『独立派 戦闘部隊』 その3
最後に前に出たのは、左側に立っていた全身グレーの翼竜だった。そのイエローの瞳を日の光で輝かせ、ショーナ達に挨拶をした。
「私は空戦隊隊長のジョイよ。飛行訓練や空中での近接格闘訓練は、私が担当するわ。……宜しく」
女性ながら、威圧感のある低い声で挨拶をしたジョイに、ショーナ達は少し畏縮気味に軽く一礼する。それを見ていたジャックは、笑ってショーナ達に声を掛けた。
「ハハハッ! 大丈夫だ、お前ら。……ジョイは普段から、こういうヤツだ」
「何、ジャック。……私が怖いとでも?」
「怖がらせているのは事実だろう?」
「…………」
ジョイは不満そうにため息を吐くと、ショーナ達に向かって質問をした。
「ところで……あなた達は皆、空竜種だけど……、飛んだ事はあるの?」
相変わらずの威圧感ある低い声の問いに、ショーナとジコウは首を小さく横に振った。ところが、
「あります」
フィーだけはジョイに自信を持って答えていた。それを隣で聞いていたショーナは、驚いてフィーに質問する。
「えっ!? あるの……!?」
「えっ? 知らなかったの……?」
お互いがお互いに知らなかった事で、フィーも少し意外な表情を見せながらショーナに聞き返していた。
(フィーって、いつも特訓の行き帰りは走っていたから、てっきりオレと同じ様に飛べないものとばかり……。いつの間に飛んでたんだろう……)
ショーナは視線を戻して考えていた。
(ジコウが飛んだ所は見た事無かったから、何となく……そうだろうとは思っていたけど……。フィー、飛べたんだな……)
彼らの返事とやり取りを一通り見たジョイは、一呼吸置いてから口を開いた。
「……まぁいいわ。飛行訓練は飛べる事が前提。ショーナとジコウは、飛べる様になったら空戦隊の訓練に参加なさい。フィーはジャックの訓練が終わったら、いつでも来るといいわ」
「はい、ありがとうございます」
フィーの言葉を聞いたジョイは、また列に戻った。
「あの……、質問してもいいですか?」
一通り挨拶が終わったタイミングを見計らって、ショーナが口を開いた。
「今更なんですが……。そもそも、陸戦隊と空戦隊の違いって、何ですか?」
その質問を聞いたジャックは、軽く笑うと彼に言葉を掛ける。
「フッ……。なるほど、分からない事はどんなに些細な事でも徹底的に潰すタイプか。賢い訳だ」
「いや……そんな……」
「気に入ったぞ、ショーナ。そういうヤツは伸びるからな」
ジャックの言葉に、少し照れ笑いをしたショーナ。そんなショーナを見つつ、ジャックは彼の質問に答えた。
「陸戦隊と空戦隊の違いは、その名の如く……陸で戦う部隊か、空で戦う部隊かの違いだ」
「その部隊分けは……種族で分かれている、という事ですか?」
「いや、それは少し違うな。陸戦隊でも飛竜種や空竜種の者はいる。飛行が上手くない者や、空中戦が苦手な者は、例え翼を持っていても陸戦隊に配属されるな」
その答えを聞き、ショーナは別の疑問が生じた。それをジャックに投げ掛ける。
「でも……、どうして陸戦隊と空戦隊で部隊を分けているんですか? 陸空混成で部隊を組んだ方が、柔軟に対応出来ませんか?」
それを聞いたジャックは、質問の鋭さに思わず笑い出してしまった。
「ハハハッ! とんだ新入りだ! そんな事を平然と言ってのけるなら、賢いなんてウワサが流れるのも納得だ。……皆から『聖竜』と慕われるのも理解出来る」
「あ……いや……」
「フッ……面白いヤツだ。……まぁいい、お前の疑問はもっともだ。そして、お前が言った事もな。
……それで、お前の疑問に答えるなら……以前は陸空混成で小隊を編成していたが、その時に問題が発覚し、今の形に落ち着いた……となるだろう」
