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『黒いドラゴン』 その4

「昨日は……、友好派の集落近くの林を抜けるまでは、特に問題も無く順調で……。でも……、その林を抜けて、友好派手前の野原を歩いていたら……問題が起こって……」


 そう言いながら、ショーナは次第に顔をしかめる。そこに、エイラが言葉を挟んだ。


「確か昨日……、『黒いドラゴンに追い返されて』……と、言っていませんでした?」

「……はい」

「何があったんです?」


 エイラは心配そうに、少し真剣な表情でショーナに質問していた。ショーナはしかめっ面で少しうつむき、話を続ける。


「そのドラゴンは……オレ達の実力を知りたいと、模擬戦に誘ってきて……」

「模擬戦に……!?」


 ショーナの話に、エイラは驚いて声を上げていた。その声と表情は、驚きつつも、どこか少しばかり怒りも含まれていた様だった。


「もちろんオレは、模擬戦が遠征の目的じゃない事は分かっていたから、その誘いは断ったけど……。断った途端、そのドラゴンは……オレ達を罵って、挑発してきて……」

「……っ!!」

「その狙いが『怒らせて模擬戦に誘う事』だって分かっていたから、オレは……何とか堪えたけど……。フィーとジコウは……抑えられなくて……」


 ショーナは更に顔をしかめ、少し右に顔を逸らす。そこにエイラが真剣な表情で質問を投げ掛けた。


「ショーナ……。思い出させて申し訳ありませんが……、そのドラゴンは何と……?」

「……そのドラゴンは、『独立派も腰抜けになったものだ』とか、『荒野を渡ってきた若者が、この程度では』とか……。他にも色々と……。

 ただ、あの時は自分の感情を抑えたり、フィーとジコウをなだめたりで……一杯一杯で……。そこからは何て言われたか……細かくは……」

「……いえ、ありがとうございます、ショーナ」


 顔を逸らしながら説明したショーナの言葉を聞いたエイラは、険しい顔をして一言お礼を言う。その表情のまま、エイラは再び質問を投げ掛ける。


「つまり……、挑発されて模擬戦をした……という事ですか?」

「……フィーとジコウを……止められなくて……」


 エイラの質問に、申し訳無さそうにエイラを見て答えるショーナ。そんなショーナに、エイラは少し表情を戻しつつ、優しく言葉を掛ける。


「あなたが悪い訳ではありませんよ、ショーナ。もちろん……フィーとジコウも」

「…………」


 エイラの言葉を聞いたショーナは、少しうつむき鼻で小さくため息を吐く。


「それで……模擬戦は、どうだったんですか?」

「模擬戦は……三対一で、攻撃魔法とブレスは禁止という形だったけど……、フィーとジコウがやられて……。その後、オレはバリアで攻撃を防いだけど、そこでそのドラゴンは距離を取って、一方的に模擬戦を終わらせて、それで……『もう戻りなさい』と……」

「…………」


 ショーナの説明に、エイラはため息交じりに小さくうなる。そして、少し間を開けてから、微笑みつつショーナに言う。


「撃っちゃえば良かったんですよ、ショーナ」

「えっ……!?」


 エイラの突拍子も無い言葉に、目を見開いて驚いたショーナ。そんな事はお構い無しとばかりに、エイラは続ける。


「そのドラゴンの顔目掛けて、ブレスを撃っちゃえば良かったんですよ。……ショーナなら、当てるのは簡単だったでしょう?」

「いや……母さん……、それ……ルール違反だし、後々問題に……」


 あまりの内容に、ショーナは苦笑いをして返すも、エイラは相変わらず微笑みながら、少し早口に話を続ける。


「後々問題になっているのは、そのドラゴンの言動ですよ。だったら、その時に撃っちゃっても関係無いですよ。何なら、撃てるだけ撃っちゃえば……」

「母さん、分かったから……分かったから……。ね……?」


 エイラは微笑んで話していたが、彼女の少し早口になった言い方から、どこかイライラした内心を悟ったショーナ。彼は苦笑いしつつ、彼女をなだめる様に言葉を遮った。


(怒ってるなぁ……)


