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誰か私に転生した理由を教えてください

作者: 国先 昂



「……嘘でしょう?」


 鏡に映る自分の姿を見て呆然とする。

 

 私の名前はキャロット゠メルシエ。男爵家の次女でデビュタントを控えた16歳。婚約者はおらず、このデビュタントが勝負!と気合を入れてドレスや宝石を準備していた。


 男爵家とはいえ、豊富な鉱山資源に恵まれて、金銭的な不自由はなく、欲しい物は優しい両親に頼めばほとんどの物が手に入った。


 そんな私が唯一手にしてなかった物。それが婚約者である。


 私には姉と妹がおり、姉妹仲もほどほどに良い。

 

 2歳年上の姉は幼なじみの伯爵家次男と恋仲になり(いつもラブラブしていて見てるこっちがうっとうしい)その次男との結婚が間近に迫っている。

 

 年子の妹は外出先でスリに遭いそうになったところを、たまたま休暇中に通りかかった近衛騎士に助けられ、お礼を……と2人で会ううちに恋愛に発展、先日無事に婚約が成立した。(ちなみに相手の近衛騎士は伯爵家長男)


 そして、特に幼なじみもおらず、恋愛に発展しそうなハプニングもなく、私だけが婚約者がいないという状況が出来上がってしまった。(よくある一番上は美人、下は可愛らしくて、2番目は……という容姿ではなく、三姉妹多少の違いはあれどもよく似た容姿をしているのに)


 そんな私がデビュタントにかける意気込みは分かっていただけると思う。


 そんな私だが、未婚の男性の覚書を暗記しているとあまりに根を詰めすぎたせいか高熱を出して倒れてしまった。


 心配した両親は医者を呼び、診察してもらったのだが、ただの知恵熱で一晩寝たらよくなるとの診断を受けていた。


 そんな診断結果も知らず、私は高熱でうなされながら、遠い昔の夢を見ていた。


 夢の中でも私は男爵家次女として両親に可愛がられ、すくすく成長していた。2人の姉妹とも仲が良く、2人には婚約者がいたが、残念ながら私には婚約者がいなかったので、デビュタントを楽しみにしていた……


「……いやいや、ちょっと待って」


 目が覚めた私が一番に発した言葉である。


 側で付き添ってくれていた両親は私が起きて、熱が下がっていることを確認すると、自室に休みに戻った。メイドも湯あみの準備と軽食の準備を整えると、会釈して部屋を後にし、自分の部屋には私一人になった。


「何で……嘘でしょう?」

 

 鏡に映る自分の姿は、髪の色が輝くばかりの金髪からくすんだ金髪にランクダウンしていることを除けば、夢で見た私と瓜二つだった。


 夢……として見たが、あれは自分の前世の姿であることをなぜか確信していた。


「なんで私前世の記憶があるのかしら……」


 流行りの恋愛小説を私もよく読むのだが、最近の流行りが転生ものである。前世で敵同士だった2人が生まれ変わって再会し……とか、番として生まれ、来世も共にあろうと転生する……とか、とにかく理由があって生まれ変わり幸せになる姿が描かれていた。


「なんで何も覚えてないの……?」


 そう。私が見た前世の夢はデビュタント前で止まっていた。肝心のデビュタント後のお相手が全く出てこなかったのである。


「……しかも……どっちかしら……」


 実は最近、ヒーローものにも手を伸ばしよく読んでいたのだが、復讐を誓って死んでいくヒーローが生まれ変わり、同様に生まれ変わった復讐相手に復讐を果たすというものがあった。


「どうしたら良いのよ――!!」


 あまりにも情報が中途半端すぎて、自分の立ち位置がさっぱり分からない。しかも、なぜ前世の記憶を、取り戻したのかも不明である。


 これでは楽しみにしていたデビュタントも周りが気になって楽しめない。ここは記憶を取り戻すしかないと思った私は、体調不良を装い、デビュタントまで自室のベッドの上で過ごした。


 もう一度あの夢の続きが見られることを願って。

 


 ……なんて、都合よく夢の続きが見られることなく、私は不安な思いを抱えながらデビュタントの日を迎えた。


 そしてデビュタント当日。


 残念ながら夢の続きを見られなかった私はいろいろな意味でドキドキしながら、デビュタント会場にいた。エスコートの相手は父である。

 

