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第一話:大正0xFF年 7月 28日

起床する


景色がはっきりとしていく

最も親しんだ日常の風景である下宿の、天井の木目が視えた


掛け時計を見れば、既に夕刻を過ぎている

ネオには昨夜の出来事はおろか、いま眼の前にある総てさえが現実で無いように思えた


咄嗟に顔の右側に触れる

そこには浅ましい大きな肉と骨の陥没孔が存在し、ネオに「これが現実である」という事実を知らせた


いつの頃からか、ネオは現実感の確認のために、顔の孔──孔と呼んで差し支えの無い程の傷痕を触る癖があった

端正な顔に虫食いの様に存在し続けるこの孔は、今では彼の絶望と、そして現実の象徴だった



身支度を整えると、下宿の階段を下る

親から下宿を引継いだばかりの年若い管理人、櫻子が明るい調子でネオに夕飯が出来た事を伝えた


「気持ちは有り難いのですが…」


「私の分は結構です、でも有難う御座います」


優しく、しかし断固とした言葉だった


実のところネオは櫻子を心から大切に思っていた

だからこその距離であり、拒絶だった


「そろそろ仕事に参りますので」

それだけ言うと、ネオは下宿を後にした


─────


百合(バイフー)には昨日の出来事が、まだ夢の様に感じられていた


『姉さん、人の話聞いてるの?』

電話口の声に、はっとする


「聞いてない」


率直な回答を返す

いつも素っ気ない言い方になってしまうが、百合は妹との会話が好きだった


『姉さんって、幾つになっても子供みたいな姿のままだから、歳なんか取らないんだと思ってたけど…』


『もしかして、その姿のまま耄碌し始めてるわけ?』


神聖変異を起こしている百合の躰は、歳を取らない


何歳になってもこがね色の美しく長い髪と、人形の様に青い瞳、透き通る肌は変わる事が無かった

幼い頃から変わった事と言えば、頭の少し上を照らす仄かな光輪と背中の一対の翼だけだ


まだ人間だったなら、今年で29歳だ

妹のアスモデは歳を取り続け、鏡写しの様にそっくりだった二人の姿は、いつの頃からか違うものになってしまっていた


百合(バイフー)という名前も仕事上の作戦名(コードネーム)

神聖変異を果たした結果、人間としての戸籍を喪失した彼女は生きる術として公安に所属していた


役職は「犯罪心理学研究者」

この世にいくつかある彼女の肩書の中で、「天使」の次に有名なものだ


『……今夜はまたデート?』


「違う」


今日はオフだったが、この後の外出はフィールドワークも兼ねていた


「仕事」


─────


店の棚の裏には、隠し部屋が有る

ネオはそこでホルマリンの瓶を覗き込んでいた


瓶の大きさはヘルメットめいていて、中には人間の切り離された頭部が保存されている

頭は女のもので、髪はこがね色の美しく長い髪、人形の様に青い瞳と…そして透き通る白い肌をしていた

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