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『独立派 戦闘部隊』 その6

「……俺の負けです」


 ジコウは鋭い目付きでジャックを見つめ、先の模擬戦の負けを認めた。しかし、ジャックはそうは思っていなかった。彼はその理由を、ジコウに問い掛ける。


「ん? 何故だ」

「……尻尾をつかまれたら致命的です」

「フッ……。それは分からんぞ」

「…………」


 少し微笑んでジコウに答えたジャックだったが、ジコウは相変わらずの表情で黙り込んだ。


「尻尾をつかまれても、それに応じた対応方法はある。……それを学ぶのも、戦闘部隊での訓練の一つだ。お前達は互いに空竜種だったから、特訓中に尻尾をつかまれた事なんて無かったんだろう?」

「……はい」

「戦闘部隊には色々なヤツらがいる。それぞれの種に合った近接戦闘の方法もある。……これからしっかり学ぶ事だ」


 ジャックの言葉を聞き、ジコウは静かにうなずく。


「だが……。先の模擬戦、なかなか見事な突っ込みだったぞ。……いいセンスだ」

「……ありがとうございます」


 ジャックから賞賛されるも、表情を変える事無く、無愛想にお礼を言ったジコウ。彼は振り向いてショーナ達の下へ戻っていく。


(身軽なヤツに、一歩も引かないヤツ……か。フッ……、面白いヤツらだ)


 ジャックは微笑みながら、戻っていくジコウに目を向けた。そして……


「よし! 待たせたな、ショーナ! お前の番だ!」


 大きな声でショーナを呼んだ。



(いよいよ……オレの番か……)


 ここまで険しい表情をしながらフィーとジコウの模擬戦を見てきたショーナは、自身の番が回ってきた事で更に表情を強張らせた。フィーもジコウも、自分より強い。ショーナは常にそう思っていたが、その二頭が簡単にあしらわれてしまったのを目にし、それが彼をより一層その様な表情にさせていた。

 ショーナはジコウと入れ替わる様に、模擬戦の開始位置に向かった。途中、戻ってくるジコウとすれ違い様に言葉を交わす。


「ショーナ」

「ん?」

「速いぞ」

「あぁ、ありがとう」


 ジコウは相変わらず無愛想だったが、口数は少ないながらも、ショーナの事を気遣って言葉を掛けた様だった。ショーナもそれを感じ取り、彼にお礼を返していた。


(ジコウが言うなら……相当だろうな……)


 三頭で繰り返してきた特訓では、ジコウの実力はフィーより若干上だった。幼い頃から今日に至るまで、それは揺るがなかった。そのジコウの言葉だからこそ、彼にはその言葉がより重く感じられた。

 程無くして、ショーナは模擬戦の開始位置に着く。ジャックと対面し戦闘体勢を取ると、集まっていたドラゴン達がざわつき出した。しかし、すぐにそれを掻き消さんばかりの大声が響く。


「ショーナ! 準備はいいか!?」

「はい!」

「少しやりにくいとは思うが、周りは気にするな! いつも通りやればいい!」

「大丈夫です!」


 幼い頃から周りに注目され、何かをする度に周囲がざわついていた環境にいた彼は、今回のそれは「いつもの事」として、あまり気にはしていなかった。それ以上に、ジャックとの模擬戦の方が彼には心配であり、気になっていた事だった。


「よし! ……では、始め!」


 ショーナの返事を聞いたジャックは、大きな声で合図を出す。しかし、ショーナは一歩も動かない。

 これまでの二頭とは違う初動に、ジャックは再びショーナに声を掛ける。


「どうした、ショーナ! もう始めていいぞ!」

「ジャック隊長からどうぞ!」


 ショーナからの思い掛けない言葉に、少し微笑むジャック。


(フッ……。カウンター狙いか、面白い……!)


 そう思いつつ、すぐに声を張る。


「では……、そうさせてもらおう!!」


 ジャックは少し前傾になると、力強く大地を蹴った。彼の走りはショーナが想像していたよりも速く、あっという間に急接近した。


(……っ! 速い!)


