『彼が見付けた理由』 その4
ここでジャックは話題を変える。
「ところで……。最近、ジコウに変わった事は無かったか? 仮にジコウが『襲ったヤツ』だとしたら、何かきっかけがあったハズだ。さっきショーナが言った、『戦う理由を見付けた』……というのも気になる。何であれ、理由を見付けたのであれば、あいつに何かあったハズだ。……心当たりは無いか?」
ジャックの問い掛けに、フィーは目を閉じて首を横に振る。ショーナは……
(……最近のジコウは、確かにおかしな所はあった。直近で言えば……『クロックポジション』だ。結局、どうしてあいつが知っているのかは分からなかったけど、『クロックポジション』が……この世界の言葉じゃない事だけは……はっきりした。
それに、それを問いただした時、あいつは……『俺の事が分からないなら』って、言ってたっけ……。言い間違いなのかは分からないけど、これも……少し気になる。
そういえば……遠征訓練の時、あいつはオレに……今の生活が楽しいのかどうか、聞いてきたっけ……。これも……何か関係があるのか……?)
少しうつむき、しかめっ面で考えにふけっていた。
「ショーナ。……何か心当たりがあるなら、教えてくれ」
「えっ……!? あ、はい……」
しばらく黙り込んでいたショーナに、ジャックは改めて問い掛けた。ショーナははっとして返事をすると、
「え~っと……そうですね……」
右手の指で顔を掻きながら一言呟き、少しだけ時間を稼ぎながら、急いで考えを巡らせる。
(何を言うかは慎重にならないと……! 『クロックポジション』の件はダメだ! 『俺の事が分からないなら』ってのも、避けた方がいい。オレ自身が、その言葉の意味を分かっていない。そうなると……)
ショーナはジャックに顔を向け、話し始める。
「あいつは……、この前の遠征訓練の時、オレに……今の生活が楽しいのか、聞いてきました」
「今の生活が……楽しいのか……? どういう事だ?」
「分かりません。オレが問い返しても、あいつは……『俺の事はどうだっていい』と……」
「それで、ショーナだけに答えを求めてきた、という事か」
「はい。……フィーは直掩に上がっていたので、これはオレとジコウだけの会話でした」
「そうか……」
ショーナの言葉を聞き、ジャックは顔をしかめて少しうつむき、静かに考えている。そこにフィーが口を挟んで、ショーナに一言問う。
「そんな事話してたの?」
「まぁ、そんな事しか話さなかったけどね。あいつ、普段から寡黙だし……」
「ふうん……」
「でも……本当に突然、聞かれた。普段から寡黙だって事もあるけど、あまり話はしてこなかったし……。あいつがそんな事を言うなんて、少しも思わなかった。だから……あの時は驚いた……。
それでもオレは……あいつが悪いヤツとは思わなかったし、幼馴染みで……いざという時に頼りになると思って……。そう思っていたのに……!」
「聖竜サマ……」
少しうつむき、歯を食いしばって憤るショーナに、フィーはそれ以上、言葉を掛ける事が出来なかった。
そのやりとりを静観していたジャックは、ショーナに声を掛ける。
「ショーナ。……まだ、あいつが襲ったと決まった訳じゃない。証拠が無いからな。……今は、あいつを見付け出し、連れ帰るのが先だ。そうしないと、あいつから話が聞けないからな」
「……そうですね」
ジャックは冷静にショーナをなだめ、ショーナも少し顔をしかめつつ返事をした。
「ちなみに、さっきの話……。お前はジコウに、何て答えたんだ?」
「え……? あの『楽しいのか』っていう、あれですか?」
「あぁ、そうだ」
「オレは……『楽しい』って答えました。……偽り無く」
「……そうか。……ジコウは何と?」
「あいつは……相づちを打っただけでした」
「……分かった」
ここで話が一区切りし、それを見てジョイが口を開く。
「それで……ジコウの捜索の件だけど……」
ショーナとフィーは顔を、ジャックは目を、それぞれジョイに向けて、彼女の話を傾聴する。
