聖堂の柄杓を持つ。「邪魔が入れば、私が盾になる」


ぴこたんは胸を張った。「オレも運ぶぴこ!おぬし、何でも言うぴこ!」

「言ったな?じゃあ――“P2V転位陣”を踏め」

「ぴーつーぶい?ピーーーー!?」

「Physical to Virtual、つまり“現実の箱から仮想の器へ魂を移す”ってことよ」ミミが笑う。


おぬしは鏡面に手をかざし、詠唱する。

「《鏡写し(イメージ)呼び出し》――時刻、六の鐘の後、完全写し。《別器召喚(VMスタンドアップ)》――黄金街区ノード、三系統冗長、開始」


鏡の奥で、小さな街が瞬き、縮尺の違う“もう一つの黄金街区”が立ち上がっていく。屋台、会計石、看板――すべてが細部まで再現され、微細な差異まで揺らぎの中に吸い込まれてゆく。


「ぴこぉぉ……ミニチュアの街が起動してるぴこ!かわいいぴこ!食べたいぴこ!」

「食べないで」ミミが即ツッコミ。


鏡の縁から伸びた細い糸が、遠隔保管庫へつながる。3つの別ルートだ。

ひとつは山上のオフサイト、ひとつは地下の冷庫オフライン・イミュータブル、ひとつは他都市のアーカイヴ(越境保管)。

「3-2-1の掟」ルークが呟く。「3つの写しを、2種類の器に、1つは街の外へ」


ロストリーパーの影が、聖堂の窓を這った。

「戻るは許さぬ。消えよ。忘れよ」


聖堂の結界が軋む。

おぬしは声を張り上げる。「《検証起動テストリストア》――黄金街区VM、健全性チェック!《整合コンシステンシ》、《差分適用インクリメンタル》、《点在補完リハイドレート》!」


鏡の中で、帳簿がページを閉じたり開いたり、値が整列したりする。

「……よし、合格」おぬしは汗を拭った。「では、本番だ」


---


最初の書き戻しは“会計の心臓”から。

黄金街区の商人台帳が、仮想器の中で鼓動を取り戻す。同時に市中の本物の台帳へは只今は穴埋め用の影を残し、直結は避ける。ロストリーパーの舌が、結界の外でべたりと窓を舐める音がする。


「《投影フェイルオーバー》開始」

鏡の中の数字が、光の粒となって本物の台帳へ飛び移る。結界の内側で“仮想の街”がしばし本役を務め、外の侵食が弱まるのを待つ。

ロストリーパーがわずかに顔をしかめた。「戻る……だと……?」


「戻るぴこ!オレたちは戻れるぴこ!」

ぴこたんが拳を握る。「消されても、マッスルは復活するぴこおお!」


ミミが素早く手を動かし、新しいVMを数基立ち上げていく。

「差分は小さいうちに集めて織り込む!“増分連打→定期的に完全像”、これがコスパ最強!」

「言い方よ」おぬしが苦笑する。「でも正しい」


ロストリーパーが両手を広げた。

「ならば――存在そのものを食らい尽くす」

黒い靄が床を這い、聖堂の礎石にまで届く。その先に置かれたのは、市民写真庫の“生の記録石”。

ミミが叫んだ。「あそこは直結運用!守りが薄い!」


「行く」ルークが短く言って駆けだす。だが影は速い。

ぴこたんが叫ぶ。「ミミの写真、守るぴこ!」

「ちょっと、わたしのって言い方!」


おぬしは鏡へ手を伸ばす。「《無垢復元ロールバック》!写真庫、直前の完全像を“別器へ”!

