表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/94

『野営訓練』 その6

 ショーナが魚を食べ終わり、その残りを湖に捨てた所を見たフィーは、ショーナに微笑んで声を掛ける。


「じゃあ、皆食べ終わったんだし、もう寝ましょ?」

「あ……うん……、そうだね……」


 ショーナは何かを考える様に、焚き火に顔を向けて相づちを打った。その表情はどこか暗く、彼に目を向けていたフィーは、深刻そうに見えたショーナを心配して問い掛ける。


「……どうかしたの?」

「……ちょっと……考え事をね……」

「……話、聞くけど……?」

「…………」


 フィーの気配りに、ショーナは鼻で小さくため息を吐き、考えを巡らせる。


(今、ここにいるのは……、オレとフィーとジコウだけ……か……。打ち明けるなら……調度いいんだろうけど……)


 なかなか返事が貰えなかったフィーは、ショーナの言葉を待たずして、改めて問い掛ける。


「……話しにくい事?」

「……そうだね」

「私にも……?」

「……オレがこの話をしたら、フィーは……オレの事を……気持ち悪く思うかもしれない……。オレの事が……嫌いになるかもしれない……。それが怖い……」


 じっと焚き火を見つめ、険しい表情を続けながらフィーに答えたショーナ。


「……気にしすぎよ、聖竜サマ」

「…………」

「じゃあ、ずっと抱えてるつもり?」

「いや……、いつかは話さないといけないと思ってるけど……」

「なら、今話せばいいじゃない。今日でも明日でも変わらないわよ」

「…………」


 ショーナは再び鼻で小さくため息を吐き、焚き火に顔を向けたままジコウに目を向ける。ジコウは焚き火に背を向ける様に丸くなっており、ショーナからはジコウの様子を伺う事は出来なかった。


(ジコウは……もう寝たのか……?)


 ジコウを確認してすぐ、ショーナは焚き火に目を戻し、意を決して話し始めた。


「オレさ……前世の記憶があってさ……」

「……『ゼンセ』って……なに……?」

「え? あ、あぁ……えっと……。前世ってのは……そうだね……、今のドラゴンとして生まれる前の……生涯……かな」

「……どういう事?」


 焚き火に顔を向けるショーナに、フィーは顔を向けて話していたが、その顔をしかめて首をかしげる。ショーナは相変わらず、険しい表情で焚き火を見つめ、話を続ける。


「……端的に言うなら……オレは……、今のドラゴンとして生まれる前の記憶が……その記憶を持ったまま……生まれてきたって事で……」

「……よく分からないけど、今のドラゴンとして生まれる前に、別のドラゴンとして生きていて、その記憶が残ってる……って事?」

「……考え方は、それで合ってるよ。でも……オレは……、前世はドラゴンじゃなかったんだ……」

「じゃあ……別の生き物だったって事?」

「……あぁ」


 ショーナとフィーは互いに身動き一つせず、同じ状態を維持したまま話を続けた。


「オレの前世は…………」

「…………」


 ここでショーナは言葉に詰まってしまった。フィーは彼の言葉を少し待ったものの、我慢し切れずに自ら口を開く。


「話して? 聖竜サマ」

「…………」

「別に『魚だった』って言ったって、私は驚かないわよ」

「……フィーにしてみれば……、魚の方が……マシかもね……」

「……ただの例えよ。私がそんな簡単に、聖竜サマの事を気持ち悪いとか、嫌いとか……」

「なるかもしれない生き物だった、……って事だよ」


 ショーナはフィーの言葉を遮り、更に険しい表情をして最後の言葉を口にしていた。そんなショーナに、フィーは心配そうに声を掛ける。


「私達、幼馴染みでしょ? もう少し……私の事、信じてよ」

「オレは……これを話す事で……その絆が壊れるのが怖い……。話す……覚悟が……」

「私、聞く覚悟はあるけど?」

「…………」

「いつも言ってるでしょ? 気にしすぎなのよ、聖竜サマは。……真面目すぎるのよ」

「…………」

「それに、そこまで話しておいて……ここで話を止める方が失礼だと思わない? 私に失礼な事をして、それで『真面目な聖竜サマ』は自分が許せるの? どうせ後悔するんでしょ?

