表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/106

『その言葉の先にあるもの』 その7

「書庫長、それで……『クロックポジション』なんですが……」

「ふむ、そうでしたな」

「それを説明する為には、他にも説明しないといけない事があるんです」

「構いませんよ、ショーナ様。物事は相互関係があるものです。どうぞ、お話し下さい」

「……分かりました」


 ショーナはうなずいて、話を続ける。


「オレが人間だった世界では、一日の長さを二十四分割していました。その単位を『時間』と言い、一時間、二時間……といった具合で、表していました。

 また……その時々を表す場合は、数字の後ろに『()』という単位を付け加えて表しました。一日の始まりは零時から始まり、一時、二時……といった具合で進み、一日の終わりは二十四時で、そこで日付が変わると同時に、また零時に戻って……と、それが繰り返していました」

「ふむ、それはなかなか興味深いですな。何故、二十四分割なのかは不思議ではありますが、そうやって統一した基準や単位があれば、意思疎通もしやすかったでしょう。

 それに比べ……この世界で、わたくし達が言っている『時間』という言葉は……実に大雑把ですからな」

「オレも……よくこれで生活が成り立つな……と、最初は驚きました。今はもう慣れましたが……」


 苦笑いをして答えたショーナは、一呼吸置いて、改めて続きを話す。


「それで、まだ続きがありまして……。

 その一時間を更に六十分割した単位を『分』と言い、その一分を更に六十分割した単位を……『秒』と言っていました。

 その『時』『分』『秒』を組み合わせて、その時々を詳細に表し……、それも『時間』と言われました」

「何と……! そんなにも細かく、一日を細分化して表していたのですか……!?

 ショーナ様は、そんな世界で長らく生活を……?」

「え? えぇ、まぁ……」

「わたくしには息が詰まりそうです。その世界の人間は、さぞ几帳面だったのでしょうな」


 フォーロは目を丸くし、心底驚いていた。それを見たショーナは苦笑いをしつつ、更に説明を続ける。


「まぁ、実際には……『時』と『分』を組み合わせて使うのが一般的で、『秒』まで使う事は……普通の生活では、あまり無かったですね」

「ふむ、なるほど……。それでも、この世界とは……『時間』の感覚が大きく違いますな。この世界では……『年月日』までしか、表す術がありませんから」

「……そうですよね。時間を表そうにも、『昼下がり』とか『半日』とか、そういう言い方をしますし……」


 微笑んで言うショーナに、フォーロも微笑んで質問を返す。


「しかし……先程の話ですと、『ジ』と『フン』が一般的との事でしたが……。ショーナ様の性格上、『ビョウ』も意識して生活されていたのではありませんか?」

「え……? どうして分かったんですか……?」

「ショーナ様は真面目ですからな。ご自身の『時間』には、厳しかったのではありませんか? 例えば……誰かとの待ち合わせですとか」

「……鋭いですね、書庫長……」

「ショーナ様なら、きっとそうでしょう。……わたくしでなくとも、分かりますよ」


 フォーロに見抜かれたショーナは、苦笑いをして一呼吸置き、更に話を進める。


「それで……、その時の時間を示す道具があったんです。それを……『時計』と言いました」

「ふむ、確かに……そういった道具が無いと、折角の指標も役に立ちませんからな」

「はい。……その道具も色々な種類があったのですが、一般的に普及していた物の一つは……文字盤と針を組み合わせた物でした」

「ほう、文字盤と針……ですか」

「えぇ」


 相づちを打ったショーナは、手振りを交えて説明を続けた。


「数字を円形に並べ、その中心から三本の針を伸ばし、それを動かす事で……時間を示していました」

「なるほど、つまり……三本の針というのが、それぞれ『ジ』『フン』『ビョウ』を示していた……という事ですな?」

「その通りです、書庫長。……円形に並べられる数字は一から十二までで、『時』の針が一周すると半日、二周すると一日……といった具合でした」

「ふむ……。つまり……一周目は昼前で、二周目が昼過ぎという事でしょうが……。その表し方だと、誰かに『時間』を伝える時、昼前なのか昼過ぎなのか、混乱が生じてしまいそうですな」