 元器は凍結フリーズ!」

「了解!」ミミが返事をするのと、ロストリーパーの靄が記録石に触れるのは、ほぼ同時だった。


白い火花が散り、記録石の面が一瞬で曇る。

――が、曇りは広がらなかった。

鏡の中から“もう一つの写真庫”がすべり込み、元器の前に影身を立てて受け止める。


「写真は影身が持った。元器はフリーズ、侵食の進行は――止まった」

「はぁぁ……助かった……」ミミは胸に手を当て、涙を吸い込む。「ありがと」


ロストリーパーの口が、僅かに歪む。

「戻すなど――無意味。いずれまた消える。器が壊れれば、全て終わる」


おぬしは静かに首を振る。

「器は取り換えればいい。イメージがあれば、“どこへでも”帰れる。

――ベアメタルの鏡写しに、場所の制約はない」


---


侵食の波はなお弱まらない。

おぬしは呼吸を整え、鏡に“叫ぶ”のではなく“語りかける”速度へ落とした。焦れば繋ぎ間違える。復旧は力業ではない。手順だ。


「順序で行く。

一、遮断――侵食の流入を止める。

二、隔離――健全と汚染を分ける。

三、代替起動――仮想の器で立て直す。

四、整合/検証――狂いを直し、戻せる準備を固める。

五、書き戻し――元に帰す。

六、更新――二度と同じ穴を開けぬ」


ルークが頷く。「盾も剣も、所詮は“手順”の具現だ。乱れれば、勝てぬ」


ぴこたんはこくこくと頷きながら――だが次の瞬間、口をあんぐり開いた。

「お、おぬし!マッスル年鑑は!?オレの“年間ベストポーズ集(上半期)”は戻るぴこ!?」

「優先度……低」ミミが即答。

「高にしてぇぇぇ!!」

「冗談はさておき」ミミは指を走らせる。「写真庫は直近一週間の増分が先、古いのは後から。RPO(どこまで戻すか)とRTO(どれだけで戻すか)は“命の重さ”順ね」

「言葉が急に難しいぴこ……でも筋肉的には分かったぴこ!」


「分かってない顔だな」ルークとおぬしが同時に言い、全員が一瞬だけ笑った。笑いは、焦りの刃を鈍らせる良い魔法だ。


---


ロストリーパーが最後の賭けに出た。

「戻す者たちよ。ならば、お前“自身”を消す」

影が伸び、アーカイヴ聖堂の根――鏡そのものへ指を差し込む。


鏡面が波打つ。

背骨に冷たいものが走った。鏡が落ちれば、復旧は途絶える。


「……ならば――鏡の“影”で戦う」

おぬしは低い声で言い、祭壇の裏へ手を差し入れた。そこにあるのは、普段は封じられている副鏡。

「本鏡の影写し。イミュータブル(不変)――書き換え不能の鏡だ。普段は眠っているが、切替はできる」


「そんなのがあったのか!」ミミが目を丸くする。

「めったに使わない。戻すための最後の保険だ」

「保険、か……」ルークが呟く。「盾の裏に、もう一枚の盾を」


おぬしは印を結ぶ。「《鏡切替フェイルオーバー・セカンダリ》副鏡、オンライン!本鏡は《乾坤一擲ドレイン・フラッシュ》して休ませる!」


光が走り、聖堂の空気が一瞬だけ澄み渡る。本鏡から副鏡へ、流れが滑らかに移る。ロストリーパーは指を差し込んだまま、わずかに呻いた。

「……切り替え……だと……?」


「こっちは不変の鏡。お前の汚れは、滑り落ちる」

おぬしは鏡へ視線を戻し、残りの“戻し”をまとめて走らせた。


「《全域投影ワイドフェイルオーバー》!契約記録、商人台帳、市民写真庫――“仮器”で回り続けろ!

