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『新たなる一歩』 その2

 ショーナとエイラが砦の前まで戻ってきた時には、もう夕方になっていた。


「初めての外出でしたから、もう少し早く戻りたかったのですが……。色々な方とお話していたら、こんな時間になってしまいましたね」


 エイラは日が傾く前に帰りたかった様だ。


「大丈夫ですか? ショーナ」

「はい」

「そう、それなら良かったです」


 ショーナの返事に笑顔を見せるエイラ。


「本当なら、空から集落を見せてあげたかったのですが……。明日にしましょうか」


 どうやらエイラは、散歩の後に空から集落を見せる予定だった様だ。聞かされていなかったショーナには突然の言葉だったが、そこは彼の好奇心が勝った。


「母さん、今からじゃダメ?」

「え?」

「見てみたい、この集落を。……この世界を」


 どこか真剣な表情があふれるショーナに、エイラは笑顔で答えた。


「フフ……。いいですよ、ショーナ。今から行きましょう」


 好奇心で勢いに任せて言ったショーナだったが、ふと「ある事」に気が付いた。


(待てよ……? 空からって……どうやって……?)


 ショーナはまだ、自身の翼の動かし方がよく分かっていない。少なくとも、自分の翼で空に上がる事は出来ないのだ。

 少し考えていたショーナの側で、エイラは座って彼に話した。


「さぁ。背中に乗って下さい、ショーナ」

「えっ……? 背中に……?」

「乗るのが嫌なら、また咥える事になりますが……。どうします?」


 エイラの問い掛けに初めは戸惑ったショーナだったが、いそいそとエイラの尾の付け根から背中によじ登る。ドラゴンになった身でドラゴンの背中に乗るという状況に、彼は少し不思議な感じがしていた。

 ショーナが背中に乗った事を確認したエイラは、前を向いて立ち上がり、薄いグレーをした飛膜を持つその大きな翼を広げ、


「しっかりつかまっていて下さいね。……では行きますよ! ドラゴンライダー!」


 そう言ったかと思うと、力強く羽ばたき飛び上がった。

 砦の上空で、らせん状に飛行して高度を上げていくエイラ。その一羽ばたきごとに、ショーナは体に強い重力が掛かるのを感じながら、エイラの背中にしっかりとしがみ付いた。

 そう時間も掛からず、ショーナの体に掛かる重力は軽くなった。エイラは翼を広げて水平飛行に移っていたのだ。彼女の翼の飛膜は背面が純白のウロコで保護されており、そのウロコ一枚一枚が夕日で輝いていた。


「ショーナ、見えますか? ……これが、あなたが住む集落。そして……世界ですよ」


 エイラはそう語り掛けると、少しだけ飛行姿勢を斜めにし、ショーナに景色が見えやすい様にしていた。エイラの言葉で顔を横に向けたショーナ。


「…………!」


 眼下に広がるのは、夕日に染まる集落の全景だった。ショーナ達の住む砦を中心として、その周囲に円形状に建物が広がり、集落の端には一定間隔で塔の様な建物が見える。

 集落の周辺は林が広がり、そこから先は見えなかったが、集落の端に湖が隣接しているのを見付けたショーナ。


「母さん。明日、あの湖に行ってみたいんだけど……」

「えぇ、いいですよ。明日、行きましょう」


 旋回を続けながら、笑顔で優しく返事をするエイラ。


「そろそろ降りましょうか」


 そう言うとエイラは、らせん状にゆっくりと高度を下げ、砦のバルコニーの様な場所に降り立った。そして彼女が座り込むと、背中からショーナが飛び降りる。


「楽しい一日でしたね!」

「はい……!」

「では、明日に備えて、今日はもう休みましょうか」

「はい」


 エイラとショーナは自室まで戻っていった。




 翌日、昼下がり――


「ショーナ、そろそろ行きますよ」


 エイラは砦の出入り口で振り返り、ショーナを呼んだ。その声でショーナも駆けてくる、昨日と同じ光景。違っていたのは、外出二日目だからかショーナの緊張がほとんど無い事だ。


「今日は湖に行くんでしたね」

「はい」

「では、行きましょうか」


 そう言ってエイラは、ショーナに顔を擦り合わせた。昨日は戸惑っていたショーナも、目を閉じてそれを受け入れる。

 それが終わって出発した二頭。エイラが前を歩き、ショーナはその後ろに続いた。通りでエイラは挨拶をしたり、ショーナは昨日の様に手を振って見せたりしながら、二頭は湖まで歩いていく。



 そうこうしながら歩いていた為か、ショーナが気付いた時には既に湖の前に到着していた。


「着きましたね」


 上空から見た時とは違い、ショーナが思っていたよりも大きかった湖。到着してすぐ、ショーナは湖を覗き込んだ。

 その水面に映ったのは、赤い瞳を持った白い顔。額には白みを帯びた透明で角ばったツノがあり、後頭部の左右にはグレーのツノが真っ直ぐ伸びていたドラゴン。それはもちろん彼だった。


(これが……オレの顔……!)


 ショーナは横を向いて体を水面に映す。体の腹部側は山吹色の甲殻に覆われ、背部側は白色の甲殻に覆われていた。

 まだ満足に動かせない翼も、何とか試行錯誤して広げると、綺麗な山吹色に染まった飛膜が水面に映る。


(これがオレの姿……!)


 夢中になって水面に映る姿を見ていたショーナ。そして、それを微笑みながら見守るエイラ。


(そうでしたか……。自分の姿、気になりますよね)


 一通り自分の姿を確認し終えたショーナは、振り返ってエイラに質問をした。


「母さん。このツノ……、どうしてこのツノだけ形も色も違うの? 母さんにもあるでしょ?」


 そう言って、自身の額のツノを指差した。


「そのツノは魔角という特別なツノですよ」

「まかく……?」

「そう。魔力が強いドラゴンだけが持つ、特別なツノです」


 その説明でショーナは察した。自分も母親も、魔力が強いドラゴンであるのだと。しかし、彼にはこの世界の魔力が何なのかが分からなかった。


「母さん、魔力って……?」

「魔力というのは……そうですね……。今は『魔法を使える力』とだけ、言っておきましょうか」

(魔法を使える力……)


 エイラの説明に、自分が魔法を使える力を持つのだと知ったショーナは、どこか期待しつつも理解が追い付かなかった。


(魔法って何なんだろう……。でも、ドラゴンってブレスのイメージがあるし……)


 まだこの世界のドラゴン達のブレスや魔法を見た事が無いショーナには、それがどういった物なのか想像が出来なかった。難しい顔をして考えていると、エイラが言葉を掛ける。


「さて……、そろそろ戻りましょうか。昨日は思っていたより遅くなってしまいましたし、今日は早く戻って休みましょう」


 エイラはショーナに声を掛け、砦に向かって歩き始める。彼女を追う様にショーナも歩き始めた。

 しばらく歩いて砦の側まで近付いた時、二頭の前に見慣れないドラゴンが立ちはだかったのだった。

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