『初めてのブレス』 その3
「よし、俺からの説明は以上だ。……ショーナ、他に質問があれば聞こう」
ジャックは腕組みをしたまま、ショーナに顔を向けて聞く。
「今の所は大丈夫です」
「分かった。……フィーとジコウは、どうだ?」
ジャックの問い掛けにジコウは小声で答え、ジコウに続く形でフィーも答えた。
「……大丈夫です」
「私も……今の所は……」
二頭の返答を聞いたジャックはうなずくと、微笑んで大声で話し掛ける。
「よし、では訓練に移るぞ! ブレスの訓練は射撃場で行う。すぐ隣だ、行くぞ!」
ジャックを先頭に、ショーナ達三頭も後ろに続く。更にその後ろには、周囲に集まっていたドラゴン達もぞろぞろと続いた。
彼らは広々と開けた場所に到着すると、早々にジャックが声を張り上げた。
「ここが射撃場だ! 集落内でのブレスや魔法は、緊急時以外、この場所以外での使用は禁止されている! よく覚えておけよ!」
真剣な表情で言うジャックに、ショーナ達も真剣な表情でうなずく。それを見たジャックも同じ様にうなずいて返すと、腕組みをして続けた。
「……よし、では始めよう。いきなりブレスを撃てと言うのは乱暴だからな、順を追っていく。
まずは自身の体内の魔力を感じる所から始めるぞ。……腹の底辺りにじわっと熱い感じがあるのが分かるか? それがブレスの元となる魔力だ。……どうだ?」
ジャックの言葉に、真っ先に反応したのはジコウだった。彼はジャックを見て小さくうなずく。
「……お? ジコウは大丈夫みたいだな。ショーナとフィーはどうだ?」
「私も……何となく……」
ジャックの問い掛けに、フィーも半信半疑ながら答えた。
(腹の底辺り……か。…………これか……?)
ショーナも自信が無いながらも、顔をしかめながら何となく感じ取る事は出来た。
「……ショーナ、大丈夫か?」
「……大丈夫だと……思います」
「うむ、最初はそんなもんだろう。少しでも感じ取れれば上出来だ。
よし、では次のステップだ。その感じ取った魔力を、喉まで持ち上げるんだ。まだ口は開けるなよ! 暴発するからな! ……それと、呼吸に合わせてやると、やり易くなるだろう。鼻で息を吸って、鼻から息を吐く。鼻から吐く時に、その魔力を喉まで持ち上げるんだ」
ジャックの説明を聞いた三頭は、それぞれ言われた事を試し出した。
最初に反応があったのはジコウだった。彼は口内でボンッと小さな爆発が起こると、口から黒煙が漏れ出していた。それに驚いたジコウは口を開けて顔を逸らし、小さく顔を振った。
「早いなジコウ。……そうだ、それでいい。喉まで魔力を持ち上げて、それがブレスとして放出されなかった時の反応がそれだ。お前は次のステップでブレスが撃てるだろう」
ジコウの行動を見ていたジャックは、彼に微笑んで説く。
その説明の最中、次に反応があったのはショーナだった。ショーナはジコウの様に口内で爆発する事は無かったものの、鼻の穴から小さい炎を噴出し、目を見開いて驚いていた。
「おっ、ショーナも出来たな。それも反応の一つだ、いいぞ!」
ジャックは微笑んでショーナに声を掛ける。
直後、最後にフィーに反応があった。彼女は閉じた口の隙間から、小さな炎が漏れ出していた。他の二頭とは違い、どこか「したり顔」をしている。
「フィーも出来たな。……よし、皆出来た事だ、次はブレスを撃ってもらおう」
ジャックの言葉を聞きながら、ショーナはフィーの反応を見て、ふと思っていた。
(……オレの反応が、一番かっこ悪かった様な……)
少し引きつった苦笑いをしていたショーナだったが、そこにジャックの声が響く。
「よし! では模擬戦の時と同じ様に、まずはお前達の自主性を尊重する! 最初にやりたい者がいれば名乗り出ろ!」
「私が……」
