8話 一條可憐は出逢う
【一條可憐side】
これは、私が優哉君と初めて出逢った時の話。
その日の放課後。
私は、同級生でお友達の立花勝利君とゲームセンターへ向かっていた。
勝利君とは少し前に、今向かっているゲームセンターで偶然出会って意気投合して、それからこんなふうにたまに遊びに行くようになった。
「ねぇ、勝利君。新しいゲーム楽しみだね。噂によれば、かなり人気らしいよ」
「へぇ、それは期待できそうだな。もし面白かったら今度、明梨と静香とも遊んでみるか」
明梨ちゃんと静香さん……勝利君の幼馴染で、校内で知らない人はいないほどの有名人だ。
二人とも超絶美少女なうえ、見分けられないほど瓜二つな双子……有名になるのも当然だよね。
ちなみに私も見分けられないです、はい。
でも勝利君は見分けられるらしく、何度もその事を自慢されたな。
そんな事を思っていると、目的地のゲームセンターがあるショッピングモールが見えて来た──そんな時だった。
「はっ!? ど、どういうことだ!?」
スマホを見るや否や、勝利君は突然そんな驚いた声を上げた。
「勝利君……? どうかしたの?」
「あっ……い、いや、なんでもない」
しかしその後、勝利君はずっとスマホと睨めっこしていた。
明らかになんでもないって感じじゃないけど、かと言って事情を聞けそうな雰囲気でもない。
そのまま目的地に向かって歩いていると、勝利君が突然立ち止まった。
そして……
「ごめん、可憐さん。ちょっと急用ができたから、今日の遊びの約束は無かった事にしてほしい」
「えっ!?」
もう目的地の目と鼻の先まで来てるのに、まさかのドタキャンをしようとする勝利君。
「と、突然酷いよ。私、すっごく楽しみにしてたのに」
「いやでも、ゲームどころじゃない事情ができたからさ」
実はこの時、勝利は静香が家で本を読んでいる情報を既に得ていたので、優哉とファミレスに行っているのが明梨であると把握していた。
しかし、その理由までは分かっておらず、何度もメッセージを送っているが、『後で連絡する』と最初に返信が来てから既読すらつかないので、イライラとモヤモヤが募ってゲームどころじゃなくなったのだった。
「ほんとごめん。この埋め合わせはいつかするから!」
そう言い残して、勝利君はその場を立ち去った。
ちなみにこの後、明梨が一向に連絡してこない事に痺れを切らしてファミレスに向かおうかと考えた寸前、『いつもの公園で待ってて』と連絡が来たので、公園へと向かう勝利なのだった。
「……」
一人残された私は、ただただ落ち込んでいた。
帰ろうかな……いやでも、せっかくここまで来たんだし。
それに暗い気分だからこそ、好きなことをして忘れたい。
そう思い、そのままゲームセンターで夢中で遊び尽くしたのだった。
時間と……手持ちのお金のことを忘れて。
その結果──
「……どうしよう」
降り頻る雨を眺めながら、私は途方に暮れていた。
傘は忘れて、手持ちのお金は全部使い切って、両親は共働きでまだ仕事中なのでお迎えを呼ぶこともできない……詰みだ。
それに、今日はずっと楽しみにしていたドラマの放送日なのに……もう、諦めるしかないよね。
落ち込みを通り越して絶望していた私は、ふと横から視線を感じた。
振り向くと、そこにいたのは……
「あれれ? こんなところで奇遇だね、優哉君」
◇◆◇◆◇
【佐藤優哉side】
一條可憐。
明るくて社交性も高いので友達がとても多く、加えて運動神経抜群で成績優秀。
『双子な彼女に挟まれて』に登場するキャラで一番ハイスペックなのが、今まさに目の前にいる彼女だ。
「あれれ? こんなところで奇遇だね、優哉君」
えっ……可憐さん、なんで俺のことを知ってるんだ?
「あの、一條さん……」
「可憐でいいよ。皆、私のこと名前で呼んでるからね」
「……分かった。えっと、可憐さん。どうして俺のことを知ってるの?」
可憐さんとはクラスも違うし、これまで話したことも無いのに。
「えっとそれはね、優哉君のクラスには友達が沢山いるから何度も遊びに行ってるうちに、気づいたら優哉君のクラス全員の名前を覚えてたの」
たしかに、可憐さんは毎日俺のクラスに遊びに来ているけど……まじか。
ちなみに、俺はクラスメイトの名前をまだ殆ど覚えていない。
……差が酷すぎる。
そんな事を思っていると、可憐さんが尋ねる。
「もしかして、優哉君も途方に暮れてる感じなのかな?」
「いや、そういうわけじゃないけど……もしかして、可憐さんは途方に暮れてるの?」
「うん、実はそうなんだ。傘を忘れてお金も全部使い切っちゃって、両親にお迎えも頼めないから帰る手段が無くて」
「そうだったんだ」
なるほど、道理でいつもより元気がなくて落ち込んでるなと思った。
「あーあ。楽しみにしてたドラマがあったんだけど、もう諦めるしかないよね。まぁ、全部自業自得だから仕方ないけど」
そう言って、可憐さんは力無く笑った。
無理をしているのが見え見えだ。
ひどく落ち込んでいる様子からも、そのドラマを本当に楽しみにしていたのが伝わってくる。
この雨の中、濡れて帰るわけには当然いかない。
帰る手段が無いのでドラマはもう諦める他ない。
可憐さんにとって、今はどうすることもできない詰んだ状況だ。
ただし、あくまでもそれは──
「……あのさ、可憐さん」
ここで俺が何もしなければの話。