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『闇の魔物』 その6

「え~っと……、母さんから聞いたんですけど……」


 自身が疑われない様に、一旦前置きを挟んだショーナ。そのまま説明を続ける。


「幼い子が、就寝中に粗相をしてしまう事……だそうです」


 自分自身も知っていた事だったが、あえて聞いた話という形で説明をしたショーナ。彼は、先の二頭の反応から、ドラゴンがオネショを知らないのではないかと疑い、自身が内容に詳しくては疑われると思って、この様な説明をしていたのだ。

 ショーナの説明を聞いたフォーロは、その内容を飲み込むと彼に答えた。


「ふむ、なるほど……。しかし、わたくしも長く生きておりますが、幼子が夜間に粗相をするというのは……聞いた事がありませんな」

「そ……そうなんですか……?」

「えぇ。……以前、わたくしは友好派にいたと、お話しした事がありましたな。友好派はコドモが多いのですが、そこでもそういった話は聞いた事がありませんでしたし……」

「…………」


 その話を聞いて、ショーナはうなる様にため息を吐いた。


(じゃあ、ドラゴンは……オネショをしないのか……?)


 ショーナは難しい顔をして考え込んだ。何故エイラはオネショという言葉を口にしたのか。コドモを持つ親であるからオネショの事を知っていたのか、それさえもショーナには分からなかった。

 そんなショーナに、フィーが唐突に質問をする。


「じゃあ……、聖竜サマはオネショしたって事?」

「いやっ……しないよ!」


 突然の質問に、考え込んでいたショーナは慌てる様に返答をした。しかし、そうは言ったものの、内心では少し心配をしていた。


(たぶん……だけど。今朝のが母さんのイタズラでなければ……)


 平然を保つ様に表情に気を付けつつ、ショーナは今朝の事を思い出していた。すると、今度はフォーロが声を掛けてきた。


「ふむ……。ショーナ様、エイラ様は他に何かおっしゃっていませんでしたか?」

「え……? そういえば……『コドモが魔法やブレスを使うと、その夜オネショする』……と」


 それを聞いたフォーロは、少し声を出して笑った後、ショーナに答えた。


「なるほど……、エイラ様も洒落てますな」

「えっ……?」

「ショーナ様。コドモが魔法やブレスを使ってはいけない理由、エイラ様から聞かれましたか?」

「え……えぇ、そう言われた後に……」

「ふむ、ならば説明は不要ですな。……エイラ様はきっと、少し脅かしたかったのでしょう。そう言った方がコドモも不安に思い、魔法やブレスを使おうと思いづらくなりますし」

「……でも、ドラゴンはオネショしないんですよね?」

「わたくしは、そう認識しておりますが……。ただ、コドモ達はその知識が無いですから、そう脅かして魔法やブレスを控えさせる……というのは、手段として面白いと思いますな」

「書庫長も知らなかったのに……ですか?」

「わたくしは、その様な機会が無かっただけですからな。……本当の親心というのは分かりません」

「…………」


 ショーナとフォーロの会話が一段落した所で、フィーが割って入る様に質問を投げ掛けた。


「ねぇ……、どうしてコドモは魔法やブレスを使っちゃダメなの……?」

「ふむ、フィーさんはご存知無かったのですな」

「まさか……本当にエイラ様が言った様に、オネショするとか……?」


 フィーの質問にフォーロは声を出して笑うと、彼女に答えた。


「エイラ様の言葉が本当かは分かりませんが、コドモが使ってはいけない理由はありますよ」


 そう言って、フォーロは彼女に説明を始めた。




 ショーナ達が書庫に到着した頃、砦の地下室――


 エイラが地下室に入ると、そこには三頭のドラゴンが先に到着していた。飛竜種でベージュの甲殻を持つ者、陸竜種で黒い甲殻を持つ者、翼竜種でグレーのウロコを持つ者。その三頭は、部屋にある四角い木製のテーブルを前に、丸イスに腰掛けていた。

 彼らはエイラの姿を見ると立ち上がり、軽く頭を下げた。


「そろそろ、いらっしゃる頃合だと思っていたんですよ」


 エイラが声を掛けると、彼らは頭を上げた。


「立ち話も何ですし、座ってゆっくり話しましょう」


 エイラはそう言いながら、テーブルを挟んだ彼らの対面に向かうと、床に腰を下ろした。それを見て彼らもイスに腰を下ろす。


「さて……。では、お話を伺いましょうか。……昨日の報告ですよね?」


 エイラの問いに、三頭の真ん中に座っていたベージュの飛竜が立ち上がり、話し始める。


「はい。え~……、まず、昨日の戦闘部隊の不手際により、非戦闘員を危険にさらしてしまった事をお詫び致し……」

「ゼロ司令?」

「はっ……」


 エイラは彼の言葉を最後まで聞く事無く、途中で遮った。彼女の表情は少し困惑している様に見える。


「謝罪に来たのですか? 報告に来たのですか?」

「それは……、もちろん報告に……」

「でしたら、謝罪の言葉は不要です。……報告をお願いします」

「はっ……、失礼しました」


 彼は軽く一礼して、改まって話を始めた。


「では……昨日の報告を致します。まず、集落に敵の侵入を許してしまった経緯から説明致します。

 ここ数日、集落周辺の魔力バランスに乱れがあり、周辺の偵察を強化しておりました。特に広域偵察は部隊数を増やし、空戦隊が主体となって広域偵察を行っておりました」

「それで……、周辺に異常はありましたか? その報告が無かったという事は、異常は無かったものと認識していますが……」

「はっ、おっしゃる通りです」


 彼の話が一区切りした時、右隣に座っていたグレーの翼竜が立ち上がった。


「ここからは私から説明します、エイラ様」


 女性ながら低い声を響かせた彼女は、先程まで説明をしていた飛竜に割って入る様に話し始め、それを見た飛竜は一旦腰を下ろした。


「私達空戦隊は、ほぼ全ての部隊が広域偵察に出払っています。異常が感じられた日から、今日に至るまで。その為、偵察の目をかい潜り空から接近されると、防空戦闘が出来ません」

「なるほど……。偵察時に戦闘は発生しましたか?」

「はい。小規模の戦闘であれば報告は不要でしたので、この数日に発生した戦闘は報告していません」

「念の為、教えてもらえますか?」

「はい。この数日で、広域偵察の部隊が闇の魔物と戦闘をしたのは三件。どれもが空の敵で、時間帯は夕方です」

「では……昨日と同じ時間帯に発生していたという事ですね」

「そうです」


 エイラは一旦、会話に間を挟んだ。発言を終えた翼竜もそれを察して着席する。

 エイラは少し考えた後、再び彼に言葉を掛けた。


「ゼロ司令?」

「はっ」


 声を掛けられた彼は、再び立ち上がった。


「この戦闘の数、私は異常だとは思いません。……ゼロ司令は、どう思いますか?」

「はっ、私も同感です。時間帯が夕方である事は普段と違いますが、それは魔力バランスの乱れによる誤差であると考えます。広域での戦闘という事を考えれば、三件というのも通常より少し多い程度で、あまり憂慮する事態ではないと考えています」

「つまり……、特に異常は無い……という事ですね?」

「はっ、おっしゃる通りです」

「……ありがとうございます、ゼロ司令」


 彼は軽く一礼すると、再び着席した。

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