 そしてその父の腕を離せずにいた。


 だって、怖いんですもの。


 きょろきょろ周囲を見渡しても、皆怪しそうで、怪しくなさそうで、誰が自分のことを知っているのかさっぱり分からない。


「どうした、キャロット。デビュタントを楽しみにしていただろう。良かったら仲良しのお友達のところへ行ったら良い。それとも、まだ具合が悪いのか?」


 心配して顔を覗き込んでくる父にこれ以上甘えるわけもいかず、私は恐る恐る腕を離すと、仲良しの友達の輪に加わった。

 

「あら、キャロット遅かったわね。そのドレスよく似合っているわ」

 

 仲良しの伯爵令嬢に声をかけられる。横にはもちろん婚約者が寄り添っている。


「その宝石も、男爵家で採れたものでしょ。すてきね。ねぇ、私も欲しいわ」


 同じく仲良しの男爵家令嬢は、婚約者に宝石をおねだりしていた。

 

 こうやって見ると、私の周りはカップルばかりだわ。もしかして、これがフラグというやつなのかしら……。


 前世の因果で私だけモテないとかもありえるのかもしれないわね……。イチャイチャする友人たちを横目で見ながらそんなことを考えていると、皇太子殿下がグラスを持って現れ、乾杯の挨拶の時間となる。


「紳士淑女の皆さん、デビュタントおめでとう。皆さんの門出が素晴らしいものになることを心よりお祈り申し上げる。……ここで私ごとだが、時間が欲しい。今回デビュタントする女性の中に私の運命の女性がいる」


 ……まさか、私?

 

 皇太子殿下から声をかけていただいたこともないし、先程挨拶の時に目が合ったくらいで……もしかして目が合った瞬間に私のことを思い出したのかしら。


 ドキドキしながら皇太子殿下を見つめていると、よく通る声で名前が呼ばれた。


「シンシア嬢、いつも笑顔を絶やさない君を愛さずにはいられなかった。よければ私と婚約してほしい」


 シンシア様は皇太子殿下の横に並ぶと、赤く頬を染めて輝くばかりの笑みを浮かべた。


「光栄です。私でよければ喜んで」


 ……違った。

 

 そりゃそうよね。勘違いした自分が恥ずかしくなる。侯爵令嬢のシンシア様は才女としても有名で、殿下と並んでいる姿を見ても美男美女で様になっている。


「……殿下に引き続き、すみません。私もよろしいでしょうか」


 今度は騎士団長ご子息が、声を上げる。


「良いよい。他にもしたい者は良い機会であるから、思いっきり自分の想いをぶつければ良い」

 

 寛容な王の言葉に、騎士団長ご子息は一礼すると前を向いた。


「実は私には前世の記憶があります。その記憶の中では、私と貴方は敵同士でした。ですが、私はずっと愛してたのです……生まれ変わったら、今度は悔いが残らぬように全力でぶつかろうと決めていました」


 ……前世の記憶!?


 私はさっぱり思い出せないけれど、私が敵だったのかしら。


 またも、胸をドキドキさせながら、前を見ていると、騎士団長ご子息が名前を呼ばれた。

 

「クレア。今世でもあなたは誰よりも強いし、あなたの剣技は惚れ惚れするほど素晴らしい。だが、良かったら私に貴方を守る栄誉をいただけないだろうか」


 真っ赤になって告げる騎士団長ご子息。


 名前を呼ばれたクレア様は女ながら騎士団に所属し、下手な男性よりも男らしいと、女子からの絶対的な人気を誇る女性である。


「……実は私も前世の記憶があるんだ。私も前世であなたを愛していた。私に共に並ぶことを許してくれるなら喜んで」


 キャーー!!おめでとうございます!!


