『ジコウ捜索』 その4
「何、簡単な事だ。……捜索は戦闘部隊が行う。そしてお前達は……戦闘部隊じゃない。……それだけの事だ」
ジャックは端的に答え、一旦間を開けてから続ける。
「ジコウの捜索は、危険を伴う可能性がある。昨日も言ったが、今回の襲撃は……協力者がいた可能性もある。その協力者が万が一、林に潜んでいた場合……分かるな?」
「それは……分かります」
ショーナはジャックが言おうとした事をくみ取って、真剣な表情で一言返した。
「だから俺は、お前達を危険にさらしたくない。それが……今回、俺が賛同しかねる理由だ」
「…………」
ジャックの言葉は筋が通っていた。ショーナは一旦、彼の言葉を飲み込み、ため息を吐く様に大きく息を吐いてから、エイラから貰った切り札を使う事にした。
「ジャック隊長。オレは……母さんから、ジコウの捜索に行く様に『指示』を受けています。……優しく言うなら、ですが」
ショーナが含みのある言い方をした事に、ジャックは少し顔をしかめて首をかしげると、その言葉の真意を質問した。
「ん……? お前にしては珍しい言い方だな。何だ……その……『優しく言うなら』ってのは。それなら、優しくない言い方でもある……という事か?」
「……はい」
「……あまり聞きたくないが、聞いたのは俺だ。……教えてもらえるか?」
ジャックは嫌な予感がしていた。ショーナの母は集落の長であり、その長が我が子に、優しい言い方として「指示」を出していた。そうであるなら、優しくない言い方というのは選択肢が限られるからだ。
ジャックの問いに、ショーナは目に力を込めて答える。
「優しくない言い方だと……、『命令』になります」
「『命令』……だと……!?」
ショーナが発した一つの単語に、ジャックは目を見開いて驚き、右足を一歩だけ後ろに引いていた。そして彼らから顔を逸らし、険しい表情をして大きなため息を吐く。
ジャックの反応は、ショーナもフィーも見た事が無いものだった。それ程までに、その単語の持つ力は大きかったのだ。
しばらく腕組みをしたまま考え込んだジャックは、その険しい表情をショーナに向け、話を再開した。
「長が……お前に……『命令』を出した……と言うのか、ショーナ……」
「それは……捉え方によって変わります。……優しい言い方であれば『指示』ですし、厳しい言い方であれば『命令』です。
ただ、一つだけ確かな事は……、オレは確かに母さんから『それ』を言われた、という事です。……母さんに直接、確認してもらって構いません」
「…………」
ショーナの説明に、ジャックは再び顔を逸らして大きなため息を吐いた。そして一呼吸置き、今一度ショーナに顔を向けて話を続ける。
「……分かった。お前がそこまで言うのなら、疑う余地は無いだろう。
……長が言うのであれば、仕方がない……。だが条件がある」
「条件……ですか……?」
「そうだ」
ジャックは少しばかり険しい表情を緩めつつ、腕組みをしたままショーナに続きを話した。
「今のお前達は戦闘部隊じゃない。だが……捜索に出るとなれば、今回ばかりは臨時で小隊を組んでもらう。
戦闘部隊は基本的に、単独では動かない。最低でも……必ず小隊を組んで行動する。……どんな些細な任務であってもだ。今、出払って捜索に当たっている連中も、皆、小隊で行動しているからな。
だから、お前達も臨時編成で小隊を組んでもらう。本来であれば、小隊は最低でも三頭で組むが……特別だ。お前達二頭で小隊を組んでもらう。……余ってるヤツもいないし、お前達の相性であれば、お互いカバー出来るだろう」
ジャックの説明が途切れたのを見計らって、ここぞとフィーが口を挟む。
「あの、ジャック隊長」
「ん? 何だ、フィー」
「どうして戦闘部隊は単独で動かないんですか? 捜索するなら、一頭一頭手分けして探した方が手っ取り早いと思うんですけど……」
「フッ……、お前らしいな」
フィーの質問にジャックは表情が緩み、微笑んでその質問に答える。
「捜索に限らず、一頭で行動して何かが起こった時……危険だからな」
「危険……?」
「そうだ。……フィー、仮にお前が一頭だけで捜索して、魔物と出くわし戦闘したとする。そして万が一にも負傷したら……どうする?
