『初めてのブレス』 その2
「まず……ブレスにも二種類あるという事を言っておかないとな。
俺がブレスを『撃つ』と言ったのは、火球やエネルギー球の事だ。これらを口から放つ時、我々は『ブレスを撃つ』と言う。俺やジョイ、各小隊長が指示を出す時は『撃て』と指示をする。
もう一つは、ショーナが言った『吐く』だ。口から炎等を放射する場合は、そちらで表す。指示する時も『吐け』と指示を出す。……覚えておいてくれ」
フィーとジコウはうなずいたが、ショーナは更に疑問が湧いた。
「……ジャック隊長」
「ん? まだ何か気になるか?」
「はい。ジャック隊長は先程『お前達がブレスを撃てる様になれば……』と、おっしゃいました。それはつまり……『吐く』方は使わない、という事ですか?」
ショーナの鋭い質問に、ジャックは声を出して笑う。
「ハハハッ! さすがだなショーナ。……そこまで突っ込んで聞いてくるのは、お前が初めてだぞ」
「……すみません」
「フッ……、謝る事じゃない。細かい事に気付ける事は、一つの才能だ。そういう部分は大事にしろよ」
「……はい」
ジャックからの言葉に、少し照れ笑いをするショーナ。
「ショーナの言った通り、我々は基本的にブレスは『撃つ』方を使う。もちろん、これには理由がある。
撃つブレスは、撃ちっぱなしが出来て行動の自由が利き、隙が少なく、長距離での射撃も出来る。そして……一発で使う魔力が少なくて済む。
対して吐くブレスは、対象に対して放射し続けなければならず、行動の自由が利かない。射程距離も、そこまで遠くまで届く訳じゃないしな。そして……放射し続けなければならないという事は、魔力を消費し続けるという事だ」
「……つまり、一度のブレスで与えるダメージと、使用する魔力、そして隙と行動の自由を比べた結果……という事ですか?」
「フッ……、察しが良くて助かる。お前の言う通りだ。
だが……吐くブレスも、場合によっては撃つブレスより有効な場合はある。そういった場合は吐くブレスを使うが……、分かるか? ショーナ」
ジャックの問い掛けに、ショーナは顔をしかめて目線を斜め下に向けながら少し考えると、その答えを口にした。
「閉所……ですか?」
「ハハハッ! 鋭いな! ……他にもあるぞ?」
「…………撤退時……ですか? 特に……『しんがり』とか……」
「フッ……。完璧だ、ショーナ。使用場面に関しては、お前に教える事は少ないかもな」
照れ笑いをするショーナの隣で、フィーは顔をしかめて首をかしげていた。それに気付いたジャックは、ショーナに「ある事」を提案する。
「ショーナ。どうもフィーの理解が追い付いていない様だ。……ここまでの話を、お前が要約して説明してやれ。……お前なら出来るだろう?」
「……分かりました」
ショーナは返事をすると、フィーの方を向いた。そのフィーも、しかめっ面をショーナに向ける。
「フィーはどこまで理解出来た?」
「……ブレスが二種類ある所まで」
「じゃあ、分からない所は?」
「……どうして使う場面によって使い分けるのか……とか」
「『撃つ』と『吐く』の違いは分かったんだよね?」
「……そうね」
「分かった」
ショーナはフィーの言葉にうなずくと、彼女に説明を始めた。
「簡単にまとめると、撃つブレスは敵との距離がある時だったり、自分の動きを極力止めたくない時に使うんだよ。それに、一発ごとでしか魔力を使わないから、魔力の消費を抑えられる。
吐くブレスは、狭い場所での戦闘だと敵が避けづらい。だから、そういった時に限れば吐くブレスの方が効果的だったりするけど、吐き続けた分だけ魔力を使ってしまう事になるんだよ」
「……ねぇ、さっき聖竜サマが言ってた『シンガリ』って……なに……?」