 ジャックはショーナの手前で跳び上がると、右手を振り上げ、落下の勢いを乗せて強襲した。ショーナはそれを見ると、一旦バックステップで引いて回避した。

 着地の衝撃を和らげる様に、膝を曲げて低い姿勢を取ったジャックは、その屈伸を利用して瞬時に踏み込み、バックステップから着地したショーナに再び急接近。左足を踏み込んで軸足にすると、腰のひねりも使って素早く右手を突き出し、ショーナの首を狙う。

 ショーナはとっさに左の翼を盾にし、ジャックの攻撃を遮った。右手のツメが翼に当たると、その部分と彼の魔角が光を放つ。それを見た周囲のドラゴン達は、一気に沸きあがっていた。


「おい、見たか今の!?」

「あぁ!」

「バリアだぞ!」

「すげぇ……! さすが聖竜様だ!」



 そんな周りの声は彼らの耳には入らず、真剣勝負が続いていた。


(ほう……?)


 ショーナのバリアを見たジャックは、どこか意外な表情をしたが、次の瞬間、ショーナが反撃を繰り出した。


(そこだっ!)


 ジャックの攻撃を翼で受け止めたショーナは、すかさず右手を突き出し、彼の首元を狙う。しかし、その攻撃はお見通しと言わんばかりに、ジャックは易々と左手でつかんだ。


「あっ……!」

「よし、いいだろう! ここまでだ!」


 ジャックはショーナの右手を放す。


「見切っていたんですか……?」

「まぁな。そもそも、お前がカウンタータイプだというのは、開始時に分かっていたからな。……お前自身が言った様なものだ」

「……そうですね」

「しかし……、まさかバリアを使うとはな……。さすが長の子……といった所か」

「……どういう事ですか?」

「フッ……。まぁ、それはいずれ分かるだろう」


 微笑みながら話したジャックは、最後に一言付け加えた。


「……よし、これでお前達の腕前は分かった。ショーナ、列に戻れ。そこで今後について話そう」

「分かりました」


 ショーナはうなずいて返事をすると、元いた場所に歩いていく。その後ろから、ジャックも腕組みをして続いた。


(なるほどな……。それぞれ別のタイプか……、面白くなりそうだ)


 ショーナの後ろを歩くジャックは、そんな事を考えて静かに笑うのだった。




 ショーナとジャックが元の場所に戻ると、周囲のドラゴン達は、まだざわついていた。


「お前ら! 少し静かにしろ! これから大事な話をする、騒ぐんじゃない!」


 ジャックが一喝すると、周囲のドラゴン達は途端に黙り込んだ。それを確認したジャックは、改めてショーナ達に向かって話し始めた。


「模擬戦、ご苦労だった。……お前達の腕前は大体分かった。なかなかしっかり特訓していた様だな」


 ジャックの言葉に、ショーナとフィーは少し表情がほころぶ。そこにジョイが口を挟んだ。


「フィーはともかく、ショーナとジコウの戦い方は、空戦隊の隊長としては……いいとは言えないわ」

「何だ、ジョイ。……何か引っ掛かる事でもあったか?」


 ジャックは彼女に目を向けた。その彼女も、ジャックの方を向いて続きを話す。


「彼らは空竜種よ。翼を近接戦闘で使うのは、私は賛同しないわ。戦いで翼が傷付いて、いざという時に飛んで撤退出来なくなったらどうするの? 翼は私達にとって、命の次に大事な物なのよ?」

「お前の心配は分かるが、俺はそこまで深刻とは思わん。お前みたいに翼竜種であれば、確かに深刻な問題だとは思うが……。空竜種や飛竜種であれば、地上でも戦闘は出来る。仮に翼が傷付いたとしても、飛んで撤退出来なくなるだけだ。走って撤退すればいい」

「それは少し乱暴じゃない? 空戦隊だけでなく、陸戦隊でも翼を使った近接戦闘は行っていないハズよ。それは翼を守る為の取り決めだったでしょう?」


 ジャックとジョイの話を聞いていたエイラは、ここで二頭の会話に口を挟んだ。

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