「今日は恐らく、日暮れまでこんな天気よ。これだと空戦隊はおろか、陸戦隊も捜索に出る事は出来ないわ。夜に天候が回復したとしても、捜索は困難よ。
となると……、捜索は明朝からになる。そうなると……随分時間が経ってしまうわ。ジコウがどこへ行ったのかは分からないけど、時間が経てば経つ程、見付けるのが難しくなる。
ジコウが荒野へ向かったのだとすれば、オアシスや友好派の集落まで行く可能性もあるわ。そういった事も考えて、捜索に当たらないといけないでしょうね」
「あぁ、そうだな。捜索は空戦隊が中心になるだろう。陸戦隊は主に林の中を捜索する事になる。ただ……普段通り、偵察もあるからな。ジコウの捜索に、どれぐらいの部隊を割けるかは……ゼロと相談する必要があるだろうな」
「そうね」
ジョイの話にジャックが同調し、二頭はここで意見が一致した。次に口を開いたのはジャックだった。
「よし、とりあえず……お前達から聞きたい事は聞けた。俺達はこの後、ゼロに長の件とジコウの件を伝え、明日からの捜索について打ち合わせる。
それと……、こんな状況だ。お前達の訓練は、しばらく見合わせよう。落ち着いたら再開するから、それまでは自由にして構わない。だが……あまりフラフラするなよ。万が一、協力者が潜んでいたら……何が起こるか分からないからな」
そう言うと、ジャックとジョイは席を立ち、ジャックが地下室の扉を開けて、二頭は部屋を後にした。
ショーナは階段を上っていく二頭を扉から顔を出して見送ると、顔を引っ込めて扉を閉め、フィーの隣に戻る。
「……どうしたの? 聖竜サマ」
「フィー。聞きたい事がある」
「……そういえば、そんな事言ってたわね。……なあに?」
フィーが聞く姿勢になった事で、ショーナは改めて彼女に質問をぶつけた。
「フィー。野営訓練の時、敵襲があったのは……覚えてる?」
「実はジャック隊長とジョイ隊長だったっていう、あれ? ……もちろん、覚えてるわよ」
「あの時さ……。ジコウが『十二時方向』って言ったのは……覚えてる?」
「覚えてる。……それ何? 聞いた事無いけど、あの時どうして聖竜サマは『ジコウの正面』って分かったの?」
「やっぱり、フィーも聞いてたか……」
険しい表情で少しうつむき、呟いたショーナ。
「ねぇ、どういう事?」
「……あぁ。その『十二時方向』って言うのは、オレが人間だった世界で使われてた、方向を表す言葉なんだよ」
「えっ……?」
ショーナの言葉を聞いたフィーは一瞬戸惑うも、すぐに言葉を重ねた。
「ちょ……ちょっと待って! どうしてそれを、ジコウが知ってるのよ!?」
「……分からない」
「聖竜サマ、ジコウの前で口を滑らせたんじゃないの!?」
「そんな事、する訳無いだろ。オレはコドモの頃から、この世界で見てない事は言わない様に、言葉には気を付けていたんだ。
野営訓練の時、初めて前世の事を打ち明けたんだぞ? それなのに……オレが人間だった世界の言葉を使ったら、オレが回りから……どういった目で見られるか……」
「……それもそうね」
「野営訓練の後、確認の為に……書庫長にだけは打ち明けたけど……。でも、やっぱりその言葉は……この世界では使われてなかった……」
ショーナは再び、険しい表情で少しうつむく。そこにフィーが突拍子も無い事を言い出した。
「……じゃあ、ジコウも……聖竜サマの世界の生き物だったって事じゃないの?」
その一言に、はっと顔を上げるショーナ。
「フィー……。書庫長と同じ事言うね……」
「だって、聖竜サマが言ってないなら、それ以外に考えられないでしょ?」
「それは……そうだけど……」
ショーナはまたも、険しい表情でうつむく。
(フィーって……せっかちで答えを急ぐ割りに、意外と的を射る事を言うんだよなぁ……時々……)
そう思いつつ、ショーナはフィーに顔を向け直して言う。
「でも、オレが人間だった世界では、言葉を使った生き物は人間だけだったから……」
「じゃあ、ジコウも人間だったって事でしょ? 別に、難しく考えなくても分かる事じゃ……」
「いや、でも……」
ショーナは険しい表情で、フィーの言葉を遮った。




