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『独立派 戦闘部隊』 その7

「ジョイ隊長、ちょっといいですか?」

「……はい、エイラ様」

「ジョイ隊長は今、『翼は命の次に大事な物』と……」

「その通りです」

「それなら……、命を守る為に翼を使うのは、問題無いと思いますよ?」

「それは……!」


 エイラの鋭い指摘に、ジョイは言葉に詰まった。


「戦闘部隊で翼を使った攻撃や防御を行わないのは、私も知っています。ですが……、これは、この子達が自分達でたどり着いた、自分に合った戦闘スタイルなんです。私も教えていないですし」

「エイラ様が教えていないのでしたら、尚更、今からでも教え直した方が……!」


 エイラの説明に、ジョイは真剣な表情で訴えていた。それを見たエイラは、首をかしげてジョイに問い掛けた。


「翼を使う事が、そんなに問題ですか?」

「先程、説明したではありませんか! 翼が傷付けば、撤退に影響が出ます! 私は……」

「翼に傷を負う様な戦闘であれば、当然、その戦闘は激しいハズです。それなら、翼を使ってでも命を守る方が大切ではありませんか?」

「命を守る為に撤退するのに、その翼を捨ててしまったら、どう撤退すればいいんです!? 確かに彼らは空竜種で走る事は出来ます! しかし……」


 声を荒げてエイラに訴えるジョイを見て、ゼロが口を挟んだ。


「ジョイ、少し落ち着け」

「しかしっ……!」

「長のおっしゃる事も、ジョイの言う事も、どちらも正しい。私は、彼らは彼らのやり方でいいと思う」

「…………」


 ゼロの言葉に、ジョイは不満そうに黙り込んだ。そこに今度はジャックが口を挟む。


「俺はなかなか興味深い戦い方だと思ったがな。これまで、翼を攻防に使おうなんてヤツはいなかった。そもそも、そういった考えさえ無かったしな。

 ……取り決めをした時、根本的に『戦闘で翼を使うヤツなんているのか』というのが、当時の俺達の意見だったと記憶している」

「そうよ。だから先手を打って取り決めた」

「分かってる。……だが結局、そんなヤツらは出てこなかった。それを通達しても、皆当然の様な顔をしていたしな」


 ジャックはショーナに顔を向ける。


「そこに、こいつらが現れた。翼を盾にして俺の攻撃を防ぎ、そして反撃をした。……興味深いじゃないか」

「だから、それが問題だと私は……! 彼らを見て、真似する者が出てきたらどうするの!?」


 ジャックは再びジョイに顔を向けて、憤る彼女を落ち着かせながら説く。


「まぁ落ち着け、そう簡単に出来る動きじゃない。……そもそも、今の戦闘部隊では回避優先で訓練をしている。そんなヤツらが、いきなり翼を使って防御なんて、簡単には出来ん。空戦隊なら尚更だろう?」

「…………」

「陸戦隊にいる翼を持ったヤツらも、いきなり同じ動きは出来ん。そう簡単に真似は出来んよ」


 ジャックの説明に、ジョイは不満そうに噛み付いた。


「じゃあ、あなたは今後、どうするつもりなの? ジャック」

「……どうもしない。ショーナ達が翼を使う事は止めんし、部隊の連中は引き続き、翼を使わない方向で訓練を行う。……その上で、翼を使って防御を試す者が出てくるなら、それは個別に判断する」

「……どういう事?」

「そもそも、ジコウは翼の背面がウロコで保護されている。ショーナは甲殻もあるし、バリアも使える。

 仮にショーナがバリアを使えなかったとしても、翼が丈夫に出来ているから防御が可能だった訳だ。だから、翼を攻防で使うのは個別に判断する、という事だ」

「…………」


 ジョイは再び、不満そうに黙り込む。彼女は少し考えた後、小さく呟いた。


「……空戦隊では、認めないわ」


 それを聞いたジャックは、目を閉じて彼女に答える。


「あぁ、それでいいさ」



 会話が一段落した所で、ジャックが仕切り直してショーナ達に声を掛ける。


「すまんな、話が少し逸れたが……。それで、今後のお前達の訓練についてだが……」


 ジャックは一呼吸置いて、腕組みをして続けた。


「お前達は戦闘部隊ではないから、訓練は一日置きで短時間だけ行う。時間はこの時間……昼下がりだ。場所はここ。……訓練は明後日から行う。明日はしっかり休んで、体調を整えておけよ」


