『彼の戦い』 その4
二頭が一本道の入り口までたどり着くと、そこにはエイラが待ち受けていた。彼女は少し険しい表情でショーナに声を掛ける。
「ショーナ……!」
「母さん……!」
ショーナとフィーはエイラの下へと歩み寄る。周りでは続々と、陸戦隊のドラゴン達が慌ただしく一本道へと駆けていっている。彼らは皆、拘束用の縄を束ねて輪にし、肩や首に掛けていた。
「母さん、どうして……」
「……少し心配になって」
「母さん……」
エイラと同じ様に、少し険しい表情で呟いたショーナ。エイラは真剣な顔付きをして続ける。
「ショーナ? ……今朝、お話しした事……覚えていますか?」
「……もちろんだよ、母さん」
「……必ず、『三頭で』帰るんですよ? ……いいですね?」
「……はい」
エイラは今朝と同じ様な真剣な顔付きで、今朝の内容をショーナに念押ししていた。そんな彼女にショーナも真剣な顔付きで一言返事をし、うなずく。
ショーナ達がそんなやり取りをしていると、その場にジャックと護衛の小隊が追い付いてきた。彼らはエイラの前で整列するや否や、少し険しい表情をしたジャックがエイラに声を掛けた。
「長、こちらにいらっしゃるとは……」
「ジャック隊長。……事の次第は把握しています。……迎え撃つのですね?」
「……そういう事になります」
相変わらず真剣な顔付きで問うエイラに、ジャックも険しい表情で答え、続ける。
「長、ショーナとフィーも行くというのは……。本当に良かったのですか?」
「構いません。……この子達が『行く』と言うのであれば、この子達の意思を尊重します。ですから……行く権利はあってしかるべきだと、私は考えています。
何より……ジコウはこの子達の幼馴染みです。それなら……尚更でしょう?」
「それは……そうですが……」
進まぬ顔をして言葉に詰まりながら返すジャックに、エイラは気持ちを察しつつ声を掛ける。
「ジャック隊長の心配事は分かります。ですが……、隊長も戦闘部隊も付いているではありませんか。この子達だって、今日まで訓練を受けてきています。
それに……、この子達が相手にするのはジコウだけでしょう?」
「そうなる様に我々も尽力しますが、戦場は生き物です。……どうなるかは……」
「心配しすぎですよ、ジャック隊長。……私も心配はしていますが、心配ばかりしていても事は動きませんし、好転もしません。私は……ショーナとフィーに、ジコウの事を託そうと思っています。
ですから……。この子達を頼みましたよ? ジャック隊長」
「……承知しました」
ここまで顔色一つ変えず、真剣な表情のまま話したエイラに、ジャックは一言返事をして軽く頭を下げた。同じくして、護衛の者達も同様に頭を下げる。
彼らは直ると、ジャックは改めて口を開いた。
「では、我々は出発します」
「えぇ。……どうか気を付けて。どちらにも、誰にも負傷者が出ない事を祈っています」
エイラの言葉を聞いたジャックと護衛は、一礼して一本道へと駆け出す。エイラは彼らを見送ってすぐに、ショーナとフィーに声を掛ける。
「ショーナとフィーも、どうか気を付けて。必ず……無事に戻るんですよ」
「……はい」
相変わらず真剣な表情で言うエイラに、ショーナとフィーも真剣な表情で、そろって一言返事をした。そして……
「じゃあ……オレ達も行くよ」
「えぇ。……ジコウを頼みましたよ、ショーナ」
「……分かったよ、母さん。……行ってきます」
少しだけ言葉を交わし、ショーナの最後の言葉には静かにうなずいたエイラ。彼女がうなずいたのを見届けると、ショーナとフィーは同時に一本道へと駆け出す。エイラは彼らが小さくなるまで、険しい表情のまま見送り続けた。
ショーナとフィーは間も無く、先行していたジャック達に追い付く。一方のジャックは、一本道の中間辺りで足を止めてしまった。ジャックに続く形で護衛の小隊も止まり、その後方で追い掛けていたショーナとフィーも続けて足を止めた。
後方にいたショーナとフィーには、ジャック達が停止した理由が分からなかったが、すぐにその理由が判明する事となる。彼らの前方から、荷車を引いた支援部隊の三頭が走ってきたのだ。その上空低高度には、護衛の翼竜二頭が直掩で飛んでいた。
「無事に戻ったか!」
ジャックは向かって来る彼らに大声で言葉を掛け、
「は……はい……!」
支援部隊で先頭を走っていたドラゴンが、息を切らしながらその声に答えた。そうして支援部隊の三頭はジャックの前で停止し、直掩を行っていた翼竜二頭も着陸してジャックの下に舞い降りた。
「……ん? ミレット副長はどうした?」
本来なら、直掩を行う空戦隊の小隊長として、この場にはミレットがいたハズだった。しかし、その姿が見えない事を不思議に思ったジャックは、それを彼らに質問していたのだ。
ジャックの質問に答えたのは翼竜の一頭だった。
「ミレット副長は……荒野の入り口でとどまって、向かって来る一団を最後まで監視しています……!
