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『彼が見付けた理由』 その2

 最初の言葉以降、一言も発しないジコウに、フィーは苛立っていた。


「あなたの事は、ずっと上から見てたのよ!? ……あなたが追い掛けてるって言うヤツはどこ!? どこにもいないけど!?」

「…………」


 フィーの追求に、相変わらず沈黙を貫くジコウ。彼はただただフィーに鋭い視線を向け、静観している様だった。


「フィーーーーッ!!」


 そこにショーナの声が響く。彼はフィーの後方からこの場に到着すると、フィーの隣で立ち止まり、息を切らしながらジコウをにらんで一言呟く。


「ジコウ……お前……!」


 ここでついにポツポツと大粒の雨が空から落ち出した。ジコウは少し顔を上げて空を見ると、


「降ってきたな……」


 遠くを見る様な目付きで、一言だけ呟いた。雨は一気に本降りとなり、周囲の草木が雨音を立て、暗くなった空を閃光が走り、雷鳴がとどろく。

 ジコウはショーナに顔を向け、鋭い視線で見つめる。そして……


「ショーナ……。俺は……戦う理由を見付けた」


 そう言うや否や、ブレスをチャージしだす。それを見て、戦闘体勢だったフィーはいつでも回避が出来る様に身構えたが、


「……っ! ジコウ……!!」


 ショーナは突然の事に驚き、右手を前に出して彼の名を呼んでいた。

 間も無く、ジコウはブレスをフルチャージし、それを二頭目掛けて撃ち込んだ。そのブレスは二頭の手前の地面に着弾すると大きく爆発し、彼らの眼前はその爆炎によって遮られた。

 身構えていたフィーは、とっさに大きくバックステップをして回避運動をしたが、右手を前に出していたショーナは回避運動に移る事が出来ず、そのブレスの爆炎から顔を守る様に、右手を顔の前に移した。


「くっ……!」


 爆発後の黒煙がその場から無くなると、彼らの前にジコウの姿は無く、その場には雨音と雷鳴だけが響くだけだった。


「ジコウ……! ジコウ!!」


 ショーナは声を上げ、無意識にジコウを追って走り出そうとしていた。しかし、彼は自身の尻尾が何かに引っ張られるのを感じ、はっと後ろに振り返った。

 彼の尻尾は、フィーが右手で力一杯つかんでおり、彼女は険しい表情をしながらショーナを制止した。


「ダメよ! 聖竜サマ!」

「でも……! ジコウが……!」

「こんな天気で荒野に行くなんて無謀よ! 雷だって酷いのよ!?」

「オレならバリアがある! 雷ぐらい……」

「雷から身を守れても、遭難したらどうするの!? この雨で視界が悪い中、荒野をさ迷うつもりなの!?」

「…………」

「こんな中で行ったら、聖竜サマも帰ってこれなくなるでしょ!? そんな事、聖竜サマなら分かるんじゃないの!?」


 フィーの必死の制止に、ショーナは険しい表情をしながらうなると、彼女の方へと体の向きを変える。それを見たフィーはショーナの尻尾から手を放し、言葉を続けた。


「……戻りましょ? 聖竜サマ。……今は戻って、隊長達に報告するのが先でしょ?」

「…………」

「聖竜サマ!」


 ショーナは険しい表情でうつむき、ここまでの事に落胆していた。フィーは、そんなショーナの左肩に自身の右手を当てて、彼の体を揺すりながら声を張る。


「しっかりしてよ!! 聖竜サマ!!」

「……あぁ、ごめん。……行こう」


 二頭は土砂降りの中、集落へと一本道を走った。




 びしょ濡れで砦へと駆け込んだショーナとフィー。それを見て声を掛けるドラゴンがいた。


「ショーナ! フィー! ……こんな天気で、どこに行っていたんだ……!?」


 声の主はジャックだった。彼は二頭に近付きながら、心配そうに声を掛けていた。その傍らにはジョイも一緒にいる。

 砦の一階は、先程よりは落ち着いていたものの、多くのドラゴン達が何やら慌しく動いていた。そんな中、びしょ濡れで息を切らす彼らを見て、砦の給仕達は慌ててタオルを手に、ショーナとフィーの体を拭いている。


