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『保護された子』 その1

 ショーナがドラゴンとして生を受け、二年程が経った。


 幼い頃から始めていたフィーとの特訓は、この日まで変わらず毎日続けられていた。

 昼下がりになると、ショーナとエイラは砦の外に出て、砦まで出向いてくるフィーと落ち合い、日が傾くまで模擬戦を繰り返す。その甲斐もあり、幼い頃は体の使い方が不完全だったショーナも、体の使い方を十分に理解して、翼も思った通りに動かせる様になった。

 しかし、体の使い方を理解しただけでは、解決出来ない事もあった。


「はい、そこまで!」

「また私の勝ちね、聖竜サマ」


 フィーと特訓を始めて以降、ショーナは未だに勝つ事はおろか、引き分ける事すら出来ないでいた。


「今のは踏み込むんじゃなくて、一旦下がった方が良かったんじゃない?」

「……かなぁ?」


 毎戦ごとにフィーからのアドバイスを貰い、ショーナも随分と動きは良くなっていたが、どうしてもフィーに一歩及ばなかった。

 負け続けだったショーナだが、彼の表情は暗くない。模擬戦は戦い方を学び、研究する手段である事。そして、負けてもいいのだという事。それを十分に理解して、模擬戦に挑む事が出来る心境になった事で、負い目を感じる事は無くなっていた。


「よし! もう一度!」


 ショーナがそう言って戦闘体勢を取った時だった。


「エイラ様!」


 何やら慌てた様子で、エイラの下に一頭のドラゴンが舞い降りた。


「どうかしましたか?」


 報告に来たドラゴンとは対照に、エイラは落ち着いて受け答えた。


「は……はい! 偵察部隊がコドモを保護したと……」

「……分かりました、すぐに向かいます」


 少し真剣な顔付きで答えたエイラは、振り向くと穏やかな表情でショーナ達に声を掛ける。


「今日はここまでにしておきましょう。ショーナもフィーも、もう帰っていいですからね」


 そう言って、報告に来たドラゴンと共に飛び立った。


「ねぇ、私達も行ってみない?」

「えぇっ!?」


 フィーからの思い掛けない提案に、ショーナは戸惑ってしまった。


「別に、誰も『来るな』とは言ってなかったでしょ?」

「そ……そうだけど……」

「さっきの話し、コドモを保護したって言ってたじゃない? 聖竜サマは気にならないの?」

「そりゃ、少しは気になるけどさ……」


 ショーナがこの集落で出歩き始めてから、目にしたコドモはフィーだけ。他のドラゴン達は皆オトナだった。

 ショーナは常にフィーと一緒にいた訳ではなかったが、フィーがこの集落から出ていないのであれば、きっと自分と同じ状況なのだろうと、ショーナはフィーの言葉を聞きながら気持ちを察していた。


「私は行くけど、聖竜サマはどうするの?」

「じゃあ……付いてくよ」


 二頭はエイラ達が飛んで行った方向に走り出した。



 集落の端辺りまで走った二頭は、エイラの前に何頭ものドラゴンが集まっている場面に遭遇した。

 エイラの前には保護したコドモと思われるドラゴンもおり、その周囲にいるドラゴンも、エイラを前に少しかしこまった表情を浮かべ、どこか物々しい雰囲気さえ漂っている。

 少し近寄り難い雰囲気を感じた二頭は、少し離れた場所で足を止めた。


「この子がそうですか?」


 エイラが話し始めると、彼女の正面に立っていた黒い二足歩行型のドラゴンが、彼女の問いに答える。


「はい。偵察部隊が発見し、保護して集落まで連れてきました」

「保護した場所は、どこだったんですか?」

「友好派と独立派の間にある、林の中のほら穴です」

「その林は……」


 エイラは集落の外の林に視線を向けた。すると、それを見た黒いドラゴンはエイラの問いを察したのか、すぐに答えた。


「そうです。この集落から離れてはいましたが、集落周辺から続く林の中です」

「……そうですか」

「それと……少し気になった事が……」

「何でしょう?」


 エイラと話す黒いドラゴンは、側にいたドラゴンから青く輝く石を受け取ると、それをエイラに見せた。


「そのほら穴に、水の魔力がこもった魔石が置いてありました。この魔石が水を湧き出していた為、彼は水の心配をする事無く、そのほら穴で生活出来ていたのだと考えます」

「ほら穴に魔石が……?」

「はい。ただ……この魔石、自然に出来た物ではない様で……」

「誰かが置いていった、という事ですか?」

「そう考えます」


 黒いドラゴンは話し終えると、側にいたドラゴンに魔石を返した。会話に一呼吸置いた後、エイラが口を開く。


「ところで……、この子の親はいなかったんですか?」


 エイラの問いに、再び黒いドラゴンが答える。


「周辺を捜索しましたが、親と思われるドラゴンは見付かりませんでした」

「見たところ、この子は大体二歳くらいじゃありませんか? そんな子を残して、親が離れるとは思えませんが……」

「我々もそう思い、陸と空から入念に捜索したのですが……」


 その黒いドラゴンは、顔を横に向けて険しい表情をし、続ける。


「亡骸さえも……。本当に『消えた』としか……」

「そうですか……」


 その報告を聞いたエイラは、少し険しい表情で相づちを打つと、そのドラゴンを労いながら今後の話をした。


「報告ありがとうございます、ジャック隊長。この子は砦で面倒を見ましょう、……砦は空き部屋が多いですからね」

「分かりました」

「では……、部隊の皆さんもありがとうございました。後は引き受けますので、皆さんは持ち場に戻って下さい」

「……では失礼します、長」


 そう言って軽く頭を下げた黒いドラゴンは、周りにいたドラゴン達に大声で指示をした。


「よし! 皆持ち場に戻れ! この後は通常の態勢に移行する! 訓練がある者は訓練を継続だ! 偵察部隊は引き続き偵察を続けろ! いいな、掛かれ!」


 この声を聞いて、周りにいたドラゴン達は一斉に散らばった。黒いドラゴンもそれを見ながら、どこかへ歩いて去っていく。

 それを見届けたエイラは、保護したとされる子に優しく声を掛けた。


「さて……。まだ、あなたの名前を聞いていませんでしたね。……お名前は?」

「名前……、名前は……無い……」

「あら……」


 やや無愛想に答えたその子の言葉に、エイラは少し首を引いて驚く。


「じゃあ……名前を決めないといけないですね」

「俺の……名前……?」


 エイラは少し上を向いて、目を閉じて考え始める。


「そうですね……。男の子ですし、名前は…………」


 短い沈黙を挟み、エイラは彼の名前を伝えた。


「ジコウ! ……ジコウにしましょう!」

「…………」


 笑顔で話し掛けるエイラに対し、彼はただ静かに、小さくうなずいたのだった。

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