表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/14

1話 きっかけは突然に

 

 高校入学から一カ月程が経過した、ある日の昼休み。

 原作だと、ヒロイン達が主人公にまだ恋心を抱いていないそんな時期に。

 

 それは突然起こり、突然始まり、そして突然変わり出した。

 


◇◆◇◆◇


 

「いやー、今週に入ってから毎日食べてるけど、やっぱりめっちゃ美味しいな」


 昼休み。

 学食を食べ終えた俺は、お腹と心が満たされていた。


 この高校の学食には毎週メニューが変わる週替わり定食があるのだが、今週はメニューも味も俺の好みドンピシャの、個人的にめちゃくちゃ満足度の高い内容だった。

 今週になって毎日のように食べているが、飽きる気配なんて全く無い。

 なんなら来週以降も食べたい程だ。


「そう言えば来週のメニューは何だろう。好みのおかずが入ってると嬉しいけどなぁ」


 そんな事を呟きながら、廊下を進み教室へと戻る。

 しかしこの時、来週の週替わり定食のメニューに期待と想像を膨らませていた俺は気付かないのだった。

 前方から早足で近づいてくる足音に。


 そして、気づいた時には時すでに遅し。


「うおっ!」

「きゃっ!」


 曲がり角を曲がろうとしたその刹那、前から突然現れた女子生徒とぶつかりそうになってしまった。


「……っ。ふぅ」


 咄嗟に避けたので体勢を崩して倒れそうになったが、何とか耐えることが出来た。

 女子生徒の方も倒れたり怪我をしている様子は無いので、とりあえず大丈夫だと分かりホッと安堵する。


「だ、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫で……っ」


 心配そうに掛け寄り声を掛ける女子生徒の顔を見た瞬間、驚きのあまり思わず息を呑んだ。

 なぜなら、ぶつかりそうになった女子生徒が、ヒロインの椎名さん(・・・・)だったからだ。

 

 関わる事は無いと思っていたのであまりにも予想外で唐突な展開に驚いたのと、椎名さんの整い過ぎた顔を間近で見たことが相まって言葉を失ってしまう。


「佐藤君?」


 無言な俺を見て、不思議そうにする椎名さん。

 この時の俺は、どうして彼女が俺の名前を知っているのかという疑問は思い付かなかった。


「佐藤君、もしかしてどこか傷めたりした?」

「い、いや。特に怪我とかしてないから心配しなくても大丈夫だよ」

「……そう」

 

 椎名さんは安心した表情を浮かべた。


「ごめんなさい、少し急いでいたから早足で移動していたの」

「そうだったんだね。でも俺も考え事しながら歩いて前方確認を怠ってたから、謝るなら俺の方だよ」


 週替わり定食の事で頭が一杯で、周りの事を見ていなかった。

 

「いいえ。廊下を駆けていただけじゃなく、誰かとぶつかってしまう可能性を考慮していなかった。だから悪いのは私」


 ……うーん、どうしたものか。

 お互いに非があるって事で謝罪し合って解決って感じじゃなさそうだよな。

 とは言え、俺の方に責任があると言っても、また反論されるのは明白。

 大事にはしたくないし、椎名さんも急いでるって言ってたから早めに解決したい。

 なら……


「……分かった。それじゃあ、今回はそちらに非があるって事で納得するよ。その上で、さっきの謝罪を受け入れるから、これで解決だね」

「……えっ」


 今回は椎名さんが悪い、そして椎名さんからの謝罪を俺は受け入れた。

 なので、これでこの問題は終わりだ。

 

 すんなり解決したからか、少し呆気に取られている様子の椎名さん。


「許してくれるの?」

「勿論。わざとじゃないのは分かりきってるし、それにお互い特に何も無かったわけだから大事にするつもりも無いからね。あっでも、以後気をつけてね」


 自分に言い聞かせる為にも、そんなお節介な注意をしておく。


 椎名さんはクスッと笑った。


「そうね。ご忠告ありがとう。以後気をつけるわ」

「そうだ、急いでたんじゃなかったっけ?」

「そうだったわ」


 椎名さんが歩き出そうとしたタイミングで、俺も歩き出して教室へと戻る。


 それから椎名さんの横を通り過ぎる直前、無意識に……そして無自覚にこう言ってしまうのだった。


「それじゃあね、静香さん(・・・・)

「ええ。ありがとう、佐藤く…………えっ」

 

 俺はそのまま歩を進めた。

 驚愕の反応と表情を浮かべながら、小さくなっていく俺の背中を茫然と眺めている静香さんに気付かぬまま。



◇◆◇◆◇

 

【椎名静香side】

 

「……」


 小さくなっていく彼の背中を静かに眺めている私の頭の中は……混乱と困惑に満ちていた。


 去り際、彼──佐藤優哉君は迷い無く(・・・・)確かにこう言った。


 それじゃあね、静香さん……と。

 

 あの時の佐藤君の様子を思い出し、やがて私はとある一つの結論に至った。


「佐藤君……私達のこと……」


 見分けられる……?

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