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『コドモ達と書庫』 その2

「さて……。それでは、どの様な書物がご所望ですかな? ショーナ様」


 一通り書庫の説明が終わった事で、フォーロは本題に移った。


(そうだなぁ……知らない事は多いけど……)


 ショーナは難しい顔をして、少しうつむいて考えた後、この世界で初めてとなる書物をフォーロに頼んだ。


「じゃあ……歴史の書物はありますか?」

「もちろんです、しばしお待ちを……」


 ショーナの希望を聞いたフォーロは、真っ直ぐにその書物を取りに向かった。


(この世界の歴史が分かれば……、独立派とか友好派とか、何か分かるかもしれない……!)


 真剣な表情をしながら、そんな事を考えていたショーナ。すると、フォーロが書物を手に戻ってきた。


「こちらの本は、いかがですかな?」


 そう言ってテーブルに本を置いたが、


「……ふむ。まだあなた方には、テーブルは少し高いですかな?」


 そう言うと、丸イスをテーブルの下から引っ張り出し、その上に本を置いた。


(これが……この世界の本……!)


 丸イスの上に置かれた本を見て、ショーナは目を輝かせる。彼の横からフィーも覗き込んだ。

 その本は、彼が知っている本とは少し作りが違っていた。表紙は薄い木の板で出来ており、その間に紙の束が挟まれ、それらは二つの穴にヒモを通してとじられていた。背表紙は無く、糊付けもされていない簡素な作りだった。



 ショーナはその本の表紙を慎重にめくると、扉には彼の知らない文字で文章が書かれている。しかし、何故だか彼にはその文字を読む事が出来、そしてその内容に驚いた。


――世界が闇に覆われた時、白い竜が現れ、世界に光をもたらすであろう。――


(なっ……!? 何だこれは……!?)


 ショーナがその内容に驚いていると、横からフィーが声を掛けた。


「……聖竜サマ、これ読めるの?」

「えっ……? あ……あぁ、読めるよ」

「どこで文字を教えてもらったの? ……それも聖竜サマのお母さん?」

「……そうだね。フィーは読めないの?」

「……少しだけなら」


 このやり取りを側で見ていたフォーロは、ショーナに向かって口を開いた。


「ふむ……。読んで差し上げようと思いましたが、それなら余計な心配でしたな。ショーナ様も随分と学ばれていた様ですし、文字が読めるなら、ここにある書物は全て大丈夫でしょうな」


 フォーロの言葉を聞いたショーナは、再び苦笑いをして誤魔化した。


(そうか……、普通は読めないのか……。じゃあ、どうしてオレは文字が読めるんだ……? それに、ここに書かれている事も引っ掛かる……)


 ショーナは再び本に目を移して、難しい顔をして考えた。


(もしかして……、皆がオレの事を『聖竜』と呼ぶのは……これのせいなのか……?)


 考えても結論が出ないと思ったショーナは、一旦それについて考える事を止め、本のページをめくった。次のページには目次が書かれており、それに目を通したショーナ。


(ドラゴンの繁栄……厄災……友好派の成り立ち……独立派の成り立ち……。何だこれ……? 宗教の本なのか……?)


 ショーナは難しい顔をして本を閉じ、表紙を見てみると、そこには確かに歴史の文字が書かれていた。


(……この世界の歴史って何なんだ……?)


 本を閉じて考え込んでいるショーナを見たフォーロは、彼に声を掛けた。


「おや、お気に召しませんでしたかな?」

「あ、いえ……。他に歴史の書物はありますか?」


 ショーナがそう尋ねた時だった。


「……俺は先に帰らせてもらう」


 書庫に来てから沈黙を貫いてきたジコウは、階段に近い場所からしばらくショーナ達を見ていたが、久々に口を開いたかと思うと、階段に手をかけた。


「……付き合い悪いわね」


 そんな彼を尻目に、フィーは鼻で小さくため息を吐くと、ジコウには聞こえない程度の小声でぼやく。それを聞いたショーナは苦笑いをし、フォーロは話を戻す。


「ふむ……。では、ショーナ様が知りたい事を伺った方が良さそうですな」

「え~っと……そうですね……。友好派と独立派って、何ですか……?」

「なるほど、そういう事でしたか。それなら、わたくしから説明しましょう」


 フォーロは別の丸イスを引っ張り出すと、ショーナ達の前に置いて腰掛けた。


「友好派と独立派と言うのは、わたくし達ドラゴンの集落の事です。独立派はここ、友好派は遠く離れた場所にあります。そして、友好派は人間という生物と友好関係を築き、様々な交流を行っているのですよ」


 その言葉にショーナは目を見開いて驚き、フィーは首をかしげ、ゆっくり階段を上っていたジコウはぴたりと足を止めて、フォーロに目を向けた。


(こ……この世界にも人間がいるのか……!)


 驚きを隠せなかったショーナだったが、今度は余計な事を口走らない様にと、必死に声を抑えていた。


「『ニンゲン』って……なに……?」


 そんなショーナの隣で、フォーロに問い掛けたのはフィーだった。


「人間というのは、わたくし達と同じ様に知性を持った生物です。哺乳類で二足歩行。ウロコや翼、ツノは無く、体の表面は皮膚で覆われており、体毛があるのが特徴ですな」


 それを聞いたフィーは難しい顔をして、更に首をかしげた。


「『ホニュウルイ』って……なに……?」

「哺乳類は……そうですな……。ネズミやオオカミは、見た事がありますかな?」

「ネズミなら、まぁ……」

「あれらも哺乳類の仲間です」

「ふうん……」


 見た事が無い物の想像は難しいのか、フィーは難しい顔をして空返事をする。フィーの質問が落ち着いたのを見計らって、今度はショーナが口を開いた。


「それで……その……、人間はどこに……?」

「人間は友好派の集落の、更にその先に集落を作っています。……友好派の集落まで、陸路であれば半日は掛かります。人間の集落は、ここからだと……丸一日といった距離ですかな」

「書庫長は……人間を見た事はあるんですか?」

「わたくしは若い頃、友好派で暮らしておりましたから、その時に何度も目にしていましたな」

「そう……ですか……」


 ここまでの話を階段で聞いていたジコウは、特に口を開く事も無く再び階段を上り、書庫を後にした。

 フォーロの説明で、新たに気になった事が浮かんだショーナ。それを聞くのは気が引けたが、意を決して話し出した。


「でも……、どうしてドラゴンは友好派と独立派に分かれているんですか? 友好派が人間と友好関係を築いたのは分かったんですけど、独立派は人間が嫌い……という事なんですか……?」


 フォーロがこの問いに答える前に、フィーが横から口を挟んだ。


「ニンゲンって生き物が、恐ろしい生き物だからじゃないの?」

「そ……それは……、さすがにそれは言いすぎじゃないかな……?」

「どうして? 聖竜サマだってニンゲンは見た事無いでしょ? 凶暴な生き物かもしれないじゃない?」

「でも……友好派のドラゴンは、友好関係を築いたって……」

「じゃあ、そのドラゴンも凶暴かもしれないじゃない?」

「うぅ……」


 フィーの鋭い指摘に、ショーナは言葉に詰まってしまった。

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