表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/94

『初めてのブレス』 その1

 ショーナ達が初めて戦闘部隊に出向いてから二日――



(いよいよ……今日から訓練か……)


 自室で真剣な表情をし、窓の外に目をやるショーナ。


(どんな事を……やるんだろうな……)


 期待と不安が入り混じる中、部屋を後にした。

 出発前にエイラに挨拶をと思ったショーナは、エイラの部屋を覗き込んだ。しかし、そこに彼女の姿は無い。


(……母さん、出掛けたのかな……)


 仕方なく、彼は次にジコウの部屋へと向かった。一緒に訓練場に向かおうと、声を掛けようと思っていたからだ。

 ジコウの部屋を覗き込んだショーナだったが、そこにジコウの姿は無い。


(ジコウもいないのか……。もう行ったのかな……)


 誰とも会う事が出来なかった彼は、仕方なく砦の一階に下りてきょろきょろと給仕を探す。そこに彼女の声が響いた。


「あら、ショーナも出発ですか?」


 声がした方を見たショーナは、砦の出入り口の外に立つエイラを目にし、彼女の下へと駆け寄った。


「母さん、こんな所に……」

「あら、どうかしたんですか?」

「いや……、出発の前に声を掛けようと思って……」

「フフ……。わざわざありがとう」


 エイラは満面の笑みでショーナに答えた。


「そういえば、ジコウって……」


 ショーナの問いの意味を察したエイラは、笑顔のまま彼に答える。


「えぇ、さっき出発しましたよ。その見送りをしていたんです」

「そう……。一緒に行こうかと思って、部屋を覗いたんだけど……」


 エイラの答えを聞いたショーナは、残念そうに目を逸らした。


「フフ……。ジコウは一匹オオカミなんですよ」

「そうかもしれないけど……。これまで一緒に特訓してきたんだし、何も黙って自分だけで行かなくても……」


 残念がるショーナに、エイラは優しく声を掛ける。


「……いいじゃないですか。ジコウにはジコウのペースがあるんですよ」

「そうだけど……」

「……ショーナも、ショーナのペースがあるでしょう?」

「まぁ……」


 どこか元気の無い様子を見せるショーナに、エイラは満面の笑みで、少しおどけ気味に声を発した。


「私は、ショーナに早くフィーとくっついてもらいたいと思ってますけど、ショーナはマイペースじゃないですか」

「……っ!!」

「早くしないと、ジコウに取られちゃうかもしれませんよ~?」


 エイラの言葉を聞いたショーナは、顔を赤くしてエイラに詰め寄ると、顔を近付け力む様なささやき声で彼女を制止する。


「ちょっと母さんっ!! ……周りの皆に聞こえるでしょ!?」


 ショーナの反応を見たエイラは、満面の笑みをしたまま平然と彼に返す。


「いいじゃないですか、聞こえたって。……好きなんでしょう?」

「母さんっ!!」


 ショーナの必死の静止に、エイラは笑って声を掛ける。


「フフ……。元気出ました?」


 そう言うと、ショーナに顔を擦り合わせた。当のショーナは赤面しながら苦笑いをし、目を逸らすと、


(……元気が出るどころか、むしろ疲れが……)


 鼻で小さくため息を吐いて、そんな事を思っていた。

 エイラは顔を引っ込めると、満面の笑みでショーナを励ます。


「さぁ、元気出していきましょう。……フィーにかっこいい所、見せないといけないですからね!」

「……はい」


 苦笑いをしながら返事をしつつ、ショーナは内心、ふと思った。


(……母さんの方が元気出てるかも……)