「確かに、数字だけを伝えようとすると、書庫長のおっしゃる通り混乱する事もあります。ですが……十二時間で表す時には、それを分かる様にする決まりがありました。

 昼前は『午前』と言い、昼過ぎは『午後』と言い、それぞれ時間の前に付け足していたんです」


 ショーナの説明で察したフォーロは、微笑んでショーナに答える。


「なるほど、わたくしにも読めてきました。確かにそれなら、文字盤の数字が十二までしか無くても、一日の『時間』を正確に伝える事が出来ますな。

 では……、一日の『時間』を伝える方法は、二種類あった……という事ですかな?」

「そうです。例えば……十五時であれば、午後三時と言う事も出来ます。この二つは同じ時間です」

「ふむ……。それをとっさに『同じ』と分かる様になるには、少々慣れが必要ですな……」

「……そうだと思います。実際、時々分からなくなる時もありましたし……」


 ショーナは苦笑いをして右手の指で顔を掻き、一呼吸置いて続ける。


「それで、その『時計』についてなんですが……。文字盤の数字は、上が十二、右が三、下が六、左が九で、その間には……それぞれの間の数字が並んでいました」

「なるほど、右回りという事ですか。しかし……十二が上というのは不思議ですな」

「オレも……それは分からないんですけど、でも……その方が十二時間って分かりやすいかもしれないですね。もし上に零時を示す数字を入れれば、右回りで最後に来る数字は十一になりますし……」

「ふむ……」

「まぁでも、結局は慣れな気もします……」


 再びショーナは苦笑いをし、ここで一呼吸置くと、いよいよ話の核心に触れだした。


「ここまで回り道をしましたが、これでようやく……元の話に戻せます。その『時計』というのは……『クロック』とも言われるんです」

「……なるほど、そういう事でしたか……」


 それを聞いて全てが繋がったフォーロは、目を閉じて相づちを打ち、何度も小さくうなずく。


「先程、ショーナ様がおっしゃった言葉……」

「そうです、『クロックポジション』……。これは……その『時計』の文字盤に書かれた数字の位置関係を元にしたもので、観測者からの位置関係を示す為に言われる言葉を意味します。

 例えば、観測者の前方であれば……『十二時方向』と言い、観測者の右方向であれば……『三時方向』といった具合です。

 これが、左後方であれば……『七時方向』や『八時方向』となり、微妙な位置関係も伝える事が出来るんです」

「ふむ、確かに……文字盤とも一致しますし、その方法であれば……ショーナ様のおっしゃる通り、微妙な位置関係も相手に伝える事が出来ますな」


 ショーナの説明に、フォーロは微笑んで納得していた。しかし、とある事に気付いてショーナに問う。


「しかし……。どうしてショーナ様はそれを、わたくしに……お尋ねになられたのですかな?

 先程お話しした通り、その言葉は初めて聞く言葉です。わたくしだけでなく、他の者も知らないでしょう。何故なら……、この世界には『トケイ』という道具はありませんからな。『トケイ』という道具が無ければ、その表現が生まれる事はありません」

「……この世界の人間も、『時計』は使っていないのでしょうか……?」

「ふむ。もし人間が使っていたとすれば、交流のある友好派にそれが伝わり、そして……この独立派にも持ち込まれた事でしょう。そうすれば、互いに正確な『時間』を共有する事が出来たハズです。

 今、それが独立派に無いという事は、つまり……友好派にも無く、人間も持ち合わせていないという事ですな」

「…………」


 フォーロの言葉に、ショーナは険しい表情で落胆してうつむき、鼻で小さくため息を吐いた。


「ふむ……。どうやら、今日ショーナ様が一番気になっているのは……その言葉という事ですな。

 ……何があったのです?」

「……はい、実は……」


 心配して問うフォーロに、ショーナはうつむいたまま、「彼」の事を話し出した。


「今、お聞きした『クロックポジション』……。それを……口にしたドラゴンがいたんです」

「それは……一体、どなたが……?」

「……ジコウです」


 ショーナはうつむいたまま一呼吸置き、その続きを話す。


「あいつは……野営訓練中に言ったんです、『十二時方向』と……。それも、正しい意味で……」

「ふむ……」

「オレは……今日、ここに来る前、あいつに問いただしたんです。ですが、あいつは……答えをはぐらかしました……。

 それでオレは、どうしてあいつが『クロックポジション』の事を知っているのか気になって、それで…………」

「それで……わたくしの所にいらっしゃった、という事ですな」

「……そうです」


 途中で言葉に詰まったショーナに、真剣な表情をしたフォーロが言葉を繋ぎ、その言葉を聞いたショーナは、相づちを打ちながら険しい表情をフォーロに向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