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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『黒いドラゴン』 その7

 ショーナはフィーの家の前に到着し、ふと考えていた。


(……まさか、こんな形でフィーのうちに来るとはなぁ……)


 そう思いながらも、扉をノックする。一歩下がって待っていると、扉を開けてフィーが顔を覗かせ、ショーナの顔を見て一言呟く。


「……聖竜サマ? どうしたの?」

「あぁ。……ちょっと話があって」

「話? ……じゃあ入って」

「えっ……!?」


 予想していなかった「お招き」に、ショーナは驚いて固まってしまった。


「……どうしたの?」

「えっ……? あ、いや……。その……女の子のうちに上がり込むのって、いいのかな……って……」


 ショーナは少し苦笑いをしながら、気まずそうに目を逸らし右手の指で顔を掻いている。すると、フィーは首をかしげつつ少し顔をしかめ、一言漏らす。


「……何それ。変なの」


 それを聞いたショーナは、ふと思う。


(……ドラゴンにとっては、女の子のうちに上がるのって……普通の事なのか……?)


 動きを見せないショーナに、フィーは早々に言葉を重ねる。


「ほら、早く入って? 立ち話なんて嫌だし」

「えっ……!? あ……分かったよ……」


 フィーが顔を引っ込めると、ショーナは扉を手で押さえながら中に入った。


「お邪魔しま……す」


 小声で呟く様に一言発しながら中に入ると、フィーの家の中を目でキョロキョロと見たショーナ。フィーの家は一部屋だけの作りで、水の魔石を使った水場や、食料を保管しておく為の棚と容器があったりと、他の家屋と特段変わった事は無かった。ただ一点を除いては。


(……一頭で住むには、やけに広いな……。母さんの部屋より広いぞ……? ファミリーサイズ……か?)


 あまりの部屋の広さを不思議に思っていたショーナだったが、その答えはすぐに自己解決した。


(そ……そうか……! 確かフィーは……両親がいたんだ……! でも……)


 ショーナがそんな事を考えていると、フィーが食料を保管している容器を漁りながら、ショーナに声を掛けた。


「適当に座って」

「え? あ、あぁ……」


 ショーナはフィーの寝床の前で座り込む。すると、フィーはショーナに何かを放った。


「聖竜サマ、これ」

「え? あ……と」


 フィーから放られた物を右手で掴み取ったショーナは、それを見て声を上げる。


「あっ……! これ……!」

「……好きなんでしょ? 酸っぱいの」


 フィーが放ったのは、オアシスで生っていた黄色い木の実だった。


「どうして……?」

「聖竜サマが来ると思って、今朝貰っておいたのよ。支援部隊に」

「……わざわざ?」

「だって、本当に酸っぱいのが好きなのか、見てみたいじゃない?」

「……そんな事、ウソ吐く程の事じゃないけど……」


 ショーナは苦笑いをして、少し呆れた様に言葉を返した。当のフィーは、自身の甲殻と同じ色をした、淡いピンクの木の実を右手に持ち、自身の寝床に丸く座り込むと、それを半分程かじってショーナに声を掛ける。


