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10話 変わりだす日常

 翌日の朝。

 登校している途中、声を掛けに近づいて来た人影があった。


「おはよ、優哉君っ」

「おはよう、可憐さん」


 これからは普通に話しかけると可憐さんは昨日言っていたので、早速有言実行している。

 

「改めて昨日は本当にありがとね。おかげで無事にドラマを見ることができたよ」

「それは良かった」

「とっても面白かったから、見逃してたら落ち込んでたどころじゃ済まなかったよ」


 なるほど、道理で普段よりもテンションが高いと思ったわけだ。


「優哉君のおかげだね。だから今度、ちゃんとお礼させてね?」

「気にしなくても大丈夫だよ」

「そう言うと思った。でも、もし仮にこれが逆の立場だったとして私が優哉にそう言ったら、優哉君は引き下がるの?」


 ……引き下がらないだろう。

 実際に昨日、送らないでも大丈夫と可憐さんに断られた時も、俺は引き下がらなかったしな。

 そして、私もそうだよ……可憐さんのそんな強い意志が伝わってくる。

 ……ずるいなぁ。


「えっと……お礼、楽しみにしてます」

「うん。期待しててね」

 

 それから軽く雑談しながら各々の教室へと向かうことに。

 可憐さんと別れて自分の教室に入り、席に向かう。

 

 その後、朝のHRが始まるまでの間、読書して時間を潰していたら、廊下にいた生徒達が突然ざわつき出した。

 ……あぁ、二人が登校して来たのか。

 明梨さんと静香さんが登校してくると、毎日のようにこの光景が繰り広げられるのだ。

 最初は何事かと驚いていたけど、今ではもうすっかり慣れてしまった。

 

「……」


 なんとなく扉の方に視線を向けると、丁度教室に入って来た静香さんと目が合った。

 静香さんが小さく会釈して挨拶したので、俺も同じくそうする。


 昨日までは、こんなやり取りをしたことはなかった。

 先ほど可憐さんと雑談しながら登校したのと同じで、俺と静香さんの日常にも確実に変化が生じている。

 そんな事を考えていると。


 ──トントン、と。


 不意に優しく肩を叩かれる。

 振り向くと、そこには……


「やっほー。おはよう、佐藤君」

「お、おはよう。明梨さん」


 小さく手を振っている明梨さんが立っていた。


「えっと……どうかした?」

「ううん、どうもしないよー。ただ普通に、佐藤君を見かけたから挨拶しに来ただけ♪」


 こういったやり取りも昨日まではした事がなかった。

 明梨さんと俺の日常にも、やはり変化が生まれているのだ。


「もしかして迷惑だった?」

「そんなことないよ。ていうか、明梨さんに挨拶されて迷惑だって思う人はまずいないと思う」

「でもさー、私じゃなくて静香に挨拶されたって勘違いしちゃう人はいると思うなー」

「……間違いなくいるね」


 当然逆も然り。 

 そんな会話をしていると、朝のHRがもうすぐ始まる事を知らせる予鈴が鳴り響いた。

 

「あっ。私、自分の教室に行かなきゃ。それじゃあねー」


 明梨さんは慌てた様子で自分の教室へと向かっていった。

 ちなみに、明梨さんと可憐さんは同じクラスだ。


 さてと、HRが始まるまでもう少し読書を……


「……ん?」


 不意に背後から嫌な視線を感じた。

 しかし振り返っても、俺に視線を向けている生徒はいなかった。

 視線を感じた方向では、原作主人公である立花が友達との雑談に花を咲かせている。


「……気のせいか」


 気にせず読書を再開することにした。





「…………チッ」



◇◆◇◆◇



 休み時間。

 自販機に飲み物を買いに向かっている途中。


「どうかな、明梨さん。週末、僕とデートしてくれないかな?」


 ふと、そんな声が聞こえてきた。


 声が聞こえて来た方向に視線を向けると、おそらく上級生であろう爽やかイケメンな先輩が静香(・・)さん(・・)をデートに誘っていた。

 明梨さんではなく、静香さんを。


 ……にしてもこんなイベント、原作ストーリーには無かったな。

 いやまぁ、それを言ったらさっきと昨日の俺とヒロイン達とのやり取りだって同じか。

 それに、ここはゲームの世界ではあっても、俺を含めてここにいる人は皆ちゃんと自分の意思を持って生きているのを、昨日今日だけで何度も感じさせられた。

 原作ストーリーに拘ってももう意味はないな。

 

 というか、今はそんなことよりも……

 

「あの……ちょっといいですか?」


 声を掛けると、先輩は一瞬不快そうに俺を睨んだが、すぐに爽やかな笑顔へと表情が戻る。


「君は新入生の子かな? 申し訳ないけど僕は今、明梨さんにデートのお誘いをしている途中だから邪魔しないでほしいな」

「悪いんですけど、そういうわけにはいかないです」


 引き下がらない俺に、先輩は爽やかな笑顔を維持したまま言う。


「もしかして、君は僕が強引に明梨さんに迫っていると思ったのかな? だとしたら、それは君の勘違いだよ。僕は紳士だからそんなことはしないさ。だからこれ以上、()()()()()()()()()()前に教室に戻った方がいい」

「それを言うなら、勘違いしているのはむしろ先輩の方ですよ」

「何を言ってるんだい。僕は何も勘違いなんて──」

「いいえ、佐藤君の言う通りよ」


 静香さんが俺と先輩の会話に割って入る。


「あ、明梨さん? 僕が一体何を勘違いしていると言うのかな?」

「全部よ。だって私……明梨じゃないもの」

「……ファッ!?」


 今の先輩は、爽やかイケメンとは思えないほどなんとも間抜けな顔をしていた。

 

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