 ショーナは苦笑いしながら顔を逸らし、右手の指で顔を掻く。そこに、少し真剣な表情に戻ったエイラが口を開く。


「それで……話を戻すと……。『もう戻りなさい』と言われて、追い返された……と」

「……正確には、それでフィーとジコウが諦めて、帰路に就いてしまって……。オレも……仕方無く……」

「そうですか……」


 エイラは相づちを打つと少し間を空け、話題を変えた。


「ところで……、そのドラゴン、名前は名乗りました?」

「それが……最初、名乗らなくて……。こちらから聞いてみると、『名乗る程の者ではない』と言われて……」

「…………」


 エイラは険しい表情をし、鼻で小さくため息を吐き、続ける。


「では、どんなドラゴンでしたか? 覚えている範囲で、特徴を教えて下さい」

「えっと……。そのドラゴンは空竜種で、額に紫色の魔角を持って……。背中側は黒色の甲殻、お腹側は……山吹色の甲殻で、目は……赤色……」

「……分かりました」


 思い出しながら説明していたショーナに、エイラは先程以上に険しい表情をして相づちを打った。そこに、ショーナが声を上げる。


「あっ……、そういえば……」


 はっとして昨日の事を思い出したショーナは、言葉を続ける。


「そのドラゴンから、母さんに伝言を頼まれていて……」

「伝言……!?」


 ショーナの言葉にエイラは目を見開いて驚き、一言声を上げ、ショーナに問う。


「そのドラゴンは……何と……!?」

「え~っと……、そんなにはっきりした伝言という訳じゃないけど……。そのドラゴンが言った言葉をそのまま言うと……、『エイラに宜しく伝えておいてくれ』……と」

「……っ!!」


 目を見開いて口を半開きにしながら聞いていたエイラは、一瞬、歯を食いしばる様にキバをむき出したものの、すぐに直って真剣な表情をショーナに向けた。


「ありがとう、ショーナ。他には……ありますか?」

「……昨日の報告としては、それぐらい……かな」

「分かりました。……今日、この後はゆっくり休んで、昨日の疲れを癒して下さい。訓練の再開は……また隊長達と話し合って決めましょう。……今はとにかく休んで」

「……分かったよ、母さん」


 最後は穏やかな表情で話を締めたエイラに、ショーナはうなずいて返事をすると、エイラの部屋を後にして自室へと戻る。それを見送ったエイラは、友好派の集落がある方向に顔を向けると、物凄い剣幕をして小さくうなり声を出していた。

 そこに、扉をノックする音が響く。はっとしたエイラは目を向けて確認すると、そこには開かれた扉の前で立つ一頭の給仕がいた。エイラはすぐに微笑むと、その給仕に声を掛ける。


「あら、ごめんなさい給仕さん。……そうだ、調度いい所に。……ちょっと書く物をお願いしてもいいですか? それと、ジョイ隊長を砦まで……」

「あ……はい。その……ジョイ隊長ですが……」

「……どうかしましたか?」

「いえ、先程……ジョイ隊長が砦にいらっしゃいまして、エイラ様とお話ししたいと……。それで、地下室でお待ち頂いております」


 給仕の言葉に、エイラは目を丸くしてきょとんとしたが、すぐに微笑んで給仕に返事をした。


「分かりました、私も地下室に向かいます。書く物は……部屋に置いておいて下さい」

「かしこまりました」


 給仕は軽く一礼してその場を去る。エイラは立ち上がると鼻で小さくため息を吐き、地下室へと向かった。



 エイラが地下室に入ると、イスに座っていたジョイは立ち上がり、頭を下げた。それを見たエイラは、地下室の扉を閉めて声を上げる。


「ジョイ……!」


 その声を聞いたジョイは頭を上げ、いつもの低い声でエイラに答える。


「呼ばれると思って、先に来ておいたわ」

「……ありがとう、ジョイ」


 エイラはジョイの正面に、テーブルを挟む形で腰を下ろす。それを見たジョイも再びイスに腰掛け、真剣な表情で先に口を開いた。


「それで……、あの子達から話は聞けたの?」

「ジコウは無口な子なので、話は聞けていませんが、ショーナからは色々と……」


 ジョイの問い掛けに、エイラも真剣な表情を向けて答えた。

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