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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『ブレスと格闘と』 その8

 帰路の途中で、ショーナは歩きながらフィーに声を掛けた。


「フィーは……明後日からどうするの?」


 ショーナが聞いたのは、先程ジャックが言っていた事だった。その問いに、フィーは少しだけ顔をしかめながらショーナに目を向けて答える。


「……まだ分からない」

「そっか……」


 フィーはそれだけ言うと、その場に立ち止まった。それに合わせてショーナも立ち止まり、フィーの方を向く。


「ジョイ隊長の所で、空戦隊の訓練を受ける事には興味あるんだけど……」


 相変わらず少しだけ顔をしかめ、ショーナから目を逸らしながら話を続けるフィー。


「私だけ空戦隊の訓練を受けるのって、本当にいいのかなって……」

「オレは……別にいいと思うよ」

「…………」

「まぁ、ジコウもそうだと……あれ?」


 ショーナは先程まで隣を歩いていたジコウの方に目を向けたが、どうやら彼は立ち止まらずに、そのまま帰ってしまった様だ。


「……付き合い悪いわね」

「まぁ……昔からそういうヤツだから……」


 ため息混じりにぼやくフィーに、ショーナは苦笑いをしながらフォローし、改めて言葉を掛ける。


「それで、話を戻すけど……。フィーは、フィーがやりたい訓練をやればいいと思うよ」

「でも、これまで一緒に特訓してきて、訓練も一緒で……。それなのに、急に私だけ抜けるのって……」


 再び目を逸らしたフィーに、ショーナは微笑んで言葉を掛ける。


「そんなに気まずい?」

「気まずいというか……不安なのよ」


 最後の言葉と共に、ショーナに目を向けたフィー。そのフィーの本心を聞けたショーナは、彼女に優しく話す。


「フィーなら……大丈夫だと思うよ」

「……どうして?」

「だってフィーは……オレと初めて会った時だって、自分から模擬戦を仕掛けてきたんだし。……ジコウの時もそうだった。だから逆に……そんなフィーがどうして不安なのか、それがオレには分からないかな」