「オレがやります!」
フィーの言葉を大きな声で遮ったのは、真剣な表情を向けるショーナだった。ジャックは腕組みをしながら、意外な表情をしてショーナを見た。
「ほう? ショーナか。……少し予想外だったが、フィーの声も聞こえたな。……フィー、どうする?」
「……じゃあ、今回は聖竜サマのお手並み拝見って事で」
フィーは微笑みながら、ショーナに視線を送る。当のショーナも、彼女に微笑んで言葉を返した。
「悪いね、フィー。……どうしても、ブレスは早く撃ってみたくてさ」
「聖竜サマのお母さんの影響?」
「……そうかもしれないけど、何だろう……。自分でもよく分からないんだけど、ブレスは……早く撃ってみたい。……そう思う」
「ふうん……」
フィーはコドモの頃、魔物から助けてもらった際のエイラの光り輝くブレスを間近で見ていた。ショーナがブレスを早く撃ちたいと思っていたのは、その影響なのかと思って彼に問い掛けたが、彼の答えは曖昧な物で、フィーはいつもの相づちをしていた。
二頭のやり取りを見守っていたジャックは、それが一段落した所でショーナに指示を出した。
「よし、ではショーナ! 地面に線が引いてある場所がある、そこが射撃位置だ。まずはそこに立て」
「はい!」
ショーナはジャックが指を差した場所に向かい、そこで立ち止まった。彼の正面近くには、木製の立て札の様な的が三つ、横並びで地面に突き刺さっていた。的は、木の杭に正方形の木の板が固定されたシンプルな作りで、板に何かが描かれているという事は無かった。
そこに再び、ジャックの声が響く。ショーナは的を見ながら、彼の声に耳を傾ける。
「そこに三つの的があるな。その位置から、全ての的を狙って撃ってもらう。俺が指示したら、三発だけ撃つんだ。いいな?」
「分かりました!」
ショーナは大きな声で返事をすると、少し両手足を広げて、安定感のある構えを取った。それを見た周囲のドラゴン達は、少しざわつき出した。
「お前ら! 射撃時は静かにしろ! 邪魔をするなら、今後は見物は許可しないぞ!」
ジャックが大きな声で一喝すると、彼らは静まり返った。それを確認したジャックは、改めてショーナの方を向き、彼に指示を飛ばした。
「よし、ではいくぞ。……撃てーっ!!」
ジャックの声を聞いたショーナは、右の的から順番にブレスを撃った。右の的に着弾すると同時に、次のブレスを準備し、素早く二発目を撃つ。それが真ん中の的に命中すると、また同じ様に次のブレスを準備して、左の的を目掛けて素早く三発目を撃った。
ブレスを撃つ度、彼の口元は火花が飛び散り、的に当たった火球は小さく爆発して、的に黒い焦げ跡を残した。そして、彼のブレスを見た周囲のドラゴン達は、一斉に歓声を上げた。
「おぉぉーーーーっ!!」
「すげぇ! 全部ど真ん中だ!!」
「本当に今日が初めてのブレスなのか!?」
的を見ながらそれを聞いていたショーナは、したり顔をして振り向いた。
(……シューティングゲームは、結構プレイしていたからね。……これぐらい、何て事無いけどね)
収まらない歓声の中、ジャックがショーナに言葉を掛ける。
「射撃速度、火球速度、射撃精度……、どれも完璧だな。……ショーナ、いいセンスだ!」
「ありがとうございます!」
これまで三頭で繰り返した特訓で、一度も勝てずにいい所を見せる事が出来なかったショーナは、初めて周りにいい所を見せる事が出来、それがより一層、彼の表情に表れていた。
相変わらずの「したり顔」でジャックに返事をしたショーナだったが、そこにジャックが一言付け加えた。
「……だが、威力がな……」
そう言いながら、苦笑いをして右手の指で顔を掻く。
(あ……あれ……?)
予想外の一言に、ショーナは表情を一変し、ぽかんと口を開いた。




