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11話 カミングアウト

「だって私……明梨じゃないもの」

「……ファッ!?」


 静香さんからの衝撃?のカミングアウトに、先輩の爽やかな笑顔が完全崩壊した。


「……じ、冗談だよね?」

「そんな冗談言うわけないでしょ」

「な、なら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ!?」

  

 先輩の口調がどこか荒々しくなり、先ほどまでとは明らかに違う。

 その変化に静香さんも気づいたらしく一瞬驚いた反応を見せたが、冷静に言葉を続ける。


「私が何か話そうとしても聞く耳を持たずに、私の言葉を遮って一方的にずっと話していたのは貴方でしょ?」

「そ、それは……」

 

 僕は紳士だから……さっき先輩はそう言ってたけど、はたしてそれが紳士のすることなのか?

 バツの悪い顔をしていた先輩は、何かに気づいたように突然俺の方を見た。


「ち、ちょっと待て。お前……まさか最初から静香さんだって見分けられていたのか!?」


『勘違いしているのはむしろ先輩の方ですよ』


 先程の俺の発言から、先輩はその結論に至ったようだ。

 というか、二人称が『君』から『お前』に変わってる。

 色々と化けの皮が剥がれてるな、この先輩。


 ここでそれを肯定したら、どうして見分けられるのかを問われるのは想像に難く無い。

 その理由に関しては俺だって分かっていない以上、先輩を完全に納得させるのは無理だろう。

 となると、変な誤解を生みかねない。


「……」


 静香さんが俺を一瞥して首を横に振り、答える必要は無いと意思表示した。


「何を言ってるんですか?」


 適当に誤魔化す。

 先輩は、もう何が何やら分かっていないはず。

 混乱している様子からも、それは明白だ。


「そんなことよりも、まずは静香さんに謝るべきじゃないですか?」

「…………チッ」


 先輩は苛立った態度で舌打ちして、その場を後にした。

 ……爽やかさのカケラもねぇ。

 

「静香さん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫。特に何もされてないわ」


 強引に迫られていたわけではないようだ。

 それでも、介入して正解だったのは間違いない。


「ありがとう、佐藤君。本当に助かったわ」

「静香さん、もしかしてあの先輩にここに呼び出されたの?」

「いいえ、違うわ。自販機に飲み物を買いに行っている途中に急に話しかけられたの」


 明梨さんだと思われて話しかけられ、勘違いを指摘しようとしても一方的にずっと話をされてそのタイミングを逃してしまっていたのだ。


「そっか。不運だったね」

「大丈夫よ。気にしてないわ、もう慣れたもの」


 それから俺達は自販機へと向かい、飲み物を購入して当初の目的を果たす。


「ねぇ、静香さん」


 教室に戻ろうとする静香さんを呼び止める。


「佐藤君? どうかしたかしら?」

「その……さっき静香さん、慣れてるから大丈夫って言ってたけど、でもだからって何も感じてないわけじゃないと思うんだ。慣れてても、きっとストレスは溜まっていると思う」


 実際、原作ストーリーでもストレスが溜まって体調を崩してしまう展開が起こっていた。

 もう原作ストーリーには拘らないと先程そう結論を出したけど、でも心配しておくに越したことはない。

 

「もし、俺を頼りたいと思った時はいつでも言ってほしい。勿論、悩みや困っていることがあった時も同様だ」

「……急にどうしたの?」

「えっと、とりあえず伝えておこうと思って」


 静香さんはあまり人を頼らない方だ。

 頼るとしても、ごく少数の身近な特定の人だけ。

 頼る頼らないは別としても、頼れる人の選択肢が増えるというのは大きい。


「そろそろ教室に戻ろうか」

「……ねぇ、佐藤君」


 今度は静香さんが俺を呼び止めた。


「頼りたいと思ったらいつでも頼っていい……のよね?」

「勿論、いつでも力になるよ」

「ありがとう。言質とったわ。じゃあ、さっそくお願いしてもいいかしら?」

「えっ……も、もちろん」


 まさか、こんなすぐに頼られるとは。

 一体何をお願いするのだろうか……

 静香さんの言葉をじっと待つ。


 静香さんは一度小さく息を吐いた後、何かを決心した表情で紡いだ。


「実は私……WEB小説を書いてるの」

「へぇ、そうなんだ」

「……あまり驚かないのね?」

「静香さんが本好きなのは知ってたから、読み手から書き手へ……そう考えると、あまり驚きはないかな」


 ……それに、原作の方でも静香さんはWEB小説を書いて投稿していたからな。

 それを知ってる俺からしたら、意外だとすら思わない。

 

「実は、今書いている作品のこの先の展開に少し悩んでいて……」

「ちなみにジャンルは?」

「現実世界を舞台としたラブコメよ。基本的にはそれしか書いていないわ。それで、佐藤君。近々、空いてる日はあるかしら?」

「明日明後日を含めて、基本的には殆どの日が空いてるよ」

 

 ちなみに今日は金曜日だ。


「そう。明日もフリーなのね?」


 俺は頷く。


 おそらく、静香さんは俺にアイデアを一緒に考えてほしいとお願いするつもりなのだろう。

 物語を書いたことがない俺がどの程度力になれるかは分からないけど、せっかく頼ってくれたんだし精一杯頑張ろう。


 そんなことを考えている俺に、静香さんはこう言うのだった。


「なら、佐藤君。明日……私とどこか遊びに行かないかしら?」


 静香さんはWEB小説を書いている。

       ↓

 今書いている作品の展開に思い悩んでいる。

       ↓

 静香さんに遊びに行こうと誘われる。

       ↓

「…………えっ???」

 

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