 《差分集約》、《三点検証》、《正法印》!」


聖堂の床下で鈍い音が鳴り、回路が一つ、また一つと閉じる。

外の街では、閉じていた店が明かりを灯し、人々の顔に色が戻る。誰かが泣きながら帳簿を抱きしめ、誰かが写真を胸に押し当てる。遠くで鐘が鳴った。


ロストリーパーが一歩退く。

「戻す……戻す……戻してしまう……」


「戻すさ」

おぬしはまっすぐ影を見た。「復旧は、“壊れない”よりも強い。壊れても立ち上がれるのが、私たちの強みだ」


ぴこたんが吠える。「壊れても、マッスルは再生するぴこおお!《復活の鏡写し》ッ!!」

彼の叫びに応じるように、鏡面から光の筋肉(※イメージ)がどどんと隆起――しかけたが、ミミが全力で抑えた。

「演出いらない!」


ロストリーパーは最後に、ひゅうと風のような声を残した。

「記録は……美しい。だからこそ……美味だ。……だが――今日は引こう」

影は霧に散り、白い砂に溶けた。


---


外へ出ると、空はもう青さを取り戻していた。

市場は半分笑い、半分泣いている。消えたものもある。戻せたものもある。戻りきらなかったものは、これから少しずつ織り直す。


「ふぅ……」ミミが腰に手を当て、空を見上げる。「ねえ。今日、助かった理由、ちゃんとみんなに伝えよう」


おぬしは頷いた。「写していたから助かったんじゃない。戻せたから助かったんだ。

“保存”と“バックアップ”は違う。復旧できてこそ、安心になる」


ルークが続ける。「そして“写し方”も肝要だ。全体像フルを定期に、間は増分(差分)で。写しは三つ、器は二種類、一つは街の外。3-2-1だ」


ミミは指折り数える。「ベアメタル鏡写しで“魂”をまるっと写す。復旧のときは別の器(VM)でまず立ち上げる。P2V転位とかV2Vも使って、場所に縛られず復活。

あとは――定期的に“戻す演習テストリストア”。やってなきゃ今日みたいに滑らかには動かない」


ぴこたんは真剣な顔で頷いた。

「覚えたぴこ。“壊れない”筋肉より、“何度でも起き上がる筋肉”。それがオレの――いや、オレたちの強さぴこ!」


「名言っぽい」ミミが笑う。

「っぽい、じゃない。名言だ」ルークが珍しく即同意した。


そこへ、小さな男の子が駆け寄ってきた。

「おじちゃん、ありがとう。ぼく、あの写真すごく大事だったんだ」

彼の手には、古びた犬と写った一枚の写真。昨日も一昨日も見た、いつもの笑顔。戻ってきた笑顔だ。


ぴこたんは不器用に頭をかく。「ぴ、ぴこ……おう。よかったぴこ」

おぬしは目を細めた。

――それで充分だ。どんな教科書よりも、今日のこの一枚が、街に“復旧の価値”を刻む。


---


夕焼けが、インフォシティの石壁を赤く染める。

アーカイヴ聖堂の前で、四人は並んで腰を下ろした。風は優しく、いつもより少しだけ暖かい。


「さて」おぬしは冗談めかして言う。「今日の反省会――“復旧Runbook”を清書しておくか」

ミミが手を挙げる。「はいはい、わたし“演習の頻度”を短くしたい。月イチ→週イチに」

「資金源は?」ルークが眉をひそめる。「演習コスト......」

「焼肉で相殺!」ぴこたんが即答。

「誰の財布で?」

「未来のオレ!」

「だめ」


笑い声が聖堂の階段を滑り落ち、夕暮れの街に溶けた。


遠く、山の向こうの保管庫に灯りがともる。

オフサイトの写しは静かに眠り、必要な時にだけ目を覚ます。

“壊れたら終わり”じゃない。“壊れても終わらない”。

それが、街の、そして人の強さになる。


---


――教訓まとめ――


今日は「バックアップと復旧」がテーマだったぴこ!

街の記録を食う《ロストリーパー》に襲われたけど、写してあったから助かったんじゃなくて、戻せたから助かった——ここが超大事ぴこ!


みんなも覚えておくぴこ!

1.保存=バックアップじゃない。復旧できてこそ意味があるぴこ!

2.ベアメタル“まる写し”+VM起動で、器が壊れても“別の器”で立て直すぴこ!

3.3-2-1の掟(写し3つ/器2種/1つは街の外)を守るぴこ!

4.フル+増分で効率運用、RPO/RTOは“何をどこまで・どれだけ急ぐか”を先に決めるぴこ!

5.定期テストリストアで「いざ」という時に迷わないぴこ!

6.遮断→隔離→代替起動→整合→書き戻し→更新の手順が、復旧の剣と盾ぴこ!


ミミ「今日の勝因は“写すだけじゃなく戻す練習してた”ことね」

ルーク「備えは力だ。壊れても立つ術を持て」

ぴこたん「“一度倒れても起き上がる筋肉”こそ最強ぴこ!……たぶん……いや、きっと……?」

(ミミ「その顔が一番怪しいw」)


次回は“ゼロデーモン”が潜む更新の迷宮――「アップデートの重要性」編ぴこ!絶対見逃すなぴこ!

前後半ともに読んでくださってありがとうぴこ!

今回はインフォシティの記録を守るために、いつもより専門用語多め&システム寄りの描写になっちゃったぴこ。でも、それだけ“バックアップと復旧”は大事ってことを伝えたかったぴこ。


壊れないことより、壊れても立ち上がれることが強さになる――この話が、読んでくれたおぬしの「備え」や「習慣」について考えるきっかけになったらうれしいぴこ。

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