13話 気になる相手
【椎名明梨side】
「明梨、今日暇だよな? 遊ぼうぜ」
勝利は開口一番にそんなことを言い出した。
いや……暇じゃないんだけど。
「今日はお友達と遊びに行く約束してるから無理だよ」
「はっ? マジ!?」
マジ!?って……驚いてるのは私の方だよ。
なんで暇って決めつけてるの?
なんで前もってこっちの予定を確認しないの?
なんで当日の朝にいきなり誘うの?
ツッコミどころが多すぎる。
「そう言うことだから諦めてね」
「……ちなみに、その約束をキャンセルして俺と遊ぶってのはナシ?」
「ナシに決まってるでしょ。当たり前じゃん」
「ただの冗談だって。本気で言うわけないじゃん。ドタキャンなんてしたらダメだもんな」
その直後、勝利はさも当然のようにこう言うのだった。
「じゃあ、今日は静香と遊ぶか」
……だから、なんで静香の予定が空いてる前提なの?
勝利の無計画さに呆れてくる。
「明梨、静香と電話代わってくれないか?」
「……ねぇ、勝利。静香も今日はお友達と遊びに行く約束があるから、勝利とは遊べないよ」
「はっ……う、嘘だろ?」
「そんな嘘ついてどうするのよ。それと今、静香は遊びに行く準備とおしゃれの途中だから電話に代われないからね」
「はっ!? おしゃれ!!??」
スマホ越しに、勝利の驚愕の声が聞こえてくる。
「あの静香が!? おしゃれに無頓着なあの静香が!? 俺達と遊びに行く時、普通に部屋着で行こうとするあの静香が!?」
女子高生がおしゃれする事に驚くなんて失礼だと思うけど、静香に関しては勝利の言う通りだから反応に困る。
「そう……その静香がおしゃれなうなの」
「……」
勝利がこの後何を言うのか簡単に想像がつく。
そして、勝利は私の想像通りの言葉を告げた。
「なぁ……静香って誰と遊びに行く予定なんだ?」
ここで素直に佐藤君の名前を言うと、間違いなく勝利は静香に連絡をとって昨日の私みたいに質問攻めするだろう。
そうなると、佐藤君と遊ぶのを楽しみにしている静香の気分が台無しになってしまう。
「知らないよー」
「気にならないのか? あの静香がおしゃれしてまで遊ぶ相手だぞ?」
「ならないけど? それに高校生なんだから、おしゃれを普通にするようになったってだけのことだと思うよ?」
「……」
勝利は無言になるが、それが肯定を意味する沈黙ではないのは明らか。
勝利はまだ納得していない。
「ねぇ、勝利。べつに静香が誰と遊ぶのかなんて気にしなくてもいいじゃん」
「いやでも……その相手が変な男かもしれないだろ?」
……変な男。
静香が遊ぶ相手が佐藤君だって知ってるので、そういう言い方をされて少しむかっとした。
「勝利、もし仮に静香が遊ぶ相手が男子だったとして、静香のお友達にそういう言い方は失礼だと思うよ」
「俺はただ、幼馴染として心配してるだけで……」
「でも私達は、勝利がお友達と遊ぶ時に心配してないよ? だから、その理屈はおかしいよね」
不意に、玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
静香が家を出て、佐藤君との集合場所に向かったのだ。
私もそろそろ準備したいけど、でもまだ……
「……ねぇ、勝利。どんな些細な事でもいいけどさ、私達に言ってない事ってあるよね?」
「そりゃ、あるけど」
「それってさ、なんで言ってないの?」
「なんでって、べつに言うほどのことじゃないし……それに言う必要が無いからだけど」
「静香も同じだよ。実は昨日、静香が遊びに行くって言った時に、反射的に『誰と?』って質問したの」
実際にはそんな質問していないけど、大事なのはそこではないのでそのまま続ける。
「静香は『お友達と』って答えて、具体的に誰とは言わなかった。静香が言う必要がないと判断したの。だから私は静香の気持ちを尊重して、それ以上は踏み込まなかった。誰なのか気になるのが悪いとは言わないけど、勝利も静香の気持ちを尊重してもう追及しないで」
「……」
「それに、あの静香が『お友達』って言ったんだから、それ以上でも以外でもないよ…………って、もうこんな時間!?」
このままだと待ち合わせに遅刻してしまう。
「いい、勝利? もし静香に連絡したら……私、本気で怒るからね?」
そして、私は通話を切った。
◇◆◇◆◇
【立花勝利side】
明梨との電話が終わった。
もし静香に連絡したら、共有されて明梨の耳に届く可能性がある。
明梨が怒ったら怖くはないけど……めっちゃ面倒くさいので、あまり怒らせたくない。
「……単に、俺が気にしすぎなだけか」
明梨と違って、静香は人付き合いに消極的なので交友関係がとても狭い。
加えて、男子とはあまり親しくしようせず一線を引いている。
それに冷静に考えてみれば静香と仲の良い男子は俺だけなのだから、他の男子と遊びに行っているわけないか。
しかし、ふと……なぜか、佐藤のことが脳裏に浮かぶ。
「……まさか、な?」
いや……そんなわけないか。
一方、その頃──
「ごめんなさい、佐藤君。待ったかしら?」
「俺も今来たところだよ、静香さん」
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