「ほええ、はあひっへ?」

「……フィー、飲み込んでから話しなよ。行儀悪いよ?」


 ショーナは苦笑いをしながら、フィーに言葉を返す。それを聞いたフィーは、木の実を飲み込んで一言漏らした。


「育ちがいいのね、聖竜サマって」

「……まぁ、一応『長の子』だからね」

「じゃあ、そういう事も教え込まれた訳?」

「……そういう教育は無かったね」

「ふうん……」


 興味があるのか無いのか分からない相づちを打ったフィーは、残った半分の木の実を口に放り込んだ。


「ほええ?」

「いや、だからさ……」


 同じ事を繰り返したフィーに、苦笑いをして左手の指で顔を掻くショーナ。フィーは木の実を飲み込むと、ショーナに突っ掛かった。


「いいじゃない、減る物じゃないし」

「……まぁ、木の実は減ったよね」

「そんな事より、聖竜サマもそれ食べてよ」

「え? あぁ、これ? ……頂いていいの?」

「だって、その為に貰ってきたんだし」

「じゃあ……頂くよ」


 そう言うと、ショーナは木の実を丸々一個、口へと放り込んだ。それを見て驚くフィー。


「えっ……!? 丸ごと……!?」


 昨日、オアシスで同じ木の実を食べたフィーには、その木の実の酸っぱさが分かっていた。それ故に、一気に丸々一個を口へと放り込んだショーナに驚いていたのだ。

 ショーナは顔をしわくちゃにしつつも、それを味わってから飲み込んで一言呟く。


「う~ん、酸っぱい」


 目を丸くしていたフィーは、ショーナに声を掛ける。


「……本当に好きなのね、酸っぱいの……」

「だから、そう言ってるじゃん……」


 フィーの言葉に、苦笑いをして答えたショーナ。それを聞いたフィーは、鼻で小さくため息を吐くと、話を戻した。


「それで、話って?」

「え? あぁ。……ジャック隊長から、訓練の再開日について言われてて、それをフィーに伝えに来たんだよ」

「来るとは思ってたけど……。わざわざ、それだけの為に?」

「まぁ、昨日が昨日だったから、様子を見るのも兼ねてと思って」

「……律儀ね、聖竜サマって」


 フィーは少し呆れつつ、再び鼻で小さくため息を吐く。そんなフィーに、ショーナは苦笑いをして一呼吸置き、話を続ける。


「それで、その再開日だけど……明後日だって」

「……明日じゃないの?」

「まぁ、万全を期して……って事だよ」

「ふうん……」


 どこか詰まらなそうな返事をしたフィーに、ショーナは問い掛ける。


「フィーは昨日の疲れとか残ってないの?」

「少しはあるけど、明日になれば取れてると思うし、わざわざ明後日にしなくても……。だって明日、退屈だし」

「……まぁ、フィーの事だから、そうだろうと思ったよ」


 ショーナは苦笑いをして答え、一つ思い出して話題を変える。


「あ、そうだ。そういえば……昨日の約束、守らないと……」

「約束? ……私、何か約束したっけ……?」

「あー……ほら……。『殴れ』って言ったろ?」


 少し顔をしかめながら、気まずそうに目を逸らして右手の指で顔を掻くショーナ。そんな彼を見て、フィーは少し呆れ顔をし、首をかしげながら言葉を返す。


「どうして私が聖竜サマを殴らないといけないのよ?」

「いや、ほら……。昨日、怒ったフィーを制止して、そう言ったのはオレだし……。だから、その約束は守らないといけないと思ってさ……」

「別に約束はしてないし、私は聖竜サマに怒ってた訳じゃないし」

「…………」


 相変わらずの表情で言葉に詰まったショーナに、フィーは鼻でため息を吐くと、立ち上がって食料を保管してある容器まで歩き、それを漁りながらショーナに言う。


「聖竜サマって、本当に真面目よね。……というか、バカ真面目」

「…………」

「疲れてるのよ。……ほら、これ!」


 そう言って、フィーはショーナに何かを放る。先程よりも強めに放られたそれは、目を逸らしていたショーナの顔に当たり、床に落ちて転がった。それが当たった瞬間、ショーナは自動的にバリアで守られて痛みは感じなかったが、物が当たった感覚で思わず声を上げていた。


「いて……!」

「もう一個食べたら?」

「えっ……? あっ……これ……! まだあったの?」

「二個くれたのよ。……でも、私は酸っぱいの好きじゃないし。

 ……食べたら? ……あるんでしょ? 疲労回復効果」

「……あぁ……うん、そうだね……。じゃあ……頂くよ……」


 気まずそうに少し苦笑いをして答えたショーナは、先程と同じ様に木の実を丸々一個口に入れ、顔をしわくちゃにしながら味わうと、それを飲み込んで呟く。


「あ~……酸っぱい……」


 先程とは違い、渋い表情をしながら呟いたショーナに、フィーは微笑んで声を掛ける。


「好きじゃなかったの? 酸っぱいの」

「好きだけど……、今のは一段と酸っぱかった気がするよ……」

「……じゃあ、調度良かったじゃない。これで殴ったのとトントンでしょ?」

「いや……違うと思うよ……」

「いいでしょ別に、私が『いい』って言ってるんだから。……気にしすぎよ、聖竜サマ」


 フィーの言葉に、ショーナは苦笑いをして右手の指で顔を掻く。


(……何か、フィーに言い包められた気がするけど、フィーがそれでいいなら……まぁいいか……)


 ショーナは相変わらず苦笑いしながら顔を掻き、鼻で小さくため息を吐きながら、内心で自身を納得させていた。

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