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4話 変わりだす物語

 ファミレスにて。


「……うーん」


 明梨さんは難しい顔をして、今聞いた情報を整理している。


 注文を終えて料理が運ばれてくる間、俺は明梨さんから色々と質問されていた。

 と言っても、自己紹介の延長みたいな内容の質問だけで、無遠慮に根掘り葉掘り聞くようなことはされていない。

 どうやら俺の事を知れば、俺が二人を見分けられる理由やヒントが分かるかもと明梨さんは考えていたらしい。

 

「なるほどね……」


 なにやら結論が出たようだ。

 明梨さんはお手上げと言わんばかりのポーズをとりながら、こう言うのだった。


「さっぱりわかんないっ」


 ……まぁ、なんとなくそんな気がしたので驚きはあまり無い。


「覚えてないけど実は私達は昔会ったことがあるって展開になると思っていたんだけど、佐藤君の話を聞く感じそれは無さそうだもんね。ほんと何でなんだろうねー」

「……ちなみに、二人の幼馴染の立花は何で見分けられるの?」

「たしか……気づいたらなんか見分けられるようになってたって言ってたかな」


 理由は分からないけど見分けられる。

 俺と同じような感じか。

 

「入学当初ね『俺は二人を見分けられる』って勝利が至る所で自慢するから、変に注目されて大変だったんだよねー」


 注目されていた理由はそれだけじゃないと思うけど。

 にしても立花のやつ……高校生にもなって、そんな小学生みたいなことしてたのか。

 

 原作主人公の幼稚な行動に内心呆れていると、料理が運ばれてくる。

 俺はお腹が空いていたので普通に料理を頼んだが、明梨さんが頼んだのはサラダだった。

 

「とりあえず考えるのは一旦やめて、早速食べようか」

「そうだね。そうしよ──あーっ!」


 運ばれてきた料理を見るや否や、驚きの声を上げる明梨さん。


「ど、どうしたの?」

「トマトが……」

「トマト?」


 明梨さんが注文したサラダにはトマトが入っていた。

 あっそうだ、明梨さんってたしか……


「……私、トマト抜きでって注文したのにー」

 

 実は、明梨さんはトマトが大の苦手なのだ。

 ちなみにアレルギーではなく、単なる好き嫌いが理由だ。


「店員さんに言って取り替えてもらう?」

「でも、それだとまた結構待つことになっちゃうし。それに、せっかく作ってくれたんだもん。残すのは当然だめだから……が、頑張って食べるよ」

「ならさ……もし良かったら、このおかずとトマトを交換しない?」

「えっ……」


 突然予想外の提案をされて、驚く明梨さん。


「実は俺、トマトが大好物なんだよね」


 実際は大好物というわけではないけど、ここはそう言っておいた方が良いだろう。

 嘘も方便というやつだ。

 ちなみに俺が交換するのは明梨さんの大好物なおかずなので、断る理由は無いはず。

 

「あれ、でもさっき好きな食べ物の質問をした時、トマトって言ってなかったよね?」


 痛いところを突かれてしまった。


「……い、言い忘れただけだよ」


 そんな苦し紛れの言い訳を口にする。

 

「そ、それでどうする?」

「えっと……」


 逡巡していた明梨さんだったが、やがて小さく頷いた。


「お、お願いします」


 それから交換し終えた後、料理を食べ始める。

 食べている途中、不意に明梨さんが呟いた。


「佐藤君って優しいんだね」

「えっ、どうして?」

「だって、当たり前のように自然に気遣いができるし……それに私が好き嫌いしていることを馬鹿にもしないもん」


 むしろ馬鹿にする方がおかしいと思うけど。


「高校生にもなって好き嫌いで騒いで……子供っぽいでしょ?」

「そんなことないよ」

「えっ……ど、どうして?」

「得意不得意が誰にでもあるように、好き嫌いだって誰にでもある。子供も大人も関係ないよ」


 なんなら馬鹿にする方がよっぽど子供っぽい。


「……やっぱり、佐藤君は優しいね」

「そう? 普通だと思うけど」

「それを普通だって思っているところが、佐藤君が優しい何よりの証拠だよ」

「そうなの……かな?」


 俺としては特別な事をしたつもりも言ったつもりもないのだが、どうやら明梨さんはそうは思っていないらしい。

 

「……ありがと」


 明梨さんはボソッと呟く。

 明梨さんの頬は、僅かだが赤く染まっていた。


 それから食事中、先程は俺が質問されていたので、今度は俺が明梨さんに質問することになった。

 ヒロインと二人きりで食事……最初は戸惑ったし緊張していたけど、気づけば時間を忘れるくらい楽しいひと時を過ごしていたのだった。



 

 ……ただ時折、明梨さんがスマホを見て僅かに暗い表情をしていたような気がしたのが、少し気になった。



◇◆◇◆◇


【椎名明梨side】


 ──楽しい。


 それが佐藤君とお話ししていて感じた、私の率直な気持ちだった。

 時間を忘れるくらい楽しくて居心地の良い時間。

 

 そんな中、不意にスマホがまた(・・)震える。


「……はぁ」


 スマホを確認した私は、佐藤君に気づかれないように小さくため息をついた。


 スマホに表示されているのは……通知。

 幼馴染からの大量の通知だった。




 立花勝利


 不在着信4件

 未読メッセージ12件

 

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