『初めてのブレス』 その5
「おぉぉーーーーっ!!」
「今の見たかっ!?」
「俺、あの的にブレスが当たるのは初めて見たぞ……!!」
「すげぇ……! 聖竜様は射撃の天才かもしれん……!」
その歓声に応えるかの様に、ショーナは彼らの方に向き直って「したり顔」をしてみせた。それを腕組みをして見守っていたジャックは、近くにいたドラゴンに声を掛ける。
「おい、あの的を持ってこい」
「は……はい!」
周囲がざわつく中、ジャックから指示されたドラゴンは、慌てて的を拾いに走る。
(それにしても……大したもんだ。近距離でど真ん中に当てるのは分からない事は無いが、まさか一番遠い的に当てるとはな……。これは、ひょっとすると……ひょっとするかもしれんな……)
腕組みをしたまま微笑むジャックは、射撃を終えて戻ってくるショーナを見ながら、そんな事を考えていた。
ショーナがフィー達の下に戻ると、同じくして的を拾いに走ったドラゴンが戻ってきた。
「ジャック隊長、こちらを……!」
「あぁ、すまんな」
ジャックはショーナが命中させた的を手にすると、それをじっくりと見た。すると、自然と笑い声が漏れた。
「フッ……ハハハハハッ!」
「……隊長?」
「ん? あぁ……いや、なに。これを見てみろ」
「……これはっ!」
ジャックは手に持った的を、それを拾ってきたドラゴンに見せた。それを見た彼は驚きを隠せないでいた。
(フッ……、まさか本当に『ひょっとする』とは思わなかった……)
ジャックは微笑みながらショーナを見ると、大きな声でショーナに声を掛ける。
「ショーナ! ……見ろ!」
そう言うと、ジャックは右手で持った的を少し高く持ち上げて、皆に見える様にした。そして、一言付け加える。
「……ど真ん中だ!」
ジャックが手にした的となった丸太は、その側面中央に黒い焦げ跡をくっきりと残していた。そして、それを見た周囲のドラゴン達は再び沸き立つ。的を見たショーナも、自信のある表情で微笑んでいた。
ここでふと、ある事が頭をよぎったジャックは、ショーナに一つだけ提案をする。
「ショーナ。……特別だ、もう一度だけブレスを撃つ事を許可する。……どうだ、やってみるか?」
「……はい!」
ジャックの提案に、力強く返事を返したショーナ。この会話を聞いていた周囲のドラゴン達は、彼らの邪魔をしない様に静まり返る。
「フッ……、いい返事だ」
ジャックは目を閉じて微笑むと、そう一言呟いてから、彼に指示を出す。
「次を……今日の最後の一発にしよう。……的はこれだ」
そう言って、ジャックは右手に持った先程の的を前に出した。
「今度は俺が指示を出す。俺が指示したら、この的を撃て。……いいな?」
「はい!」
ショーナの返事を聞いたジャックは、見せていた的を少し下げ、一言発する。
「では……いくぞ!」
そう言うと、ジャックは右手に持った的を高々と放り上げた。ショーナを含め、その場にいる全てのドラゴンが、その的に顔を向けた。
ショーナは両手足を広げて安定姿勢を取り、ジャックの指示を待つ。的が放物線の頂点に上がった所で、ジャックの指示が響いた。
「……撃てーっ!!」
ショーナは的を注視し狙いを定めると、素早くブレスを撃つ。その火球は正確に的へと飛び、高々と上がった丸太に直撃すると小さく爆発し、それを弾き飛ばした。
それを間近で見ていた周囲のドラゴン達は、一斉に歓声を上げた。
「おぉぉーーーーっ!!」
「すげぇ! すげぇよ!!」
「こんなの見た事無いぞっ!!」
「間違いない! 聖竜様は射撃の天才だっ!!」
周囲の歓声に、微笑んでほっと一息吐いたショーナ。隣で見ていたフィーは、微笑んでショーナに声を掛ける。
「……やるじゃない、聖竜サマ」
「……あぁ、ありがとう」
フィーの言葉に、ショーナは微笑んで一言返した。
「ショーナ!」
周囲の歓声が止まない中、ショーナはジャックの声に振り向く。ジャックは腕組みをして、微笑んでショーナに話し出した。
「お前のブレスの精度は、間違い無くこの集落一だ。……その精度があれば、威力の低さを補う事が出来るだろう」
「……ありがとうございます!」
「その精度は、お前の武器になる。……上手く使う事だ」
「はい!」
ジャックの言葉に、ショーナは力強く返事をした。その表情は自信に満ち溢れ、目は力強く光り輝いていた。
「よし! 今日のお前達の訓練は、これで終了する! ……お疲れさん」
「ありがとうございました!」
「明後日、またここで訓練を行うからな。今日明日はゆっくり休めよ!」
「はい!」
ショーナとフィーは、ジャックにお礼を返して一礼し、ジコウは静かに一礼して、三頭そろって訓練場から帰っていった。それを微笑んで見送るジャック。
そこに、ジョイが舞い降りてジャックに声を掛ける。
「……これは何の騒ぎ?」
「……新入りが面白い事をしたのさ」
「……あの子達の事?」
「あぁ。特に……ショーナがな」
ジョイの問い掛けに、ジャックは微笑んで答える。
「……ジャックがそんな顔をして話すのだから、相当、面白かったんでしょうね。……私も見てみたかったわ」
「フッ……、そう遠くない日に見れるさ」
ジャックの言葉を聞いたジョイは、飛び立つとその場を後にした。当のジャックは、帰っていくショーナ達を見送りながら、腕組みをして考えていた。
(バリアを持ち、精密射撃が出来るヤツ……。身軽で飛行が出来るが、射撃がからっきしなヤツ……。近接戦闘の筋があり、重射撃タイプのヤツ……か。
フッ……。あいつらがチームを組んだら、面白い事になりそうだな……)
そんな事を考えていると、ジャックの下に一頭のドラゴンが走ってきた。彼の手には、ショーナが弾き飛ばした的があった。
「ジャック隊長!」
「ん? あぁ……悪いな」
ジャックはその的を受け取ると、手に持ってまじまじと眺め、そして自然と笑い声が漏れた。
「フッ……ハハハハハッ!」
「……隊長?」
「あいつ、ただ当てただけだと思っていたが……。とんでもないヤツだ、恐れ入ったよ。……見ろ」
そう言うと、右手に持った的を、拾ってきたドラゴンに見せた。
「あっ……! これは……!」
それを見た彼は驚きを隠せない。何故ならその的には、一度目と同じ位置にニ発目のブレスが撃ち込まれていたからだ。真っ黒になった着弾部分は、一度目の時よりも黒くえぐれており、それが全く同じ場所に命中した事を現していた。
(あの状況で、一発目と同じ場所を狙って……しかも当てた……か)
ジャックは微笑みながら、帰っていくショーナに目をやった。そして、一言呟く。
「ど真ん中……か」
帰路に就くショーナ達は、二日前と同じ様に、途中でフィーが道を変えた。
「じゃあ、私はこっちだから」
ショーナの後ろを歩いていたフィーは、立ち止まって二頭に声を掛ける。その声に二頭は振り向き、ショーナは微笑んで彼女に返した。
「あぁ、お疲れ様」
「えぇ。……じゃあ、ちゃんと休んでよね。聖竜サマ」
「あぁ、分かってるよ」
「……じゃあまたね! 聖竜サマ! ジコウ!」
そう言うと、フィーは軽やかに駆けて帰っていく。それを見送ったショーナとジコウは、砦へと帰っていった。




