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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『遠征』 その7

 木々の間の木陰になった一本道を進んでいると、急に彼らの眼前が開けて明るくなった。そこには巨大な湖が広がっており、その周囲を草木が囲っていた。


「ここが……オアシス……!」


 ショーナは湖に近付きながら、一言だけ漏らしていた。

 湖に近寄った彼らは、その透き通った水に口を付け、喉の渇きを潤す。水を飲みながら、ショーナは思う所があった。


(この環境で、この距離か……。人間だったら……手ぶらだと倒れるな、間違いなく……)


 ショーナは水から口を離すと、右手で口に付いた水を拭う。


(ドラゴンって……丈夫なんだな……)


 そう思っていたショーナの隣では、ジコウが水を飲み終えて早々、木陰へと移動し座り込んでいた。


(でも……書庫長の話だと……、ここが整備される前の時代は、休憩場所も無く荒野を渡ったんだよな……。そう考えると……大昔は過酷だったんだな……)


 ショーナはオアシスを見回しながら、そんな事を考えていた。すると、彼の隣でフィーが湖面を見つめながら呟く。


「ここ……、魚とかいないの……?」


 フィーの呟きに、ショーナは苦笑いをしながら言う。


「いないと思うよ……。ここ、先代のドラゴン達が作った場所らしいから……。魚を放ったとは思えないし……」

「…………」


 ショーナの言葉に、フィーはどこか不満げな表情をして彼に顔を向けていた。ショーナは彼女の思う所に感付いて声を掛ける。


「もしかして……お腹空いた?」

「…………」


 フィーは不満げな表情のまま、無言で小さくうなずく。それを見たショーナは、続けて質問をする。


「朝……食べてこなかったの?」

「食べたわよ。……でも、これだけ動いたら小腹が空くでしょ?」

(……まぁ、気持ちは分かるけどさぁ……)


 先程よりも不満をあらわにしたフィーに、ショーナは苦笑いをしてから、辺りをきょろきょろと見回した。


「確か、書庫長の話だと……木の実が……」


 ショーナの言葉を聞いて表情が明るくなったフィーは、木の実を探して辺りに目を配る。すると、彼女はショーナよりも先に木の実を見付け、声を上げる。


「あっ! あれ、そうじゃない?」


 フィーが指差した先を見たショーナ。その先には背の高い木があり、上の方の枝に黄色い木の実がぶら下がっていた。


「あれ、食べれるの?」

「あれは……確か……」


 ショーナは、以前書庫で見ていた書物の内容を思い出しながら、フィーの問いに答える。


「食べれるよ。食べれるけど……」

「じゃあ、聖竜サマ……あれ撃ち落としてよ」

「えっ……!?」


 ショーナの言葉を途中で遮ったフィーの言葉に、ショーナは目を丸くして驚き、フィーを見て言葉を返す。


「いや……、フィーなら飛んで取れるでしょ……」

「無理よ。周りに枝が多すぎて、翼が引っ掛かるし……。私だとブレスは当てれないし」

「…………」


 ショーナは少し呆れながら目を半眼にし、鼻で小さくため息を吐くと、再び木の実に目を向けて考える。


(どうするかな……。木の実を撃ち落とすといっても、直撃させたら丸焦げになるか、最悪……焼失するだろうし……。それに、万が一外して太い枝に当たったら……ブレスが貫通せずに爆発して、火が点くかもしれないし……)


 ショーナが難しい顔をして考えていると、フィーが横から覗き込んで声を掛ける。


「……無理そう?」

「無理じゃないけど、難しい……かな」

「……じゃあ、他を探すわ」


 フィーは再び不満を浮かべ、ため息混じりに呟く。その言葉を聞いたショーナは、フィーに目を向けて返す。


「難しいとは言ったけど、無理とは言ってないよ」

「えっ……でも……」

「狙いはシビアだけど、多分……出来る」


 そう言いながら、ショーナは木の実に目を向けた。


(木の実の付け根を狙えば……! そこなら枝も細いし、ブレスも枝を貫通するハズ……!)