「ジャック隊長……! ジコウが……! ジコウが……集落を離れました……!」

「何だと……!?」


 ショーナの言葉に、ジャックは驚いて一言だけ声を上げた。側にいるジョイも険しい表情をしながら驚いていたが、すぐさま口を挟んだ。


「この天気だと、空戦隊による捜索は無理よ」

「……陸戦隊でも、集落から離れた場所は無理だ。危険すぎる」


 ジョイの言葉に、ジャックも険しい表情で続き、周りを見回してから更に言葉を重ねた。


「……ここだと静かに話せない。続きは地下室で話そう」

「……分かりました」


 ショーナが返事をすると、ジャックは小さくうなずいて地下室へと歩みを進めた。ジャックを先頭にジョイが続き、その後をショーナとフィーが追い掛けた。



 急ぎ足で地下室に入った四頭。ジャックとジョイはテーブルの下の丸イスを引っ張り出し、それに腰掛ける。ショーナとフィーは、テーブルを挟んだ彼らの向かいで、それぞれ床に腰を下ろした。

 一息吐く間も無く、ジャックが口を開く。


「ショーナ、さっきの話だが……。詳しく教えてほしい」

「分かりました」


 ジャックの言葉に、真剣な表情で小さくうなずいたショーナは、これまでの経緯を説明しだした。


「オレは今日、訓練の前にフィーのうちに寄りました。その時、砦から爆発音が聞こえ、黒煙が立ち上っているのを見て……。フィーと一緒に、砦の正面の道から急いで砦に向かいました。

 その時、ジコウが砦から出てきて、オレ達の下に来たんです。あいつは……『長が襲われた。俺は長を襲って逃げたヤツを追う』と言って、一本道の方向へ走っていったんです」

「それで……、お前達はどうしたんだ?」


 ショーナの説明に、腕組みをして真剣な表情で問うジャック。


「……ジコウが砦を出る所を、オレ達は見ていました。でも……あいつが言った『襲って逃げたヤツ』が砦から出る所は……オレは見ていません。

 だからオレは、あいつの言動が怪しいと思い、フィーにジコウの追跡をお願いしてから、オレだけ母さんの所に行ったんです」

「……なるほど」


 ジャックが相づちを打ったのを見計らい、横からフィーが口を挟む。


「だからあの時……聖竜サマは私に、ジコウを追う様に言ったの……?」

「あぁ」

「もしかして……ジコウが怪しいって、気付いてたの?」

「……確証は無かった。でも……『逃げたヤツ』を見ていない以上、疑わしいのは……あいつだけだ。

 フィーは……『逃げたヤツ』を見なかった?」

「……見てないわ。その時も、追跡中も……ずっとね」

「…………」


 ショーナはため息混じりにうなると、少しうつむいて黙り込む。そのやり取りを見守っていたジャックは、ここで話を戻した。


「ショーナ。もう少し詳しく教えてほしい」

「はい。……後から位置が確認出来る様に、フィーには……飛んで追跡する様にお願いしました。オレは母さんの無事を確認して、すぐに砦を出てから上空のフィーを確認し、走って追い掛けたんです」


 ショーナの説明に、ここでジョイがため息混じりに口を挟んだ。


「それにしても……。この天気で、よく追跡飛行なんて指示を出したものね……。あなたならバリアで何とかなっても、バリアも無い、雷属性でもないドラゴンが被雷(ひらい)したら、ひとたまりも無いのよ?」

「……すみません」

「まぁ、その指示を簡単に受け入れるフィーもフィーだけど。……あなたには、空戦隊の訓練時に教えたハズよ? 雷鳴が聞こえたら、ただちに着陸して安全を確保する様にと」

「……私が飛び立った時は、まだ雷鳴も遠くでしか聞こえていませんでした。雨も降っていませんでしたし。

 ……聖竜サマが何の考えも無しに、私に指示を出すなんて、私は思ってません。だから指示通り動きました」


 ジョイの苦言にショーナは一言謝っていたが、フィーは少し苛立った様に反論した。

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