プロローグ 気づいたモブキャラ
俺がそれに気づいたのは、高校入学直後のこと──いや、もっと正確に言うなら彼女達を見たその瞬間のことだった。
突然だが、ここは『双子な彼女に挟まれて』というギャルゲーの世界であり、気づいたら俺はそのゲームに登場するモブキャラの佐藤優哉に転生していた。
ヒロインの一人とクラスメイトではあるが、ただそれだけでストーリーともヒロイン達とも関係が一切無いキャラだ。
しかし、高校入学初日。
初めてヒロイン達を見た瞬間──
「……えっ」
俺は衝撃の事実に気づいてしまった。
『双子な彼女に挟まれて』
タイトル通り、このギャルゲーには双子のヒロインが登場する。
しかし、ただの双子ではない。
家族や親戚……そして、主人公である幼馴染以外は見分けられないほど瓜二つな設定の双子ヒロインなのだ。
そう、見分けられるのは彼女達と長い時間一緒に過ごした関係値の深い人物のみであり、決して初対面のモブキャラに見分けられるわけがない。
そんなわけないはずなのに…………
えっ、なんで…………?
◇◆◇◆◇
ある日のこと。
一人の男子生徒がとある女子生徒に声を掛けているのを目撃した。
「あの……明梨さん」
腰まで伸びた艶の深い長い黒髪。
目鼻立ちのスッと通った端整な顔立ちと、モデル顔並みの抜群のスタイル。
思わず視線を奪われてしまうほどの超絶美少女にして、双子ヒロインの一人がゆっくりと振り返って男子生徒の方を見た。
「もしよければ、今度どっか一緒に遊びに行きませんか?」
顔を赤らめながら提案する男子生徒からは、勇気を出したのが伝わってくる…………が。
いや、その人……明梨さんじゃなくて……
「ごめんなさい。私、明梨じゃないわ」
「あっ……す、すみません」
また、ある日の放課後のこと。
「あっ、静香ちゃん」
チャラそうな男子が、下校しようとしていた女子生徒に気安い感じで声を掛けている現場に遭遇した。
腰まで伸びた艶の深い長い黒髪。
目鼻立ちのスッと通った端整な顔立ちと、モデル顔並みの抜群のスタイル。
思わず視線を奪われてしまうほどの超絶美少女にして、双子ヒロインの一人がゆっくりと振り返って男子生徒の方を見た。
「ね、この後さ一緒に映画でも行かね?」
誘い慣れているのだろう全く緊張した様子も無く、更には断られるなんて微塵も思っていないかのような余裕綽々な態度の男子生徒。
いやいやお前、なんか勝ちを確信してるっぽいけど、そもそもその人は静香さんじゃなくて……
「えっと、ごめんね。私、静香じゃないんだー」
「……へっ?」
◇◆◇◆◇
「……ほんとなんでだ?」
下校途中、小声で呟く。
何度考えても答えが出ないし、出る気配も無い疑問。
「なんで俺、明梨さんと静香さんを見分けられるだ?」
このギャルゲーの双子ヒロイン──椎名明梨と椎名静香。
本来なら、二人の家族や親戚……そして、主人公である幼馴染といった彼女達にとって親しい人物しか見分けられないはず。
なのに、なぜかモブキャラの俺も見分けることが出来ている。
50%、二分の一の確率を偶然当てて運が良いだけだろと思う人もいるかもしれないが、運頼りでないのは俺自身が一番分かっている。
「まぁでも考えてみたら、あんまり気にしなくてもいっか」
この事実を利用して二人に近づくつもりも、公表して注目を浴びるつもりも勿論ない。
もしそんなことをしたら二人とどんな関係なのか疑われるのは明白。
その結果、変な噂や根も葉もない噂が流れて二人に迷惑をかけしまうかもしれない。
見分けられるからと言って別に何かが変わるわけじゃない。
実際、今日まで何も無かったし。
「よし、この事は俺の胸のうちにしまっておくことにしよう」
そう結論を出し、そのまま帰路に就いた。
しかし、翌日。
「佐藤君……私達のこと……」
「佐藤君って優しいんだね」
「じゃあ約束ね、優哉君っ」
何故か俺はヒロイン達と関わりを持ってしまい、それをきっかけに俺と彼女達……そして原作主人公の物語が大きく動き出すことになるのだった。