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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『ブレスと格闘と』 その4

 ショーナが岩にタッチして、射撃位置へと向かっていた時――



 ジャックが的を高く放り上げたのを目にしたショーナは、走りながらその的の軌道をとっさに判断し、落下のタイミングを予想をしていた。しかし……


(……ダメだ! スライドターンをしていたら間に合わない……!)


 的を目で追いながら全力疾走するショーナは、射撃位置に着く前に、それに気付いてしまった。彼は射撃位置に近付くものの、的はみるみる高度が落ちていっている。


(くそっ……! それなら……一か八かだ!)


 この時、辺りにはジャックの声が響いていたが、無我夢中で射撃位置に滑り込んだ彼には、ジャックの声は耳に入らなかった。それだけ、的に集中していたのである。

 ショーナは速度を落とさずに射撃位置に入ると、体はそのままの向きを維持し、顔を左に向ける。ここに到着する前から的はにらんでいたが、改めて狙いを定めると、走りながらブレスを一発撃ち、目で着弾を確認しながら射撃位置を横へと駆け抜けた。そしてすぐに顔を前に向けると、四肢を踏ん張って急ブレーキを掛けて停止。

 ここで集中を解いた彼は、周囲のドラゴン達の大きな歓声に気付くと、ほっと一息吐いて彼らに微笑んだ。




(あの状況で当てた……だと……!? 何てヤツだ……!?)


 フィー達の下へ戻っていくショーナを、ジャックは呆然としながら見ていた。そこに、一頭のドラゴンが近寄る。彼の手には、先程ショーナが弾き飛ばした的があったが、その表情は戦々恐々としていた。


「あの……ジャック隊長……」

「……ん? あぁ……すまんな……」


 ジャックはその的を受け取り、一目見ると驚いて声を上げた。


「な……何だ、これは……!?」

「自分も……驚きました……」


 ジャックが手にした的は、二日前に二発が着弾した場所が元々黒くえぐれていたが、今のそれは、黒く焦げた部分が更に大きくえぐれていた。その的は誰が見ても、明らかにそこに三発目が当たったという事が分かる程だった。


「あの状況では、当てるだけでも……。それなのに、また……ど真ん中に当てたというのか……!?」


 的を見ながら呟いたジャックは、これまでの二発の時の様に笑う事は無かった。フィーと笑顔で言葉を交わすショーナを見て、ただただ驚くばかりだった。


(あいつは……化け物か……!)


 ジャックはその的を手に、ショーナの下に歩いた。




「ショーナ!」


 周囲のドラゴン達は、まだ騒がしくしていたが、ジャックはそれを気にする事無く、真っ先にショーナに声を掛けた。


「……これを見ろ」


 ジャックは手にした的を前に出し、ショーナ達に見せた。近くにいたドラゴン達も、周りから覗く様にそれを見て、再び沸き立った。


「すげぇ! ど真ん中だ!!」

「さっきのあれが……ど真ん中!?」

「ほら見ろ! 見ろよあれ!!」

「凄すぎる……! やっぱり聖竜様は天才だ……! 射撃の天才なんだ!!」


 周りの反応とは裏腹に、ジャックは真剣な表情でショーナを見ていた。それもあってか、ショーナも真剣な表情でジャックと向き合っている。


「……お前の射撃のウデがいいのは、この二日間の訓練で見てきた。しかし……これは俺の想像の遥か上をいくものだ。

 あの状況で当てるのはもちろん、更にど真ん中に撃ち込むなんて、どれだけ訓練しても簡単に出来る事じゃない。いや……出来るヤツなんていないと言ってもいい。そんなヤツなんて見た事は無い」

「…………」


 ジャックの真剣な表情とその言葉に、ショーナはうかつな事を口走らない様に、黙って話を聞いた。


「周りの連中が言う様に、お前は本当に……射撃の天才かもしれんな」

「……ありがとうございます」


 最後は微笑んでショーナに言葉を掛けたジャックに、何を言われるか心配していたショーナも安心して、微笑んでお礼を返した。

 そこに、一頭のドラゴンが舞い降りる。


「……また、この騒ぎ?」

「ん? ジョイか……」


 ジャックの横に舞い降りたジョイは、低い声を響かせて彼に問い掛けていた。そんな彼女に、ジャックは思い立ったかの様に微笑むと、とある事を言い出した。


「ショーナ、疲れはあるか?」

「いえ、特に……」

「なら……もう一発だけ撃てるか?」

「はい」


 自信のある表情をして、ショーナはジャックに答える。


「実は、二日前にジョイも楽しみにしていてな、お前の射撃を。……そこで、今日の締めだ。こいつを撃ち抜いてほしい。……出来るか?」


 ジャックは手に持っていた先程の的を、再び前に出してショーナに見せて問う。そのやり取りを、ジョイは不思議そうな表情を浮かべながら見守っている。


「出来ます!」

「フッ……。まぁ、さっきのを当てたお前なら、こいつに当てるのは朝飯前だろう。……指示は出さん、お前のタイミングで撃てばいい。一発で撃ち抜くんだ。……準備はいいか?」


