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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『その言葉の先にあるもの』 その2

 少しの沈黙を破り、ショーナが険しい表情をして口を開く。


「……あの場所に決めたのは……オレです」


 それを聞き、左隣にいたフィーは目を丸くして、無言でショーナに顔を向けた。ジャックは腕組みをしていた右手を再びアゴに添え、意外そうな表情をあらわにし問い直す。


「ショーナが……?」

「はい……」


 口数少なく交わされた問答の後、ジャックは右手を腕組みに戻し、一呼吸置いて話し始めた。


「ショーナ、誰かを責めるつもりは無い。かばうのはよせ。……お前達の表情を見れば大体分かる。……どうせフィーが言い出したんだろう?」


 見抜かれてしまったショーナは、鼻で小さくため息を吐き、少しうつむいて答える。


「……確かに、あの場所を提案したのはフィーでした。ですが……決めたのはオレです。今回もリーダーは……オレです。責任はオレにあります」

「……聖竜サマ……」


 自責の念に駆られるショーナに、フィーは気まずい表情を向け、ぽつりと呟いた。それを聞いたジャックは再び一呼吸置き、諭す様に言う。


「ショーナ、もう一度言うが……、俺は誰かを責めるつもりで聞いている訳じゃない。責任を問うつもりも無い。

 いいか? 今回は訓練だ、それも……初めてのな。俺達が脅かしたのも、野営で起こり得る事を再現したまでだ。『開けた場所で野営をすれば、敵に見付かり襲われる』……というな。

 口で説明するより、実際に体験した方が……身に付くだろう?」

「それは……そうですが……」


 浮かない顔で、ショーナは言葉に詰まる。ジャックは話題を変え、続けた。


「まぁ、それはそれとして、一つ気になった事はある。……ショーナ、救援要請を出さなかったのは何故だ?」

「えっ……?」

「お前達は、俺達の襲撃で救援要請を出さなかった。その理由を知りたい」

「それは……。三対ニで数的優位だったので、対応出来ると思ったからです」

「……なるほど」


 ジャックは腕組みをしたまま、目を閉じて相づちを打った。そして一呼吸置くと、ショーナに声を掛ける。


「数的優位なのは分かる。しかし……、それは敵の正体が分かっていればの話だ。お前達が、昨日の敵が俺達だと気付いていなかったという事は、敵の正体に気付いていなかったという事だ。

 敵の正体が分からないまま、数的優位というだけで、自分達だけで対応したというのは……あまり褒められた事とは言えないな」

「……すみません」

「まぁ……もし、あの場で救援要請を出していれば、そこで俺達も種明かしをしていたんだがな。……湖に落ちただけ損だったな、お前達も」


 浮かない顔をするショーナにそう言いながら、ジャックは微笑み、更に続ける。


「あぁ、そうだ。ついでだから覚えておくといい。……ごく一部の例外を除き、大抵の闇の魔物はブレスや魔法を使わない。それを使える程、魔力を持っていないからな。

 ……つまりだ。今回の襲撃でジョイが放った攻撃が、敵を見極めるポイントだったという事だ。ジョイの一手目は風属性のブレスだった。あの段階で『敵が闇の魔物ではない』と気付けていれば、また別の対応も取れたハズだ。救援要請も視野に入っていただろう。

 ……まぁ、今回はいい勉強になったな」


 ジャックはフォローする様に諭し、ショーナ達に話をしていたが、ショーナは相変わらず浮かない表情で少しうつむき、フィーは気まずそうに視線を逸らしていた。

 ジャックの話が一段落したのを見計らい、ここでジョイが口を開く。


「それにしても……。やってくれたわね、ショーナ」

「えっ……?」


 ジョイの言葉にはっとして顔を向けたショーナ。


「……あなた、私が脇をかすめた時、撃ってきたでしょう?」

「えっ……? あっ……はい……」


 あの時、ショーナは衝撃波に吹き飛ばされる直前、すれ違ったジョイにブレスを一発撃っていたのだ。

 ジョイは右翼を広げて、赤くただれた飛膜を見せ、続ける。


「全く……、見なさい? これ。……あなたのブレスの威力が低いのは分かっていたけど、それでも……この有様よ。まさか、あの状況で撃ってくるとは思ってもみなかったし、しかも直撃するなんて……。そもそも……よくあの状況で撃って、しかも当てれたものよ。

 ……フィーに追い掛けられていた時も、あなたのブレスは正確に飛んでくるし、避けるのが本当に際どかったわ。だから……仕方なく、フィーを衝撃波で弾き飛ばしたけど……。そうでもしなかったら、その時も直撃していたでしょうね」