「『しんがり』って言うのは、撤退する部隊の最後尾で、追っ手を防ぐ役割の事だよ。だから、そういった時に吐くブレスで壁を作って、撤退の時間を稼ぐのに有効って事」
「でも、どうして? 別に『しんがり』でも、撃つブレスで迎撃すればいいんじゃないの?」
「まぁ、それは状況によると思う。そもそも、撤退しないといけない状況って事は、味方が負傷したり敵が強すぎたりする状況のハズだから、どうすれば時間が稼げるかが大事になってくる。
敵の動きを止めるのなら、撃つブレスよりも吐くブレスの方がいいと思うし、十分に時間を稼いで、自分が撤退出来る様になれば、撃つブレスで牽制しながら撤退する必要もあると思うし」
「ふうん……」
いつもの相づちを打つフィーと、それを見て感心するジャック。
「さすがだな、ショーナ。きちんと理解しているじゃないか」
腕組みをして、微笑みながらショーナを褒めたジャック。ショーナは照れ笑いを返した。それを見届けたジャックは、更に説明を続ける。
「……じゃあ、『撃つ』と『吐く』で魔力の話が出たついでだ。ブレスと魔法についても、少し説明しておこう。……フィー、付いて来れるか?」
「…………」
フィーは少し自信が無さそうに、顔をしかめながら首をかしげた。
「……まぁいい。また分からない事があれば、後からショーナに要約させよう」
一呼吸置いて、ジャックは本題に入る。
「そもそも……。ブレスと魔法の違いについて、お前達は知っているか?」
ショーナ達は、それぞれ首を横に振った。
「……だろうな。ショーナは長から聞いているかもしれないと思ったが……。
それで、その違いについてだが……。結論から言えば、『口から放つか、口以外から放つか』の違いだ」
ジャックの言葉に、ショーナが言葉を返す。
「それだけ……ですか?」
「そうだ、それだけだ。……だが、そこに大きな違いがある」
「どういう事ですか?」
「うむ。例えば……」
ジャックは腕組みを解くと、右ヒジを軽く曲げて、右手の手の平を上に向けた。すると、その手の平の上に真っ赤に揺らめく小さな火球が浮かび上がった。
それを見たショーナは、目を丸くして見入っている。
「これは魔法だ。そして、これを放てば……ブレスを撃ったのと同じ事にはなる。だが……」
ジャックはその火球を握り潰して消すと、再び腕組みをして言葉を続ける。
「魔法はブレスよりも魔力を使う」
「どうしてですか?」
ジャックの説明は端的だったが、その理由を知りたいショーナは、すぐさま質問した。
「何、簡単な事だ。そもそも、俺達が持つ魔力というのは、体内にある物だ。ブレスは、その体内にある魔力を集めて口から放つ。口は体の内側と繋がっている部位でもあるしな。
だから魔力の効率が良く、魔力が強くない者でもブレスを撃ったり、吐いたりする事が出来る訳だ。
しかし、魔法となると……口を介さない。体の内側と繋がっている部位を使わず、例えば……先の様に手で魔法を使うとしたら、体の内側にある魔力を引き出すのに効率が悪くなる。だから、魔法を使うとなると、強い魔力が必要になるという訳だ」
「な……なるほど……!」
「まぁ他にも……、魔法の中には、周囲の魔力を使ったり操作したりする物もあるが、それを行うには相応の魔力が必要になる。つまり……何であれ、魔法を使うには強い魔力を持っている必要があるって事だな」
「強い……魔力……」
「そうだ。お前の様に魔角を持っているのが、一番分かりやすい例だろうな。後は……自身の属性に合っているかどうかも、魔法を使う上では重要だ。属性が違えば、魔力の効率も落ちる。お前も、魔角を持っているとはいえ、そういった事は十分に気を付けろよ」
「……はい!」
ショーナはうなずきながら、力強く返事をした。