 ジャックの言葉に、ショーナは手足を広げて安定姿勢を取ると、大きな声で返事をする。


「はい!」

「よし! ……では、いくぞ!」


 ジャックの大きな号令に、周囲のドラゴン達は静まり返って注目した。当のジャックは的を下げると、勢いよく放り上げた。ジョイを含め、その場にいるドラゴン達は、皆その的に顔を向けて行く末を見守っている。

 ショーナはじっくりと的の動きを見極めると、的がその放物線の頂点に上がった所でブレスを一発発射した。そのブレスは正確に的のど真ん中に命中し、小さく爆発する。同じ場所に四発目が当たった的は、ついに真ん中から二つに砕け散って弾き飛ばされた。

 それを見た周囲のドラゴン達は歓声を上げ、ジョイは目を丸くして驚いていた。


「な……何なの、これは……!?」

「どうだ、驚いただろう?」

「……彼らが騒ぐ理由が分かったわ」


 ジョイはショーナに顔を向け、彼に言葉を掛ける。


「それだけ目がいいのなら、あなたは……飛びながらでも的に命中させれそうね」

「……ありがとうございます」

「……まぁ、あなたはまだ飛べない様だけど、飛べる様になったら……楽しみにしているわ」


 そう言うと、ジョイは飛び立ってその場を後にした。それを見送ったジャックは、微笑みながらショーナに言葉を掛ける。


「フッ……。まぁ、ジョイの言う事も一理あるが、あまり急ぎすぎない事だ。まだ訓練も始まったばかりだしな。『急いては事を仕損じる』だ。今は一つ一つ確実に、自分のものにしていく事を心がけた方がいいだろう」

「はい」


 ジャックの言葉に、ショーナも微笑んで返事をする。


「よし、今日の訓練はこれで終わりにしよう。次回は格闘にてこ入れするからな、ゆっくり休んでおけよ!」

「ありがとうございました!」


 ショーナとフィーは大きな声でお礼を言うと一礼、ジコウは静かに一礼して、三頭はそろって訓練場から帰っていく。ジャックは腕組みをして、微笑みながら彼らを見送った。


(射撃の天才……か。フッ……。あれで一発の威力も出たら、もう手に負えんだろうな。……面白いヤツだ)




 帰路の途中で、フィーはショーナに呟く。


「……私、勘違いしてた」

「……何を?」

「訓練の事」


 そう言うと、フィーはその場で立ち止まった。それを見たショーナとジコウも立ち止まり、その場で話を続ける。


「射撃訓練、聖竜サマは全部ど真ん中に当てて……、ちょっとかっこ良かった……。だから私は……私も……皆に下手な所は見せられないって思って……」


 フィーは微笑みながら話すも、ショーナ達から目を逸らしていた。彼女はそのまま話を続けた。


「でも、そうじゃないんだなって。……聖竜サマの言葉で思い出したの」

「……失敗してもいいって事?」

「……そう」


 フィーの言葉を聞いて、ショーナは苦笑いをしながら考えていた。


(まぁ、コドモの頃は散々負けてきたからね、特訓の模擬戦……。初めの頃は……何度も悔し泣きしてたっけ……。だから、フィーの気持ちは分からない事は無いんだよな……)


 ショーナがそんな事を考えていると、フィーは言葉を続けた。


「だから……、私も私のやり方で、失敗しながら訓練しようと思って……」

「……それでいいと思うよ。フィーにはフィーのペースがあるんだし、ジコウにはジコウのペースが……あれ?」


 そう言ってショーナは各々に目を向けたが、そこにジコウの姿は無かった。彼は話の途中で、いつの間にか先に帰っていってしまった様だ。


「……彼、相変わらず付き合い悪いわね」

「……まぁ、あいつにはあいつのペースがあるんだよ」


 鼻で小さくため息を吐き、少し不満気味な表情をしてぼやくフィーに、苦笑いをしてフォローするショーナ。

 調度話が一段落した所で、フィーは話題を変えた。


「……じゃあ、私はこっちだから」

「あぁ」

「……じゃあまたね! 聖竜サマ!」


 そう言うと、フィーは軽やかに走って帰っていった。

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