5話 3人目のヒロイン、そして一方......原作主人公は
「……さてと」
あの後、明梨さんと別れた俺はそのまま自宅……ではなく、近くのショッピングモールの中にある書店へと向かっていた。
今日は気になっていた本の発売日。
もう空も暗くなってきているので買うのは明日にしようかと思ったけど、ファミレスから書店まで遠くないので、ついでに立ち寄ることにしたのだ。
「でも、なる早で帰らないとな」
天気予報によると、これから雨が降るとのこと。
ゲリラ豪雨らしいので長引くことはないだろうが、降る前に帰るのに越したことはない。
そうこうしていると、ショッピングモールについた。
中に入り書店に向かう途中、ふと騒がしい音が耳に届き、その音の正体の前で立ち止まる。
目の前にあるのは、この辺りで一番大きいゲームセンター。
原作ストーリーで何度も登場した聖地の一つだ。
……もしかして、彼女は今いるのだろうか。
「……いや。さっさと書店に行こう」
確かめてみようかと思ったけど、ここに来た目的は別にある。
そのままゲーセンを通り過ぎて、目的地へと向かうことにした。
「…………やってしまった」
目の前で激しく打ちつける雨を見て、後悔の念に駆られる。
雨が降るから早めに帰らないといけないと分かっていたのに、ついつい立ち読みをしてしまった。
その結果がこのザマである。
「ほんとなにしてんだか」
自分の行動に呆れながら、鞄から折り畳み傘を取り出す。
念の為に持ってきておいて、ほんと正解だった。
「よし、帰──」
「……どうしよう」
……ん?
不意に聞こえてきた女性の嘆きの声。
ふと隣を見れば、同じ高校の制服に身を包んだ女子生徒が立ち尽くしていた。
……えっ、あれ?
ちょっと待て、この子……
その女子生徒が誰なのか確信したのと、彼女がこちらを振り返ったのは同時だった。
「っ……」
やっぱりだ。
茶髪のポニーテール、モデルのような抜群のスタイル。
そして、二人に負けず劣らずの美しく整った顔立ち。
そこにいたのは、『双子な彼女に挟まれて』の3人目のヒロイン──一條可憐だった。
どうして彼女がここに?
いや、彼女がここにいる理由に心当たりは一つしか……
「あれれ?」
目が合った可憐さんが、俺の顔を見て驚いた反応を見せた。
「こんなところで奇遇だね、優哉君」
えっ……可憐さん、なんで俺のことを知ってるんだ?
◇◆◇◆◇
【椎名明梨side】
──これは、優哉と可憐が出逢う約一時間ほど前の話。
ファミレスで佐藤君と別れた私は、家のすぐそばにある小さな公園へと足を運んでいた。
公園につくと、話があるからとここに呼んだ人物の姿が見えた。
待ちくたびれた様子で、貧乏揺すりをしながらベンチに座っている幼馴染の姿が。
「っ……明梨!」
私の姿を見るや否や、急いで駆け寄ってくる勝利。
……そういえば勝利、今日の放課後は友達とゲームセンターに遊びに行くって言ってなかったっけ……
しかし、遊びが終わってからここに来たのだと思い、特に気にしなかった。
「遅いぞ、明梨。ずっと待ってたんだからな」
「……それで、勝利。話って?」
「そんなの決まってるだろ、佐藤のことだよ」
メールで何度も佐藤君とファミレスに行った理由について尋ねられたので、予想はついていた。
「そういえば勝利、よく私だって分かったね」
「静香に連絡したら家で本を読んでるって言ってたから、消去法で明梨しかいないだろ。それで……なんで佐藤と二人でファミレスに行ってたんだ? というか、お前らいつの間に知り合ってたんだよ」
佐藤君と知り合ったのは、ファミレスに行く直前のこと。
今まで全く関わりのなかった私達が二人で食事に行ったことに、勝利が疑問を覚えるのは分かる。
でもまさか……あんなに何度も連絡してくるとは思わなかった。
こんなこと今までなかったので、今でも驚いている。
「べつに良いでしょ。お友達と食事に行くくらいさ」
「と、友達?」
「そっ。知り合ったのは直近だけど、佐藤君は私のお友達だよ」
嘘は一切言っていない。
私は佐藤君のことを、お友達だと本当に思っている。
しかし、勝利は納得いっていない様子。
「ほんとにそれだけか? 明梨、これまで俺以外の男と二人きりでどっか行くことなんてなかっただろ。何か他に理由があったんじゃないのか?」
「それは……」
確かに私は……それと静香も、勝利以外の男子と二人きりで遊びに行ったことはない。
でも、勝利が女の子と二人で遊びに行った時、私達はこんなふうに問い質したことはないし、するつもりもない。
そして、事情を全て話す理由もない。
なかなか話さない私を見て、勝利は痺れを切らしたらしく。
「……分かった。明日、佐藤に直接問い質すことにするわ」
どこか苛立った様子で、とんでもない言葉を口にした。
「それはやめて」
佐藤君に迷惑をかけたくない。
しかし、このままだと勝利が何をするか分からない。
「……約束して、勝利。このことは絶対に他言無用にするって」
佐藤君から話さないでほしいとは一応言われていないけど、更に念を押して口止めをする。
「もし話したら……もう口利かないからね」
「わ、分かった。約束する」
一拍置いた後、私は勝利に伝える。
「実は佐藤君、私と静香を見分けられるみたいなの」
「……はっ???」
勝利の素っ頓狂な声が公園に響いた。