 だったら、話してみればいいじゃない。私、聞く覚悟は出来てるんだから」

「わ……分かったよ……」


 最後に強引に言い包められたショーナは、フィーに顔を向けて苦笑いをし、一言だけ返していた。押しの強いフィーの言葉で、少し表情が緩んだショーナは、再び焚き火に顔を向け、どこか懐かしむ様に微笑んで話し始めた。


「オレさ……、前世は人間だったんだよ。それも……この世界じゃない、別の世界の……」

「『ニンゲン』って……書庫長から聞いた、あの……?」


 ショーナは聞き返すフィーに顔を向け、小さくうなずいて話を続ける。


「この世界の人間は見た事無いから、はっきりとは言えないけど……。多分、同じだと思う」

「……ねぇ、『別の世界』って、どういう事?」

「……そのままの意味だよ。この世界じゃない別の世界で、オレは人間だった」

「ふうん……」


 フィーは顔をしかめて相づちを打ち、ショーナに質問する。


「それで……。聖竜サマが人間だった世界に、私達みたいなドラゴンはいたの?」

「いや……、ドラゴンはいなかったよ。正確には……ドラゴンは空想生物だった……かな」

「空想生物?」

「あぁ。物語の中や、描いた絵……。そういった物の中にしか、ドラゴンはいなかったね」

「つまり……、書庫にある書物みたいな?」

「あぁ。……まぁ、説明が難しくなるから控えるけど、もっとリアルに感じられる表現の中で、色々な種類、色々な見た目のドラゴンがいたよ」

「ふうん……」


 相変わらずの相づちを打ちながらも、フィーは真剣にショーナの話に耳を傾けている。


「じゃあ、その世界でもドラゴンは人間と友好関係を築いていたの? 物語の中とはいえ」

「……いや、そういう物語は少なかったかな……」

「どういう事?」

「オレがいた世界だと……、ドラゴンは悪の象徴だった。世界を征服しようとしたり、財宝を人間から奪ったり、河川を毒で汚染したり……。だから、多くの物語でドラゴンは人間に討伐され、そのドラゴンを倒した人間は『英雄』として、多くの人間から称えられた」

「……穏やかじゃないわね」

「……そう思うよ」


 顔をしかめるフィーに、苦笑いするショーナ。


「見せてあげたいと思うよ、この世界のドラゴン達を。……こんなにも文化的で、友好的で……、冗談も言う様なドラゴン達をね」

「…………」

「オレも……人間だった頃からドラゴンは好きだったけど、この世界のドラゴンがこんなにも……人間と同じ様な、文化的な生活をしているとは思わなかったよ」

「……ドラゴンの事、好きだったのね」

「……そうだね」

「……いたの? 好きなドラゴン」

「まぁ……いたかな……」


 フィーの問いに、ショーナは恥ずかしそうに苦笑いをして、右手の指で顔を掻いた。


「でも待って? そもそも聖竜サマは人間だったんでしょ? だったら、人間のパートナーはいなかったの?」

「……いなかったよ。パートナーも、恋仲も」

「ふうん……」

「というか……、興味無かったかな。……だったら、ドラゴンを見ていた方が、自分としては有意義な時間だったというか……」

「……じゃあ、こうしてドラゴンに生まれて、今は幸せって事?」

「……そうだね。……まぁ、思ってたのと違う事もあるけどね」


 そう言って、ショーナは再び苦笑いしながら右手の指で顔を掻き、内心で言葉を付け足す。


(……主に母さんだけど……)


 そんな事を思っていたショーナに、フィーが質問を投げ掛ける。


「ねぇ、だったら……友達とかはいなかったの?」

「……親友はいたよ」

「どんな?」

「あいつは……よく一緒にゲームをする仲だった。結構、気が合うヤツでさ」

「……『げーむ』って……なに……?」

「え? あ、あぁ……えぇと……。簡単に言えば……架空の世界で、架空の自分を動かして遊ぶ事……かな」

「架空の……世界……? 自分……?」


 フィーの突っ込んだ質問に、ショーナは顔をしかめて右手で頭を掻く。


(説明が難しいな……。この世界は科学が発展してないし、見てる物が違うから……。言葉に気を付けないと……フィーも理解出来ないし……)


 少し考えつつ、ショーナはフィーに説明する。


「まぁ、そうだね……。この世界で言うなら……書物になるかな。書物に書かれた物語に、自分が決めた『架空の自分』を入れて、それで……その物語を追体験するんだよ」

「ふうん……。じゃあ、その『ゲーム』って言うのの親友がいたって事?」

「……あぁ」


 フィーの問いに、ショーナは微笑んでうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