 話が一段落した所で、ショーナは話題を変えた。


「じゃあ……そろそろ行くよ」


 ショーナは微笑みながらエイラに声を掛けた。エイラを見つめるその目は、やる気に満ち溢れた力強さが感じられた。


「……えぇ。頑張って下さいね、ショーナ。……私は砦で待っていますから」


 そう言うと、エイラは目を閉じてショーナに顔を擦り合わせた。ショーナも目を閉じてそれを受け入れ、親子はいつもの挨拶を終えた。

 顔を引っ込めたエイラは優しく微笑むと、出発前の彼を励まして言う。


「ショーナ? あなたは今日から、また新しい一歩を踏み出す事になります。あまり気負わずに、楽しんで下さい。楽しむ事が……成長への近道ですから」

「……はい」

「あなたのこれまでの経験、きっと役に立ちますから、忘れないで下さいね。全ては……繋がっていますから」

「……はい」


 エイラの言葉を胸に刻んだショーナは、これから行く先に向きを変えると、振り返って声を発した。


「じゃあ……行ってきます!」


 そう言って、向き直って走り出そうとした時だった。


「あっ、ショーナ?」

「え?」


 エイラは急に思い出したかの様に、ショーナを呼び止めた。その声に、彼も振り返る。


「ちゃんとフィーに、かっこいいアピールして下さいね!」


 満面の笑みで付け加えられた言葉に、ショーナは苦笑いをして答える。


「母さん……、雰囲気台無しだよ……」

「フフ……。行ってらっしゃい、ショーナ」

「……行ってきます」


 苦笑いをしながら受け答えた彼は、再び向き直ると勢いよく走り出し、訓練場へと向かった。




 ショーナが訓練場に到着すると、既にフィーとジコウはジャックと向かい合っていた。ジャックの後方には、先日の様に多くのドラゴンが集まっている。


「おっ、ショーナも来たな」


 ショーナに気付いたジャックが声を出すと、二頭もショーナに目を向けた。


「すみません、遅くなってしまって……」

「いや、皆そろったばかりだ。……大方、長と話し込んでいたんだろう?」

「……そうです」


 ショーナは少し気まずそうに答えた。


「フッ……。気にするな、皆そんな事だろうと思っていたさ。お前は長の子だからな。……長といえど、我が子の事となれば……色々と気掛かりな事もあるだろう」


 ジャックの言葉に、苦笑いをしたショーナ。


(まぁ……、その半分はフィーとの恋愛の事だと思うけど……)


 ショーナがそんな事を考えていると、ジャックが早々に訓練についての話をしだした。


「……よし、では始めるとしよう。訓練初日だが、お前達に早速覚えてもらいたい事は『ブレス』だ。今のお前達は、これまでの特訓で最低限の近接戦闘は出来る。だが……それだけでは様々な状況に対応出来ん。特に中距離や遠距離の場合だ。

 だからまず、今日からはブレスを重点的に訓練していく。いいな?」


 ジャックの説明に、三頭はそれぞれうなずく。


「お前達がブレスを撃てる様になれば、とりあえず全ての距離で戦闘が出来る様になる。それに、ブレスは中距離以上でなければ使えない、という訳じゃない。場合によっては近距離でも使い道はある。最初に習得しておいて損は無いだろう」

(……ん?)


 その説明を聞いたショーナは、少し違和感を感じて顔をしかめた。それに気付いたジャックは、彼に声を掛ける。


「どうしたショーナ。何か気になる事でもあったか?」


 ジャックの声掛けに、はっとしたショーナ。


「あ、いえ……。些細な事なので……」

「ん? らしくないな。……些細な事でも潰すのが、お前のスタイルだろう? いいぞ、時間はあるから言ってみろ」

「あ、はい……。えっと……ブレスは『吐く』物だと思っていたので、『撃つ』というのが気になって……」


 ショーナの疑問を聞いたジャックは、一旦笑ってから答えた。


「ハハハッ! お前らしいじゃないか! ……その疑問はもっともだ、ショーナ。だが……大抵のヤツらは気にもしないがな」

「そう……ですか……」

「あぁ。……だが、今のは大事な部分だ。折角だから、お前達にはきちんと説明しておこう」


 そう言うと、ジャックは腕組みをして説明を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