12話 楽しみなヒロインと......着信
「…………えっ???」
どうしてあの流れで遊びに誘われたのか分からず、困惑してしまう。
「えっと……静香さん。どうして俺を頼ることが遊びに行くことに繋がるの?」
「さっき、悩んでいる展開があるって話したと思うけれど、実はそれが主人公とヒロインのデートイベントのことなの。でも私、これまで男子と二人で遊びに行った事が殆どないの。だから、佐藤君と遊びに行ったら何か参考になったり良いアイデアが得られるかもと思って」
「なるほど」
想像で書くのと、実体験を元に書くのでは違うってことか。
あれ、でも……
「……佐藤君。もしかして、どうして勝利に頼まないんだろうって思ってる?」
図星を突かれてしまい、思わずビクッと肩が弾んだ。
「……はい」
「ふふっ。素直ね」
静香さんに嘘をついてはいけないのは、原作で学び済みだ。
「それは勝利と遊びに行った結果、私の悩みがまだ解決できていないからよ。それに、勝利とは基本的に同じ場所で同じような遊びしかしないから、新しいアイデアが中々浮かばないの」
そう言えば、原作では立花がゲーム好きって設定だったから、ヒロイン達と遊びに行くのはゲーセンばっかりだったな。
それで段々と新鮮さを感じなくなった覚えがある。
静香さんもそうなのだろう。
「それで、佐藤君。どうかしら?」
「もちろん良いよ」
頼ってほしいって言ったのは俺だし、断る理由なんて無い。
というか、そう言った理由関係なく静香さんと遊びに行けるのは単純に嬉しい。
「ありがとう。それじゃあ、明日の待ち合わせの場所と時間なのだけれど──」
それからトントン拍子で、明日の集合場所と時間が決まる。
その直後、予鈴が鳴り響いた。
「そろそろ教室に戻ろうか。このままだと遅刻するからね」
「そうね。それじゃあ、佐藤君。明日、一緒に遊びに行くの楽しみにしてるわ」
「俺も楽しみにしてる」
◇◆◇◆◇
【椎名静香side】
夜。
私はベットで横になりながら、少し考え事をしていた。
「……まさか、自分から男子を遊びに誘う日が来るなんてね」
誘ったことを後悔はしていない。
でも、これまで自分からこう言った誘いをした事がなかったし、する事もないだろうと思っていたから今でも驚いているのだ。
自分で誘っておいて驚くなんて変な話だけど。
もし他の男子だったら、きっと誘っていなかったと思う。
私達を見分けられることといい……ほんと、佐藤君は不思議な人ね。
「……もう寝ようかしら」
遅刻……ましてや、自分から誘っておいてそんなことなんてしたら大問題だ。
明日の為に、いつもより早めに寝よう。
そう思っていたのだが……
「……あっ。明日の服、どうしようかしら」
実は、私はおしゃれにはかなり無頓着だ。
気を遣わなくて良いからというのもあるけど、明梨や勝利と遊びに行く時は服はいつも適当に選んでいた。
でも、明日は少し事情が違う。
それに、自分から誘っておいて適当な服で会うのは……
「さすがに失礼……よね」
しかし、どういう服が良いのか分からないので、おしゃれに定評のある明梨を頼ることにした。
「ねぇ、明梨。少しいいかしら?」
リビングのソファで横になりながら、スマホをいじっている明梨に声をかける。
「どうかしたー?」
「実は私、明日……佐藤君と遊びに行くの」
「えーっ!?」
明梨が勢いよく起き上がり、羨ましそうな顔で私を見る。
「いいなー! 楽しそー! 私も一緒に行きたーい!」
「でも明梨、明日はお友達と遊びに行く約束があるんでしょ?」
「今から約束をキャンセルして私も二人と一緒に……」
「ダメよ」
当然、明梨が本気で言っていないのは分かっている。
「もちろん冗談だよ。ドタキャンなんてしたらダメだもんねー」
「そうね」
「それで、佐藤君と遊びに行くのは分かったけど……どうかしたの?」
「実は、明日の服装を悩んでて……それで明梨に相談したくて」
「なるほどねー。そう言うことなら任せなさい! 静香に似合った服を見繕ってあげる」
「ありがとう」
それから明梨と一緒に部屋に戻る途中、こんなことを尋ねられた。
「そう言えば、静香。明日のことって、勝利には言ったの?」
「言ってないわよ。それに言うつもりもないわ」
勝利だって、いちいちそんな事を報告されても迷惑だろうし。
「……」
明梨は真剣な表情で何か考えている。
「明梨、どうかしたの?」
「……実は昨日、私が佐藤君とファミレスに行った後、それを知った勝利から色々と根掘り葉掘り聞かれたの。一応ちゃんと事情を説明したから納得はしたみたいだけど」
「……そんな事があったのね。教えてくれてありがとう。でも、私は勝利の事を気にして変装したり、コソコソしたりするつもりはないわ。明日は純粋に楽しみたいもの。明梨イチオシの服を着てね」
「……うん、そうだね。楽しんで来てね♪」
そもそも、私達はただの幼馴染。
それなのに、友達と遊ぶだけで色々と干渉されたり事情を根掘り葉掘り聞かれる謂れはない。
実際、私達は勝利にそんなことしたことないし、するつもりもないのだから。
◇◆◇◆◇
翌日の朝。
明梨のスマホが着信を知らせた。
着信相手は──
「……おはよう。どうしたの、勝利?」