「……すみません」


 ジョイの言葉に、ショーナはただただ謝る事しか出来なかったが、そこにジャックが口を挟んだ。


「違うぞ、ショーナ。ジョイはな、お前を褒めてるんだ。

 ……こいつは初めてなんだよ、誰かのブレスに被弾したのは」

「えっ……?」


 驚くショーナに、翼を畳んだジョイが再び口を開き、自身の言葉で説明を始める。


「ジャックの言う通りよ。私はこれまで、模擬戦でも実戦でも、ブレスや魔法に被弾した事は無かった。近接戦闘でさえ、一撃も貰った事は無かったわ。

 それが……まさか、生まれて初めて被弾したのが、あなたのブレスだなんて……。本当、困った『射撃の天才』ね。それとも……エイラ様の子だからかしら。さすがと言うか、何と言うか……」

「……すみません」


 どこか素直に褒められた気のしなかったショーナは、苦笑いをしながら右手の指で顔を掻き、今一度謝っていた。


(そう……か……。ジョイ隊長の火傷は、あの時のオレのブレスだったのか……。当たってたんだな、あの時のブレス……)


 向かってくる敵に、すれ違い様に苦し紛れに撃った一発。ショーナが何とか一矢を報いようと撃った一発だったが、それは見事に命中していた。その事だけは、ショーナは少しばかりプラスに捉えていた。

 ジョイの話が終わった事で、ジャックが話を締めくくりに掛かる。


「まぁ、結果的には全滅だったが、お前達の動きは悪くなかった。ジコウの初動と索敵は完璧だったし、フィーもよくジョイを追いながら、ブレスを撃ち続けたと思う。

 そしてショーナ。それぞれへの指示は完璧だった。きちんと役割分担をし、ジコウに俺を見張らせた上で、フィーの掩護射撃をしたのは良かった所だ。ジョイもああ言っていたしな。……ジョイが反撃していなければ、いずれブレスが直撃していただろう。……相変わらず、いいセンスだ。

 悪かった点は、次の野営の機会に意識して直せばいい。良かった点も多かったんだ、あまり気に病むな」

「……ありがとうございます」


 ジャックの言葉にショーナとフィーは微笑み、ショーナは最後にお礼を口にしていた。


「……よし! これで野営訓練を終了する!

 次の訓練は……明後日の昼下がりにしよう。また通常訓練に戻るからな、今日明日はゆっくり休んで、明後日の訓練に備えておけ。……お疲れさん!」

「ありがとうございました!」


 ショーナとフィーは大きな声で挨拶をして一礼、ジコウは静かに一礼し、三頭はそろって訓練場を後にした。



 訓練場からの帰路の最中、ショーナは顔をしかめて考えを巡らせていた。


(昨日の襲撃が現実の事だったという事は……、その時の言動も現実の事だったという事だ……。あの時、確か……ジコウは……『十二時方向』と言っていた……。これは……)

「……サマ! 聖竜サマ!」

「……!」


 フィーの呼び掛けに、ショーナははっとして歩を止め、彼女の方に顔を向けた。


「……また考え事?」

「……そうだね」

「もしかして……昨日の夜の話?」

「いや……、今は別の事を考えてた」

「ふうん……。考え事、多いわね。……疲れないの?」


 フィーの言葉に、苦笑いをしたショーナ。


「……疲れるよ」

「じゃあ、考えなければいいのに」

「そういう性分なんだよ。……昔からね」

「ふうん……」


 いつもの相づちを打ったフィーは、早々に話を切り上げた。


「じゃあ、私はこっちだから」

「あぁ」

「じゃあまたね! 聖竜サマ!」


 そう言うと、フィーは軽やかに駆けて帰っていく。その後姿を、険しい表情で見送るショーナ。


(……『十二時方向』……か……)


 フィーを見送ったショーナは、再び砦へと歩き出す。ショーナとフィーが話している間に、ジコウは先に戻ってしまい、この場にはいない。ショーナは更に険しい表情をし、先程の考えの続きを頭の中で巡らせていた。


(あいつが言った『十二時方向』ってのは……『クロックポジション』だ。でも……)


 ショーナは少しキバをむき出す様に歯を食いしばる。


(この世界のドラゴン達は、時計を使っていない……! それ所か……二十四時間の概念も、時間の単位も無い……! あいつは……どうして知っているんだ……!?)


 答えが見付からないショーナは、険しい表情をしたまま砦へと戻っていった。

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