表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/93

『コドモ達と書庫』 その4

「さて……、今日はここまでにしておきましょう。続きは、またの機会に……」

「はい、ありがとうございました」


 ショーナは頭を下げると、立ち上がって階段に向かう。


「ショーナ様」

「はい……?」

「砦までお送りしましょう」

「あ……はい、ありがとうございます」


 フォーロは片付けを後回しにし、ショーナに続いて階段を上がると、地下室の明かりを消して扉を閉める。彼らが建物の外に出ると、空は既に夕焼けに染まっていた。


「少し遅くなってしまいましたな……。エイラ様も心配されている事でしょう。……さ、急ぎましょう」

「はい」


 二頭は早足で砦へと急いだ。




「あら、書庫長。わざわざ送って頂いたんですか?」


 彼らが砦に到着すると、その入り口でエイラが待ち受けていた。


「そろそろ戻ってくる頃合じゃないかと思っていたんですよ」


 彼女は満面の笑みで二頭を出迎える。


「ご心配をお掛けしました、エイラ様。……戻るのが遅くなってしまいましたな」

「いえ。……書庫長もコドモ達の面倒を見て頂いて、ありがとうございました」


 エイラはそう言うと、フォーロに向かって軽く会釈した。


「それにしても、エイラ様も教育熱心ですな。この歳にしてショーナ様は文字も読めますし、物が燃える仕組みまで理解されているとは……。わたくしも感心している次第です」

(げっ!!)


 フォーロが何気なく口にした言葉に、ショーナは一瞬目を見開いて驚いたが、悟られまいとすぐに表情を戻した。エイラに教えてもらったと、書庫でその場しのぎで言った言葉だったが、まさかフォーロがエイラに言うとは少しも思っていなかったショーナ。

 何を言われるか心配しつつ、彼はフォーロを目で見ていた。


「そうなんですよ、この子は勉強熱心なので……。ついつい私も、聞かれた事を教えてしまうんです」

「なるほど、そうでしたか……」

(あ……あれ……?)


 満面の笑みで答えたエイラだったが、その答えに先程以上に驚いたショーナは、エイラに視線を移した。もちろん、先の話しを彼がエイラに聞いた事は無い。


(どうして……?)


 ショーナが内心で困惑していると、フォーロは二頭に挨拶をした。


「それでは、わたくしはお暇します。……ショーナ様、またいつでもお越し下さい。お待ちしております」

「えっ……! あ……はい」


 エイラの反応について考え込んでいたショーナは、フォーロからの言葉にはっとしながら返事をした。

 一通り挨拶をしたフォーロは軽く頭を下げると、書庫へと帰っていく。それを見送るショーナとエイラ。


「……さて、私達も戻って休みましょうか」


 エイラは笑顔でそう言うと、砦の中へと入っていく。彼女の後にショーナも続いた。




 部屋に戻ると、ショーナは思い切ってエイラに問い掛ける事にした。


「母さん、さっきの話なんだけど……」

「はい?」

「いや……その……、オレが勉強熱心とかどうとか……」


 自身では思い切ったつもりだったが、どうしてもはっきり口に出来ず、少し曖昧な聞き方になってしまったショーナ。エイラはその問いに笑顔で答える。


「フフ……。私、ウソは言ってませんよ?」

「え……?」

「だって、ショーナは勉強熱心じゃないですか」

「…………」


 どこか腑に落ちない答えだったが、自身もはっきり聞く事が出来なかったショーナは、それ以上、その話題で言葉を重ねる事は止めた。


「ところで、書庫はどうでしたか?」

「まさか……地下にあるとは……」

「ショーナが知りたいと思っていた事、見付かりましたか?」

「……少し……」

「……ショーナがまた行きたいと思った時に、いつでも書庫に行きましょうね」

「……はい」


 優しく話すエイラは、書庫でフォーロが話していた事と同じ事を口にした。それを聞いたショーナは、ドラゴンの時間感覚は共通してゆったりとした考えがあるのだと、改めて認識していた。


(いつでも……か……)


 毎日、フィーと特訓を繰り返してきた何気ない毎日。そこにジコウが保護され集落にやって来て、この砦に住まう事となり、今この時も隣の部屋にいる。この二日間の様に、時々何気ない毎日が変わる事はあったものの、彼がドラゴンとして生活してきた二年の歳月は、そのほとんどがゆったりした時間の流れだった。

 そんな事を考えていたショーナは、ジコウの事を思い出して「ある事」を思い出した。


「あ……そうだ、母さん」

「何ですか?」

「その……オレもそろそろ自分の部屋が欲しいなって……」


 同い年のジコウが砦にやって来て、彼には自分の部屋があった。そして、ジコウが来ても尚、砦の空室は多かった。そういった事を見てきたショーナは自分にも部屋が欲しいと思い、それを打ち明ける様にエイラにお願いしたのだった。


「あら!」


 エイラは目を丸くして驚いたかと思うと、満面の笑みでショーナに歩み寄り、


「あらあら、もう思春期ですか?」


 そう言って、顔を擦り合わせた。


「えっ……!? いや……そういう訳じゃ……」


 どこかいつも以上に力を込めて顔を擦り付けるエイラに、少し戸惑ってしまったショーナ。


「寂しくなりますねぇ……」


 そう満面の笑みで言いながら、相変わらず力強く顔を擦り付けている。


「ちょっ……ちょっと、母さん……! 別に砦から出るって言ってる訳じゃ……」


 エイラにぐいぐい押されて、少しよろけながら話したショーナだったが、


(……子離れ出来ないドラゴンもいるんだなぁ……)


 そう思いながら少し苦笑いをし、ついには根負けすると、


「わ……分かったよ、母さん……。もう少し一緒の部屋にいるから……」


 自然と、そう口にしていた。


「あら! 本当ですか!?」


 ショーナの言葉を聞いたエイラは、顔を上げて目を輝かせ、嬉しそうな顔をして話すと、


「母さん、嬉しいですよ」


 満面の笑みでそう言いながら、再び力強くショーナに顔を擦り付ける。


(これは当分……自分の部屋は無いな……)


 そんな事を思いながら苦笑いしつつエイラを受け入れ、長い一日が終わりを迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