『独立派 戦闘部隊』 その4
「えっ? え~っと……そうですか? 別に、そんなに珍しい事ではないと思いますが……」
「いや、初めて来る者で、そんなに詳しい者は……そういない。むしろ、君が初めてだろうな」
「そ……そうなんですか……?」
「あぁ。……入隊する者が、君の様な知識があれば……ほぼ即戦力だろうな。私の補佐にでも就いてほしいよ。……だからこそ、どこで学んだのか……とても興味があるな」
これで上手く誤魔化す事が出来ればと思っていたショーナだったが、完全に話を逸らす事が出来ず、急いで考えを巡らせた。
(人間の時にゲームで学んだ……なんて、口が裂けても言えない……。それに、周りには大勢のドラゴンもいるし、母さん達もいる……。下手な事は言えないぞ……)
そう考えながら、ショーナは一瞬エイラに目を向けた。彼女はショーナの事を微笑みながら見つめており、目が合ったその一瞬、彼女は満面の笑みをショーナに向けた。
(母さん……)
エイラの表情を見たショーナは、幼い頃を思い出して心を決め、思い切った賭けに出る。
「え~っと……。以前、母さんに聞いた事が……」
最後まで言う事無く、言葉の最後はにごし気味にして曖昧に答えたショーナ。それを聞いたゼロは、腕組みをしながら右手をアゴに添え、ショーナに聞き返した。
「長に……?」
「……そうです」
ゼロがエイラに顔を向けると、エイラは聞かれる前に笑顔で口を開いた。
「そうなんですよ、ショーナは小さい頃から勉強熱心なので」
「ふむ……。まぁ、砦の前で特訓をしていたという事も、私共の耳に入ってきていましたし、それなら確かに納得です」
ゼロが納得したのを見て、ショーナは胸をなで下ろした。
(ごめん、母さん……。ありがとう……)
そう思いながら、再びエイラに目を向けたショーナ。当のエイラもショーナに目を向けており、再び互いに目が合うと、彼女はまた満面の笑みをショーナに向けた。
(砦に戻ったら、きちんとお礼言わなきゃ……)
自身の窮地をエイラに頼る事で切り抜ける。その賭けには成功したものの、彼はエイラへの申し訳無さで複雑な感情となっていた。
一連の会話が終わった所で、エイラは見計らったかの様に声を発した。
「さて……。挨拶は済みましたし、私達は戻りましょうか」
しかし、エイラがそう言った直後だった。
「長、お待ちを」
「どうしました? ジャック隊長」
「折角の機会です。彼らが、どれ程の腕前なのか……模擬戦をしたく思います」
「ジャック隊長が、ですか?」
「そうです」
エイラは少し考えていたが、ジャックは言葉を続けた。
「彼らの腕前を知りたいのは、自分だけではありません。……ここに集まった者達、皆がそう思っています」
「あら、それは先程も言いましたよ? この子達は見世物ではありません、と」
「分かっております。しかし……、このままでは収拾が付きませんので」
ジャックの模擬戦の提案に、集まったドラゴン達はざわめいていた。それを見たエイラは、鼻で小さくため息を吐く。
「ゼロ司令?」
「……はっ」
「ゼロ司令は、どうお考えですか?」
「私は……、ジャックと同感です。遅かれ早かれ、彼らの実力は見なくてはなりません」
ゼロの言葉に、ジョイも続いた。
「私も同意見です、エイラ様」
「……ですが、何も皆さんの前で模擬戦をする必要は無いのではありませんか? 何度も言っていますが、この子達は見世物では……」
「私、やりますよ。エイラ様」
エイラの言葉を遮ったのはフィーだった。どこか自信がある様な表情でエイラを見て、フィーは言葉を続けた。
「どうせやるなら、今日でも明日でも変わらないです。……そうでしょ? 聖竜サマ」
最後にそう付け加えたフィーは、ショーナに目を向けた。話を振られたショーナは、エイラと同じく鼻で小さくため息を吐くと、フィーに目を向けて答えた。
「……フィーなら、そう言うと思ったよ」
「ジコウはどうするの? 断っても笑わないわよ?」
ここまで静観していたジコウは、フィーに鋭い目付きをして答えた。
「……ショーナがやるなら、俺もやろう」
彼らのやり取りを見ていたエイラは、少し心配して声を掛ける。
「あなた達が『やる』と言うのでしたら、止めはしませんが……」
「大丈夫です、見せ付ければいいんですよね?」
「フィー……」
「私達、そんな柔な特訓してきてないですから。……そうでしょ? 聖竜サマ」
再びショーナに目を向けるフィー。それを見たショーナも、再び鼻で小さくため息を吐き、苦笑いしながらフィーに答えた。
「全く……恐れ入るよ……」
フィーが中心となっていたやり取りを見ていたジャックは、彼女を見て感心していた。
(……なるほど、なかなかお転婆に育ったじゃないか。この口達者な姿を見る事が出来たら、彼らもきっと……喜んでいただろうな……)
腕組みをしながら、感慨にふけるジャック。その隣に並んだ二頭も彼と同じ様に、どこか感慨にふける表情をしていた。
「……ジャック」
「……あぁ」
ゼロはそんな彼に小声で呟く。ゼロが何を言おうとしていたのか、それを分かってしまった彼は、ゼロの次の言葉を待たずして続けた。
「大丈夫だ、途中で止める。……最初から折れてもらっては、たまらんからな」
「そうか……」
「それに……。あの言い様だ、少しは自信もあるのだろう」
「……だから私は心配しているのだがね。君がその自信を折ってしまわないか、と」
「心配するな、叩きのめすつもりは無い。……そんな事をしてしまえば、後から大目玉を食らうのは分かっているしな。……何なら、追放されるかもしれん」
最後は冗談交じりに、少し笑いながら話したジャック。
「ふむ……。まぁ、考えがあるのなら、君に任せる事にしよう」
ゼロは少し顔を下に向けると、目を閉じて微笑んだ。
「あぁ、悪いな」
当のジャックも、彼を見て微笑み返す。そして、ショーナ達を見て大きな声を出した。
「……待たせたな! では始めるぞ!」
その声に、ショーナ達は和やかな雰囲気から一変し、真剣な表情でジャックに視線を送った。
「まずは、お前達の自主性を尊重する。最初に模擬戦を行いたい者がいれば名乗り出ろ」
「私がやります!」
ジャックの問い掛けに、すぐさま答えたのはフィーだった。それを見たジャックは微笑む。
「フッ……。まぁ、思った通りといった所か。……ショーナとジコウは、異論は無いか?」
「はい」
ジャックの問い掛けに、ショーナは一言だけ返事をし、ジコウは黙って小さくうなずいた。
「よし、いいだろう。……フィー、お前はあの辺りで待機しろ。俺が合図を出す。そうしたら模擬戦開始だ」
「分かりました」
フィーは返事をすると、ジャックが指差した場所に向かって歩き出した。その彼女を、険しい表情をして見送るショーナ。
(フィーはオレより強い……。ジャック隊長が、どんな動きをするのか……。しっかり見ておかないと……!)
そう考えながら、視線をジャックに向けた。ジャックも彼らから少し離れた場所に移動し、フィーの対面に位置取ると、どっしりと厳めしく立って構えた。