 割れんばかりの歓声が上がる。皇太子殿下の時は粛々と見ていた一同が、恋愛小説並みの告白に盛り上がらないはずがない。しかも美男2人が並んでいるように見えて、違う意味でキャーキャー言っている人もいた。


 ……また、違ってました。


 その後、デビュタントの会は大告白大会と化した。


 多くの女性が名前を呼ばれ、お相手が決まるなか、残念ながら私の名前は最後まで呼ばれることはなかった。


 たくさんのカップルがイチャつく中で、独り身はなんとなく気まずくて、私は人目を避けて中庭に移動した。


 やっぱり私は、前世の因果でずっと独身なのかもしれない……。


 楽しみにしていたデビュタントが散々なものになり、自然と頬を涙が伝っていった。


 その時、すっと白い物が目の前を覆う。


「……よろしかったら、使ってください」


 白い物の正体はハンカチだった。


 ハンカチを差し出したのは黒髪の背の高い男性だった。どこかあか抜けない雰囲気で、前髪も長く目の色も分からない。私も初めてお会いする男性である。


「……あの、僕は辺境からこちらに来たばかりで、今日の雰囲気も異様で、少し萎縮してしまったんです。外の空気が吸いたくて、こちらに来たらあなたが泣いているのが見えて……あの、ハンカチおろしたてなんで良かったら」


 一生懸命に説明してくれる男性の姿に、何だか安心して、私はハンカチを受け取った。

 

「……ありがとうございます」


 男性の話を聞く間にいつの間にか涙は止まっていた。


「あの……これも何かのご縁だと思うので、良かったらお名前を伺ってもよろしいですか。僕は辺境伯子息、レイモンド゠ノアルドと申します」


「私はメルシエ男爵家次女で、キャロットと申します」


 互いに自己紹介していると、ホールからラストダンスの曲が流れてくる。


「……あの……良かったら一曲お願いできますか」


「私で良ければ喜んで」


 父以外の男性の手の上に初めて自分の手をのせ、腰に手をあてられてダンスを踊る。


 自分もダンスは得意な方だったが、男性は私の比ではなく上手で、夢のような一時を過ごすことができた。


 ダンスの余韻も冷めないうちに、男性から声をかけられた。


「あの……良かったら、またお会いしていただけませんか」


 私の頬が赤く染まる。


「私で、良かったら……」


 その後、2人でデートを重ね、優しく頼りになるレイモンドの内面を知るうちに、私はレイモンドを愛するようになった。もちろんレイモンドもいつも両手に私の大好きな物を携えて会いに来てくれ、愛の言葉を囁いてくれた。

 

「レイモンド、いつもいつもは大変でしょ、プレゼントはたまで良いのに……」

 

 ある時など両手に抱えきれない程のピンクの薔薇の花束を私にくれた。

 

「いや、僕がしたいからしているだけだよ。ピンクの薔薇の花好きでしょ?」


「大好き……でも私、レイモンドにそのこと言ったかしら……」


「昔言ってたよ、君の言ったことは全部覚えているから……」

 

「レイモンドったら」

 

 そんなこんなで両家の両親からも祝福してもらい、無事に婚約することになった。


 今日はいよいよ結婚式当日。


 結局前世の記憶の件は分からなかったけど、私は今日愛する人と結ばれる。


 トン トン トン


 ドアが開かれる。


「レイモンド!!見て、髪飾りもピンクの薔薇の花で飾ってもらったの、あなたも……誰?」


 目の前にはいつものレイモンドとは180度違う、洗練された男性が立っていた。オールバックに髪の毛は整えられ、金色の瞳が輝く。どこか色気のある、神様もびっくりの美男子がそこにはいた。


「いやだな、君の愛するレイモンドだよ。可愛い君に釣り合うように、今日は頑張ってみたんだ。……似合わないかな」


 似合う似合わないの次元を超え、もはや別人である。


 これは私の方が釣り合わないのでは……


 私が言葉もなく呆然としていると、レイモンドが頬に手を添えてきたさ。


「君はあまりに可愛いから、他の人には見せたくないよ」


 いや、いや、いや。


 本当に誰?


 あの野暮ったいレイモンドはどこに……。


 トン トン トン 


「お時間です。皆様揃いました」


 式場の方から声がかかる。

 


「さ、いこう。今世では、邪魔されたくないからね」


 今世?


 誰か私に転生した理由を教えてください!!


  

   

 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
トン トン トン うわあ、なんか来た。みたいで笑える言葉になってしまいました! 何があったのか妄想、私も楽しみますが、是非是非ビフォーアフターがほしいです!
前世で何があったのか気になりすぎるw
いやいやいやいや、待って待って 彼視点お願い致しますペコリ
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