 ショーナは安定姿勢を取りつつ狙いを定めると、ブレスを一発発射した。そのブレスはいつもの訓練の様に快速で飛び、木の実へと向かう。そして、ショーナの狙い通り、ブレスは木の実の付け根に当たって枝を貫通し、その木の実は他の枝葉に当たりながらガサガサと音を立てて落下すると、地面へと落ちて転がった。


「やるじゃない! 聖竜サマ!」


 横目で微笑んで一言言ったフィーは、その木の実を拾いに軽やかに駆けていく。その後姿を見つつ、ショーナは安堵していた。


(……狙いが外れなくて良かった……。下手したら、オアシスが火の海になってたかもしれないし……)


 そう苦笑いしつつ思っていた所に、フィーが右手で木の実を持って戻ってきた。木の実は彼らの拳二つ分程度の大きさで、フィーが軽々と持ってショーナの下に戻ると、それを見たショーナが口を開いた。


「それ、本当に食べるの?」

「どうして? 食べれるんでしょ?」

「食べれるけど……」


 ショーナの最後の言葉を待たずして、フィーは木の実にキバを立てて、木の実を半分かじった。すると……


「うわっ! 酸っぱっ!」


 顔をしわくちゃにして一言口にし、半ば強引に飲み込んだ。そしてショーナに文句を言う。


「どうして言ってくれなかったのよ……!」

「何度も言おうとしたけど、フィーが最後まで聞かなかったから……」

「…………」


 苦笑いしつつ答えたショーナに、不満そうに半眼を向けるフィー。


「まぁ、無理に食べなくても……」


 ショーナは苦笑いしつつフィーに言葉を掛けるが、当のフィーは意外な言葉をショーナに返した。


「聖竜サマが撃ち落としてくれた木の実、残すなんて出来ないでしょ……!」

「…………!」


 フィーの言葉に目を丸くしていたショーナは、彼女が残りの木の実を口に放り込みながら、再び顔をしわくちゃにしている様を見て思う。


(フィーって……昔からそうだけど……、せっかちだけど真面目な所あるんだよな……)


 ショーナはフィーを見ながら、少し感心していた。フィーは木の実を飲み込むと、すぐに水に口を付けて水を飲み、そして顔を上げ一息大きくため息を吐いた。

 その一連の行動を見ていたショーナは、苦笑いしながらフォローする様に言葉を掛ける。


「まぁ、美味しくなかったかもしれないけど、あの木の実は疲労回復効果があるから……」

「……先代の知恵ね。……それか、先代の嫌がらせか」

「先代が作ったのは水場だけらしいから、どっちも外れ……かな」

「…………」


 ショーナの言葉を聞き、フィーは不満そうに目を半眼にし、再び大きくため息を吐く。


(でもまぁ……、理には適ってるんだよな、オアシスに疲労回復効果のある木の実があるってのは……)


 ショーナがそう思っていると、ふと遠方から声が聞こえてきた。


「あれ……? 聖竜様……?」

「本当だ……聖竜様だ!」

「どうしてこんな所に……!」


 その声がした方に顔を向けたショーナとフィー。彼らの目に映ったは、荷車を引いた地竜三頭がオアシスの獣道を通り抜け、湖へと入ってきた所だった。その地竜達は、ショーナ達が入ってきた獣道とは別の、湖を挟んだ反対側にある獣道から現れた。

 ぽかんとして見ていた二頭だったが、そこに翼竜三頭が上空から舞い降り、その内の一頭が口を開く。


「こちらにいらっしゃったのですね、聖竜様」

「えっ……?」

「話はジョイ隊長から聞いていました。……聖竜様達が友好派の集落に向かう……と」


 突然の事に、ショーナは状況が理解出来ず、彼らに問い掛ける。


「あの……すみません、失礼ですが……あなた方は……」

「あっ! 失礼しました! 我々は、物資輸送中の支援部隊を任務で護衛している、空戦隊の者です。あちらで荷車を引いている地竜達が支援部隊。……私は、今回の護衛を担当した小隊の隊長です」


 姿勢を正し、改まって話すその翼竜は、更に話を続けた。


「我々は昨日、昼過ぎに独立派を出発していましたが、独立派の林を抜けようかという所に、ジョイ隊長が大慌てで飛んできまして……。聞けば、聖竜様達が友好派に向かわれるとの事で……」


 ここまでの話を聞いてショーナは状況を察し、その翼竜の言葉が途切れた所で口を挟んだ。


「それで……、友好派からの帰りにすれ違ったら、様子を報告する様に言われた……という事ですか?」

「……その通りです、聖竜様」


 少し苦笑いしながら言ったショーナに、その翼竜は微笑んで答えた。

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