『初めてのブレス』 その4
ショーナのブレスを見ていたフィーは、彼に近付いて自信満々に言う。
「こうやるのよ、聖竜サマ。……代わって?」
「え? ……あ、あぁ……」
拍子抜けしていたショーナは、フィーの言葉で射撃位置からどくと、元いた場所に戻った。二頭のやり取りを見ていたジャックは、射撃位置に着いたフィーに声を掛ける。
「フィー、やり方は見ていたな?」
「はい、大丈夫です」
「よし、それならそのまま始める。……準備はいいか?」
「いつでもどうぞ!」
フィーは的を注視しながらジャックに答える。その表情は自信の表れなのか、少し微笑んでいた。
「よし、ではいくぞ。……撃てーっ!!」
ジャックの号令に、フィーは大きく息を吸って右の的からブレスを撃った。そのブレスは的の角に当たり、角を割って欠けさせると、そのまま貫通していく。フィーは同じ様に真ん中、左と順番に撃ち、その二発のブレスはそれぞれの的の角に当たって、右の的と同じ様に角を割って欠けさせた。
「……どう?」
フィーは「したり顔」で振り返り、自慢げに一言発した。
「射撃速度、火球速度、威力……、どれもまぁ平均的といった所だな。初めてである事を考えれば、まぁ上出来だろう」
フィーの射撃を、腕組みをして評価するジャック。その言葉を聞き、彼女は自慢げにショーナに視線を送った。しかし、そこにジャックの追加の言葉が飛んだ。
「だが、この距離でその精度では使い物にならん! 中距離以上では当たらんぞ! ……今後は、もっと精度を上げる事を意識するんだ。それが今後の課題だ、フィー」
ジャックの言葉を聞いたフィーは、表情を一変して不満そうに目を半眼にし、むすっとしてショーナの横に戻った。それを見たショーナは、苦笑いしながらフィーに一声掛ける。
「フィー、お疲れ様」
「……何よ。隊長も、皆の前であんな風に言わなくたっていいじゃない」
「まぁまぁ……。フィーだって褒められてたんだし、そんなに怒らなくても……」
「…………」
ショーナはフィーを気遣って声を掛けたが、フィーは鼻でため息を吐くと黙り込んでしまった。
(オレもフィーの事は言えないけど、まぁ……鼻を折られたんだろうな……。自信あったみたいだし……)
フィーの反応に苦笑いをしたショーナは、それ以上言葉を掛ける事は止め、彼女をそっとしておく事にした。
そんなやり取りの傍らで、既にジコウは射撃位置に着いてスタンバイをしていた。
「ジコウ、お前もやり方は見ていたな?」
ジャックの問い掛けに、ジコウは鋭い目付きで的を見たまま、小さくうなずく。
「……では始めるぞ。準備はいいか?」
その問いに、ジコウは再び小さくうなずく。
「よし、ではいくぞ。……撃てーっ!!」
ジャックの号令に、ジコウは息を吸いながら口を開く。すると、口内にオレンジ色をした小さな球体が生成され、それが次第に大きくなっていった。
(……むっ!?)
それを見たジャックは、真剣な表情をしてジコウを注視した。
ジコウは球体のチャージが完了すると、右の的に向かってそれを撃つ。球体は的の中央付近に当たると、それをバラバラにして貫通していった。
(ジコウはエネルギー球タイプか……)
腕組みをして真剣な表情を崩さないジャックは、ジコウの一発目を見て、更に険しい表情でジコウの射撃を注視する。
そのジコウは、二発目のチャージを行っていた。そのチャージが完了すると、真ん中の的目掛けて撃ち、そのエネルギー球は的の中央付近に当たって、的をバラバラにした。そして再びエネルギー球をチャージし、三発目も同様に撃つと、左の的の中央付近に当たって、それをバラバラにした。
射撃を終えたジコウは、無表情のままジャックの方に向き直って評価を待った。
「エネルギー球の速度は平均的、精度は初めてにしてはいい方だな。威力に関しては申し分無い」
ジャックの言葉を、ジコウは表情を変える事無く、ただ静かに黙って聞き続ける。
「だが……チャージに時間が掛かりすぎだ。一発撃つのに五カウントも掛かっている様では、実戦では使い物にならん。特に……一対一の時だ。
お前は三頭の中で一番近接戦闘の筋が良かったが、戦闘は格闘戦だけとは限らん。そのチャージ時間だと、中距離でさえ使うのは難しい。隙が大きすぎる。……今の威力が十分だったのを考えると、途中でチャージを止めて撃つか、もっとチャージを早く出来る様にする必要がある。お前の課題は、それだ」
ジャックの指摘に、ジコウは静かに小さくうなずくと、元いた場所に戻った。
三頭の初射撃は終わった。ジャックは彼らの前に立つと、腕組みをして彼らに話し出した。
「今日は初日だからな、この辺りにしておこう。特に……今日は初めてのブレスだ、体への負荷もあるだろう。今日は帰ったら、無理せずにゆっくり休む事だ。いいな?」
ジャックが言い終えたタイミングで、とっさにショーナが口を開く。
「あの……ジャック隊長」
「ん? どうした、ショーナ」
「もう少し……やらせてもらえませんか?」
ショーナの言葉に、ジャックは微笑んで言葉を返す。
「何だ、物足りないか?」
「……はい」
「フッ……。初日から無理はさせたくないが、まぁいいだろう。お前は魔角もあるし、バリアも使ってきていた様だしな」
「……ありがとうございます!」
許可を貰えたショーナは、力強く感謝の言葉を口にした。
「だが……一発だ。一発だけ許可する。何度も言うが、無理はさせたくないからな」
「……分かりました」
「よし、射撃位置に着け」
「はい!」
ショーナは力強く返事をすると、射撃位置まで走り、両手足を広げて安定姿勢を取った。そこにジャックの声が響く。
「ショーナ! 的はお前が好きに選べ! この射撃場にある的なら、どれを選んでも構わん!」
ジャックの言葉を振り返って聞いていたショーナは、射撃場をきょろきょろと見渡した。そして、一つの的を見付けると、それをジャックに伝える。
「では……あの奥にある丸太を狙います!」
ショーナが示した丸太は、射撃場の一番奥にある岩の上に立った、片手でも持てる程の大きさの物だった。彼の言葉を聞いた周囲のドラゴン達はざわめき、ジャックも微笑んで彼に言葉を返す。
「ほう……? それを当てれるヤツは、戦闘部隊全体でも数える程しかいない。……さすがに俺も、当てれる自信は無いな。……それでいいのか?」
「はい!」
「フッ……、いいだろう。では、射撃のタイミングはお前のタイミングで行え。俺からは指示は出さん。……好きなタイミングで、一発だけ許可する。やってみろ、ショーナ」
「はい!」
ジャックの最後の言葉は、ショーナの背中を押す様な、温かみのある声だった。ショーナがその言葉に力強い返事をすると、周囲のドラゴン達は静まり返る。
そよ風が吹き、周囲の木々が音を立て、また静かになる。ショーナは一度だけ大きく深呼吸をし、的を見つめて集中した。
(不思議だ……。あんなに遠いのに、輪郭までよく見える……。これなら……当たる……!)
意を決したショーナは、息を吸いながら首を引くと、狙いを定めた的に向かってブレスを撃った。彼の口からは火花が散り、放たれたブレスは快速で一直線に射撃場を飛ぶと、まるで吸い込まれる様に的に命中。命中したブレスは小さく爆発し、的となった岩の上に立った丸太は弾き飛ばされ、その瞬間、それを見ていた周囲のドラゴンが一斉に沸き立った。