「問題……?」
「あぁ。……確かに陸空混成は柔軟に対応出来た。だが、それは戦力の分散にも繋がった」
ジャックの答えに、どこか納得出来なかったショーナは、少し首をかしげて聞き返した。
「どうして戦力の分散になるんですか? 小隊に所属するドラゴンの数が同じであれば、あまり戦力が変わるとは思えないのですが……」
「そうだ、お前の考えは正しい。だが……仮に、敵が空中の敵だけだったとする。その時はどうなる? お前なら分かるんじゃないのか?」
「あっ……なるほど……!」
ジャックからは明確な答えが示されなかったが、彼の問い掛けにショーナは状況を想像して理解していた。しかし、このやり取りを隣で聞いていたフィーは納得出来ず、彼らに口を挟んだ。
「どういう事……? 別に、それで何か変わるとは思えないけど……」
「いや。これは結構問題だよ、フィー」
フィーに答えたのはショーナだった。彼はフィーに目を向けて彼女に説明する。
「もし……小隊のドラゴンが、陸と空で半々の編成だった時、敵が空中の敵だけだと……半数のドラゴンは手出しが出来なくなる」
「どうして? その為のブレスとか魔法じゃないの? そうすれば攻撃出来るでしょ?」
「フィー……。もしかして、コドモの頃の事……忘れた?」
「コドモの頃?」
「闇の魔物が襲ってきた時の事」
「覚えてるけど、何か関係あるの?」
ショーナの説明に、今一つ答えが繋がらないフィーは、首をかしげて聞き返していた。そんなフィーに、ショーナは彼女の方に向き直って続きを話す。
「あの時、地上から火球が飛んでいったの、フィーは見なかった?」
「……それは覚えてない」
「まぁ、覚えてないのは置いとくとして……。もし、その火球で上空の魔物を倒せていたら、フィーが襲われる事は無かった訳で……」
「……そうね」
「でも、その火球で魔物を倒す事が出来なくて、フィーは襲われた訳だろ? つまり……、地上からブレスや魔法で上空の敵を倒すのは難しいって事なんだよ」
フィーに説明をするショーナを、ジャックとゼロは腕組みをして静観している。それに気付く事無く、ショーナは彼女に説明を続けた。
「だから、さっきの話に戻ると、戦力の分散になるんだよ。地上からの攻撃が上空の敵に当たらないとなると、一つの混成小隊で空中だけの敵を相手にするのは、かなり分が悪くなる。
それなら、空の敵には空中戦に特化した小隊をぶつけた方が、同じドラゴンの数でも全員が戦闘に参加出来るし、敵を倒しやすくなる。……これが戦力の集中って事だよ」
「ふうん……」
ショーナの力説に、フィーはいつもの相づちを打っていた。ただ、これを聞いていたジャックは、感心して呟く。
「賢いのは分かっていたが……、まさかこれ程とはな……」
ジャックに続いて、ゼロも口を開いた。
「うむ……。とても初めて戦闘部隊に来たとは思えん……」
ジャックの呟きに答えたゼロは、ショーナに直接問い掛ける事にした。
「ショーナ。君は今日、初めて戦闘部隊に来たハズだったな?」
「えっ……? はい、そうですが……」
「我々も君が賢いというウワサは聞いていた。しかし……今のフィーへの説明は、とても初めてとは思えない。……どこで学んだんだ?」
「……っ!」
ショーナはフィーへの説明に熱中しすぎ、自身の立場をすっかり忘れて話を続けてしまっていた。一般的な十歳のドラゴン、その範囲を超えて、人間の時の知識を交えて話をしてしまっていたのだ。
(し……しまった! 踏み込みすぎたっ……!)
過去にも同じ失敗をしていたショーナは、表情を面に出さない様にし、考える時間を稼ぐ様に言葉をにごす。