こちらの部隊展開が間に合わなかった時は、『しんがり』もすると……!」
「…………」
翼竜の報告を聞いたジャックは、少し険しい表情をして腕組みをすると、鼻で小さくため息を吐いた。
(全く……。もう部隊も展開し始めている頃なのに、無茶をする……)
そう思いながらも、彼は戻ってきた一同に続ける。
「分かった。向かって来る連中は、お前達がすれ違った部隊と我々で何とかする。お前達はこのまま集落まで戻るんだ。
護衛をした小隊は、そのまま集落で待機。……副長には俺から話をしておく。……さあ、行け!」
「は……はい……!」
帰還を促すジャックに、その一同はそろって一言返事をすると、支援部隊の三頭は走り始め、翼竜二頭は空へと上がり、集落に向かって戻り行く。
そんな彼らを横目で見つつ、ジャックはぽつりと言う。
「……俺達も行くぞ」
そう言って、彼は再び走り出した。その場にいた護衛も、ショーナもフィーも、ジャックに返事をする事無く、黙って彼の後に続く。彼らはしばらく一本道を走り、そして一気に視界が開ける。林の一本道を抜け、荒野の入り口に到着したのだ。
空は朝よりも黒い雲が多くなり、昼間だというのに薄暗い。その空の下、戦闘部隊は既に横一線の陣形を取って待機しており、両端には空戦隊の一個小隊がホバリングして待機していた。
横一線の陣形の中央には隙間が出来ており、ジャックはそこに歩みを進め、近くにあった大きな岩に飛び乗って陣取る。彼の護衛を務める小隊は、その岩の前で三角形に編隊を組み待機した。ショーナとフィーはジャックの右側に移動し、岩の下で待機している。
そうして迎え撃つ準備が整った中、ジャックは前方上空でホバリングしているミレットに声を張った。
「副長ー!!」
その声にミレットはホバリングしたまま振り向くと、ジャックを視認してから彼の左側へと降下、岩の高さでホバリングをした。
ジャックは腕組みをしながら、真剣な顔付きでミレットに問う。
「副長、報告を」
「……はい。ジコウさんとその一団は、オアシスで小休憩をした後、変わらずこちらへと向かって来ています。
既に地上からでも小さく確認出来る距離にまで接近してきています。このまま接近されると、昼下がりには……ここで向かい合う事になります」
ジャックと同じ様に、真剣な顔付きで答えたミレット。その報を聞き、ジャックは続きを口にする。
「……分かった。副長、後は我々で対応する。ここまでの護衛、偵察、監視……、ご苦労だった。
副長には、集落に戻って空戦隊の指揮を執ってもらいたい。今、ジョイは友好派に、この事態を報告に向かっている。だが……あいつのスピードをもってしても、恐らく連中との接触前に戻ってくる事は無理だろう。
集落にはゼロもとどまっているが、万が一の時、ゼロには陸戦隊の指揮を頼んである。だから……分かるな?」
「……もちろんです。その為の『副長』ですからね」
「……そうだ。……頼んだぞ」
「はい! お任せを!」
ミレットの最後の言葉は、真剣な顔付きにどこか微笑みが混じっている様だった。彼はそう返事をすると身を翻し、力強く羽ばたいて、徐々に高度を上げながら集落へと戻っていった。
ジャックは戻り行くミレットを少し目で追った後、すぐに正面を見据える。彼の目には先程ミレットが報告した様に、向かって来る一団が既に小さく映り込んでいた。彼は腕組みをしたまま険しい顔付きをし、ふと思う。
(……ジコウ以外は、おとなしく引いてくれればいいんだが……。まぁ、そう簡単にはいかんだろうな……)