 ジャックの言葉を聞いたショーナ達は、それぞれうなずいた。


「何か質問があれば、今の内に聞いておこう。……ショーナ、大丈夫か?」

「……大丈夫です」

「ジコウとフィーは……大丈夫そうだな。……よし、俺からは以上だ」


 ジャックはそう言うと、ゼロの隣へと下がる。彼はその場所でエイラの方を向くと、彼女に対して言葉を発した。


「長、急なお願いでお時間を頂き、ありがとうございました」


 そう言って、ジャックは頭を下げる。そんなジャックに、エイラは穏やかな表情で言葉を返した。


「私は何もしていません。……この子達が『やる』と言ったので、私は止めなかっただけですよ。仮に『やらない』と言っていたら、私も止めていましたけどね」


 そう言うと、エイラは笑顔を見せる。


「……痛み入ります、長」


 一言発したジャックは、頭を上げた。




「……さて、では今度こそ戻りましょうか」


 エイラはショーナ達に向かって、優しく声を掛ける。


「それでは、私達はこれで失礼しますね」


 エイラはそう言うと、砦へと歩き出した。それを見送るゼロ達は頭を下げ、エイラを見送る。

 ショーナ達はゼロ達に軽く頭を下げて、エイラの後ろに続いた。


(本来なら、翼は攻防に使わない……か)


 エイラの後ろで、先の話を思い出していたショーナ。帰路に就いてから、その事が一向に頭から離れないでいた。


(それは知らなかったな……。でも、ジコウも小さい頃から翼を使っていたし、それを母さんが止める事も無かったし……)


 少しだけ下を向きつつ、難しい顔をして考えている時だった。


「じゃあ、私はこっちだから」


 ショーナの後ろを歩いていたフィーは、彼らに声を掛けた。その声にショーナ達は立ち止まり、彼女の方を向いた。


「明後日の昼下がりだったわね?」

「……そうだね」

「私、そのまま訓練場に向かうから、明後日はそこで会いましょ?」

「あぁ、分かったよ」

「……じゃあまたね! 聖竜サマ! ジコウ!」


 そう言うと、フィーは軽やかに駆けて帰っていく。受け答えていたショーナも彼女を見送ると、再びエイラ達と共に砦に向かって歩き出した。


(明後日……か)


 戦闘部隊での訓練が、一体どんなものなのか。期待と不安が入り混じり、ショーナは難しい顔をしながら砦へと帰っていった。




 日が傾きかけた中、砦に戻ったショーナ達。ジコウは早々に自室へと戻り、ショーナもエイラの部屋に戻った。


「あ、そうだ母さん」

「何ですか?」

「さっきはその……ありがとう」


 ショーナは、エイラが助け舟を出してくれた事に、感謝の気持ちを伝えた。


「……何の事です?」

「ほら、陸空混成がどうの……って、その時の……」

「あぁ! その事ですか!」


 エイラは満面の笑みをショーナに向けた。


「でも……。オレ、母さんから部隊編成の事なんて、教えてもらってないよ……? なのに……」

「フフ……。私、ウソは言ってませんよ?」

「えっ……?」

「ショーナは勉強熱心だと、言っただけですよ?」

「それは……そうだけど……」


 エイラは相変わらず満面の笑みで答えたが、その答えが、どうしても腑に落ちなかったショーナ。


「どうして……オレをかばってくれたの……?」

「かばう……?」

「だって……前もそうだったけど、オレ……母さんから聞いてない事を、母さんから聞いた様に言って、それで……」

「仮にショーナが『そう言った』のだとしても、私は一つもウソは吐いてきてませんよ?」


 満面の笑みで答えるエイラに、少し困惑してショーナは聞き返した。

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