3話 未知の展開へ
「……よし、っと」
放課後。
帰りのHRが少し遅めに終わってすぐ、教室を出て下校する。
今日は特に予定も無いし、このまま帰……いや、そう言えば今日は確か……
廊下を歩きながらこの後の予定を考えていた、そんな時だった。
「……佐藤君」
突然、名前を呼ばれる。
立ち止まって振り返ると、そこにいたのは……
「……えっ」
なんで椎名さんがここに……?
予想外の人物に声を掛けられ、驚きを隠せない。
「ど、どうかした?」
「あの……この後って少し時間あるかしら?」
「い、一応あるけど…………ん?」
突如覚える違和感。
あれ、今なんて……?
「そう。その……もし良ければ、近くのファミレスでお話しがしたいのだけれど……」
……ん??
強まる違和感。
えっ、この口調って……
「勿論無理にとは言わないわ。もし今日がダメなら、別の日にまたお誘いさせてもらうから」
「……」
……やっぱりそうだ。
違和感は更に強まり、そして確信へと変わる。
彼女は……
「それで……どうかしら?」
「えっと……その前に一つ質問してもいいかな?」
「えぇどうぞ」
気づいていないふりをする……この時、そんな選択肢を思いつきすらしなかった俺は、ストレートにこう尋ねてしまうのだった。
「どうして静香さんのふりをしてるの……明梨さん?」
なぜか静香さんの口調で話す明梨さん。
それが違和感の正体だった。
それに口調だけでなく、この落ち着いた雰囲気もまるで静香さんみたいだ。
「……ほんとに見分けられるんだね、佐藤君」
一瞬驚いた表情を浮かべていた明梨さんだったが、それはすぐに微笑みへと変わる。
どこか嬉しそうな微笑みへと。
「あっ、突然こんな事してほんとにごめんね。どうしても直接確かめたくて」
「いや、それは別に気にしてないけど……どうして俺が二人を見分けられるって知ってたの?」
先ほどの発言から察するに、なぜか明梨さんは俺が二人を見分けられるって知っていたようだが、知られるようなことをした記憶は無い。
なんで知ってるんだ……?
「えっと、それはねー。今日のお昼休みに佐藤君、静香の名前を言ったでしょ?」
「……あっ」
そう言えば確かに、教室へ戻ろうと静香さんの横を通り抜けようとした時に無意識に言ったっけ。
「それがきっかけ。実はね……」
それから明梨さんは、どうして静香さんが俺が二人を見分けられるという結論に至ったのか、その理由を説明してくれた。
「な、なるほど」
「それで、佐藤君。さっきの返事なんだけど……あっそれと、佐藤君に意地悪なことをしたお詫びに今回の代金は私が払うから」
「べつに気にしなくても大丈夫だよ」
驚いたし困惑したのは事実だけど、ただそれだけ。
嫌な思いや不快な思いをしたわけじゃない。
しかし、どうやら明梨さんは納得いっていない様子。
「そう言うわけにはいかないよ。試すようなことをしたわけだし」
「俺はほんとに気にしてないから大丈夫だよ」
「……わかった。佐藤君がそう言うなら。でもその代わりに、困った時はいつでも私に相談してね。力を貸すから」
「わ、わかった」
お互いに納得したので、先ほどの話の続きを再開する。
「そうだ、ファミレスで話をしたいって事だったけど……どうして俺と話がしたいの?」
そもそもの疑問。
どうして明梨さんは俺と話がしたいのだろうか。
それに、話すって言っても一体何について……?
「んー、それはね」
一歩……また一歩と明梨さんはゆっくりと距離を縮めてくる。
「知りたいからだよ、佐藤君のことを」
そして上目遣いで微笑みながら、明梨さんは最後にこう付け加えるである。
「私たち双子を見分けることができる君のことを……ね♪」
明梨さんの表情は好奇心に満ちており、逃げられないと悟った俺は小さく頷く。
……なんかすごいことになったな。
そんなことを思いながら、俺は明梨さんと一緒にファミレスへと向かうのだった。
しかし、この時の俺は知らない。
これは序章に過ぎないことを。
波乱の展開はすぐそばに迫っていることを。
◇◆◇◆◇
ファミレスの近くにて。
数人の男子高校生が、とある光景を見て騒いでいた。
「おい、あれ。なんで佐藤が椎名さんと一緒にファミレスに入ってるんだ!? ってか、どっちだ? あれって静香さんか?」
「明梨さんじゃね? あーでも、わかんねぇな。そもそも、二人の幼馴染の勝利じゃないと見分けられないし」
「そうだ。一応、勝利にこのこと報告しとくか」
「はっ!? ど、どういうことだ!? なんで佐藤みたいなやつが!?」