一頭だけだと、そういった不測の事態が起こった時、危険な状況になったり対応が困難になったりする。……だから、戦闘部隊では、どんな些細な任務であっても小隊で行動するんだ。これは、それぞれの身を守る為でもある。……分かるな?」
「……はい」
ジャックの答えを聞いたフィーは、納得して一言だけ相づちを打っていた。それを確認したジャックは、再びショーナに顔を向け、先の話しの続きを口にした。
「よし、ショーナ。お前が小隊長だ。……これまでの訓練でも、リーダーとして動いてきた時があったからな、適任だろう」
「……分かりました」
「それと、一応……小隊名も仮に決めておく。俺達が指揮をする時に、小隊名が決まっていないと紛らわしいからな。
まぁ、あくまでも仮だ。お前が小隊長だから……『ショーナ隊』と仮称する。いいな?」
「はい」
ショーナは真剣な表情でうなずく。
「それから、もう一つ条件だ。お前達は仮とはいえ、こうして小隊を組んだ。だから、捜索に出たら……必ず、お互いが確認出来る距離を保つ様にしろ。
お互いが確認出来ない距離だと、カバーが出来ないからな。それだと……小隊を組んだ意味が無い。これは必ず守れ。
何度も言うが、お前達は戦闘部隊じゃない。小隊としての動きも訓練していない。……だから、今はそれを必ず徹底しろ。いいな?」
「……分かりました」
ジャックの言葉に、ショーナとフィーは同時に返事をしてうなずく。ジャックも二頭の返事を聞いて小さくうなずくと、ここで話を変えた。
「とりあえず、お前達が捜索に出る事に関しては、俺からゼロとジョイに伝えておく。お前達の方が先に会ったら、俺が許可したと言えばいい。後から俺が話を付ける。
それと……そうだな、お前達にも捜索の状況を共有しておく。陸戦隊は主に集落周辺の林を捜索し、空戦隊は広域に散って捜索を行っている。お前達から聞いた情報を基に、荒野方面の林へ重点的に部隊を振り分けている。一応、少数だが……荒野にも空戦隊を向かわせた」
ショーナとフィーは、真剣な顔付きでジャックの情報に耳を澄ませている。
「後は……ジョイは朝一で友好派の集落に飛んだ。友好派にジコウがいれば、一応解決はするからな。だから、あいつは真っ先に友好派に情報を持っていった。あいつのスピードなら、何事も無ければ……もう帰路の途中だろう。
それとな、今日の捜索にはゼロも出た」
「ゼロ司令が……ですか……!?」
驚きの声を上げたのはショーナだった。彼は目を丸くして付け足す。
「戦闘部隊の司令が……わざわざ捜索に……!?」
「あぁ、そうだ。護衛を連れてな。……別に驚く事じゃない」
ショーナの反応にジャックは微笑んで答え、少し話題を逸らしてゼロの話をし始めた。
「確かお前達は……最初の顔合わせの時、ゼロが『イーグルアイ』の異名を持っていると、長から聞いていたな?」
「あ……はい……」
「その異名の理由は、覚えているか?」
「確か……『戦場の後方から、その戦場の戦況を判断し、そして各部隊に指示を出すから』……だったと思います」
「そうだ、その通りだ。……では何故、ゼロが『戦場の後方から、戦況を判断出来る』のか、考えた事はあるか?」
その問いに、ショーナは首を横に振り、フィーは首をかしげた。
「……まぁ、そうだろうな。この集落でも……異名は知っていても、その理由の深層を知らない者は多い。……折角だ、この機会に少し話しておこう」
そう言うと、ジャックは腕組みをしたままどっしりと構え、微笑んで話し出した。
「ゼロはな、ただ単に『目がいい』だけじゃない。確かに目はいいんだが、それ以外にも変わった能力を持っている。……恐らく魔法だろう。
ゼロは雷属性を得意としているんだが、ゼロが言うには……生物が発する微弱な電気を感知しているらしい。他にも、魔力がこもった『デンパ』とやらを自ら発し、それの反射を利用して、様々な位置関係を把握している……とも、言っていたな。……俺にはよく分からんが」
今の説明を聞いたショーナは、目を丸くして内心で驚いていた。
(凄いな……! まるでセンサーやレーダーじゃないか……! 雷属性の魔法だと、そういう事も出来るのか……!)