「…………」


 フィーはまた目を逸らすと、少しばかり暗い表情をして話を続けた。


「あの時はコドモで……周りの事なんてよく分からなかった……。聖竜サマに模擬戦で勝って、自分は出来るんだと……勝手に思ってた。ジコウが来てからもそう。

 でも今は……訓練ではブレスは一番下手で……」

「でも、フィーは『身軽だ』って、ジャック隊長に褒められてただろ? 今日だって足のツメに魔力を集中させる所まで出来ていたんだし、それも褒められてたし……」

「…………」

「一昨日も言ったけど、フィーはフィーのペースでやればいいんだよ。フィーだって言ってただろ? 『失敗しながら訓練する』って」

「そうだけど……。そうだけど……いざその時になると、やっぱり不安で……。『上手く出来ないんじゃないか』って……」


 フィーは顔を逸らした。


「私だけ空戦隊の訓練を受けて、それで上手く出来なかったら……」

「誰だって、最初から何でも上手く出来る訳じゃないよ。フィーはオレのブレスの事を気にしてたみたいだけど、オレは近接戦闘は上手くないし……。

 仮にフィーが失敗したって、誰も罵らないし、誰も笑わないよ」


 ショーナの言葉に、フィーは顔を向ける。


「……どうして言い切れるのよ?」

「……オレがそうだったから。……ずっとね」

「…………」

「散々、負かされたから」


 そう言いながら、ショーナは苦笑いをする。そんなショーナに、フィーはまだ少し暗い表情のまま問い掛ける。


「聖竜サマは……、何とも思わなかったの……?」

「思ったさ、最初の頃は特にね。……何度も悔し泣きしてたよ」


 ショーナはどこか懐かしむ様に微笑んで言い、言葉を続ける。


「でも……周りの皆は温かかった。母さんでさえ、負け続けるオレに怒ったり、罵ったり……悲しんだりする事は無かった。

 それは今も変わらないよ。……戦闘部隊の皆は、オレ達の事を温かく見守ってくれている。ジャック隊長だって、時には厳しい事も言うけど……罵ったりしないだろ?」

「そうだけど……。でもそれは、聖竜サマだからじゃないの? 聖竜サマは長の子だから、もし変な事を言えば……」

「それは違うよ。オレから見ても、フィーもジコウも、皆から温かくされてるのは分かるし。

 フィーも知ってるだろ? この集落では、オレ達しかコドモがいなかったって。皆……オレ達の事を、我が子の様に見てくれてるんだよ」

「…………」


 フィーはため息を吐き、顔を逸らした。ショーナは一呼吸置いて、微笑んで優しく言葉を掛ける。


「まぁ……フィーが不安なら、今はもう少し一緒に陸戦隊の訓練を受けようよ。別に、急いで空戦隊の訓練を受けないといけない事は無いんだしさ」


 ショーナはそう言葉を掛けるも、フィーは少し暗い表情で顔を逸らしたままだった。それを気にしたショーナは、フィーを励まそうと、思い切った事を口にする。


「それに……オレも、フィーがいた方が……、フィーがいてくれた方が……気合入るしさ……」

「……!」


 その言葉に少し驚いたフィーは、目を丸くしてはっとショーナを見る。彼は少し顔を赤くして、目を逸らしながら苦笑いをしていた。それを見たフィーは自然と表情が和らぎ、少し呆れた様な口調で彼に言葉を掛けた。


「……聖竜サマって、本当に真面目よね」

「えっ……?」


 フィーはそう言うと、ショーナに歩み寄り、


「でも……ありがと」

「……っ!」


 一言だけお礼を言いながら、目を閉じて顔を擦り合わせる。こうなる事を予想していなかったショーナは、更に顔を赤くして固まってしまった。

 フィーは顔を引っ込めると、少し顔を傾けながらショーナと目を合わせて微笑み、いつもとは違う少し優しい口調で、一言だけ発した。


「私を守ってくれるの……楽しみにしてるから……」


 それを言い切った彼女は、体の向きを変えながら振り返ると、いつものセリフを口にする。


「じゃあまたね! 聖竜サマ!」


 そう言うと、軽やかに駆けていく。ショーナは駆けていく彼女の背中を、まだ少し赤みが残る顔で苦笑いをしながら見送る。


(まぁ……フィーが明るくなってくれて良かったかな……)


 そんな事を思いながら、自身も砦へと歩を向けた。




 ショーナが砦に到着すると、その出入り口にエイラが待ち構えていた。


「あれ? 母さん?」

「お帰りなさい、ショーナ!」


 エイラは満面の笑みでショーナを出迎えた。


「わざわざ……待っててくれたの?」

「フフ……。そろそろ帰ってくる頃合だと思っていたんですよ」

(まぁ……ジコウが先に帰っていたし、そろそろ帰るよね……。でも……何で今日に限って……?)


 訓練が始まってから、エイラはショーナを出迎えた事は無かった。彼女はいつも自身の部屋でショーナの帰りを待ち、開いた扉越しにショーナに声を掛けていた。

 そんな疑問が頭をよぎっていたショーナだったが、満面の笑みで話すエイラの言葉によって、それはすぐに解決した。


「この前、ショーナの部屋の話をしたじゃないですか。その後、以前『地下室』の話をした事を思い出したんですよ。ショーナはコドモの頃、地下室の事が気になっていたじゃないですか」

「えっ……? まぁ、そうだけど……」

「折角ですから、見に行きましょうか。……今から」

「えっ……!? 今から……!?」


 エイラの思い掛けない言葉にショーナは驚いていたが、エイラは相変わらず満面の笑みを向けて話を続けた。


「フフ……。ほら、よく言うじゃないですか。『思い立ったが吉日』って」

「それは……そうだけど……」

「さぁ、行きますよ」

「あっ……! ちょっと! 母さん……!」


 先に歩き出したエイラを、ショーナは慌てて追い掛けた。

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