『彼の戦い』 その3
ジャックは腕組みをしたまま続ける。
「本題に入る前に伝えておきたい事がある。……先日のジコウの捜索、ご苦労だった。スケジュールやローテーションに関係無く、皆には動いてもらった。……感謝する」
そう言うとジャックは、腕組みを解いて姿勢を正し、整列している彼らに一礼した。そして再び腕を組み直すと、真剣な顔付きで話を続ける。
「……では本題だ。そのジコウだが、今日……見付かった。輸送部隊が遭遇し、俺の所に情報を持ってきた。
……だが問題はここからだ。ジコウは『お友達』を引き連れ、この集落に向かって来ているという。同胞と人間、合わせて一個大隊程という事だ。……そして『大弓』のオマケ付きというな」
ジャックが口にした「大弓」という言葉に、整列した面々は少しざわついたが、すぐに静かになってジャックの次の言葉を待った。
当のジャックも、ざわついた彼らを一喝する事無く静観し、静かになったのを見計らって続きを口にした。
「皆の耳にも、友好派の行方不明者の話は届いている事だろう。悪い事に……、人間にも行方不明者が出たと、今朝、俺達は支援部隊の輸送班から報告を受けている。
恐らくジコウの『お友達』は、この行方不明者達で間違い無いと思われる。そして……その規模の一団でこの集落に向かって来ているという事は、あいつは……俺達と一戦交えるつもりだと、俺とゼロは考えている」
今の話を聞き、整列している面々は皆、少し険しい表情をした。ジャックは更に続ける。
「今ジョイは、友好派にこの事態を伝えに向かっている。友好派にこの事態が伝われば、向こうからも『しかるべき者』が来て、この事態を収拾する事だろう。だが……それには時間が掛かる」
ここでジャックは少し語気を強め、整列している面々に声を張った。
「そこでだ! 皆にはジコウとその『お友達』を迎え撃ってほしいと思う! だが……皆も知っての通り、我々は同胞や人間を傷付ける事は出来ん! その為に訓練を重ねている訳ではない!
万が一戦闘になったとしても、我々は彼らを傷付ける事無く、その場を鎮圧する事になる! 相手の『血の一滴』さえ、流す事は許されん!
……だが! ここで訓練を重ねている皆であれば、そんな事は容易いハズだ! ……そうだろう!?」
「オオォォーーーーッ!!」
ジャックの問いに、整列している者は皆、一斉に喊声を上げて答えた。そんな一同を、ショーナとフィーは少し驚きながら隅で見ている。
ジャックは一呼吸置き、彼らの喊声が治まるのを待ってから続きを口にした。
「相手は『直掩付きの一個大隊と大弓一台』だ! そしてその先頭にはジコウがいる! 皆にはジコウ以外の同胞と人間の相手をしてもらいたい!
それと……もう一つ、皆には条件を付ける! ジコウは『ショーナ隊』が相手をする! だが、あいつらは戦闘部隊ではなく、実戦経験も無い! 決してあいつらに連中を近付けるな! いいな!?」
それを聞いた一同は少しざわつく。
「『ショーナ隊』……? まさか、聖竜様が出るのか……!?」
「聖竜様が……!?」
「まさか、あそこで待機されているのは……そういう事だったのか……!?」
皆、顔を合わせながら少し驚き、それぞれ声を交わしている。
「静かにしろ!! ショーナとフィーがジコウの相手をするだけだ! お前達が動じてどうする!!
お前達は戦闘部隊として! 先輩として! あいつらのエスコートをするんだ!! ……あいつらがジコウの所へ行く道を作る! それだけの事だ!」
ジャックの一喝に、一同は直って彼を注視した。ジャックは構わずに続ける。
「つまりだ! 今回の騒動で、お前達はショーナの前で動く事になる! あいつの前で、いい所を見せる絶好のチャンスという訳だ!
まだ戦いになると決まった訳ではない! だが……その可能性は非常に高い! そうなった時! お前達の行動いかんによって、ショーナがどう動けるかが変わってくる! お前達がショーナを『聖竜』と敬うのなら! 見せてみろ!! お前達の気魄を!! 覚悟を!!
この地に平和をもたらすという決意を!! 示してみせろ!!」
「オオォォーーーーッ!!」
整列している一同は、再び喊声を上げる。それを見ながら、ショーナは苦笑いをしつつ右手の指で顔を掻いている。
(ジャック隊長も上手い事言っちゃってさぁ……。こういう時、『聖竜様』っていう立場を利用されるのは、何かちょっと腑に落ちない所はあるけど……。まぁ、ジコウに直接関係する事だし、仕方無いとは思うけどさ……。
それにしても、『この地に平和を……』ってのは、ちょっと大げさなんじゃ……)
彼はそんな事を思いながら、まだ顔を掻きつつ鼻で小さくため息を吐く。ショーナがそんな事を思っているとはつゆ知らず、ジャックは相変わらず腕組みをし、一同に向かって話を続ける。
「よし! では今後の対応を伝える! 心して聞け!
連中は直掩付きの一個大隊だ。そこで、我々も一個大隊相当で当たる! 荒野の入り口で連中を迎え撃ち、説得が無理な様であれば……連中を制圧する! 林に入られると対応が面倒になる! 必ずそこで制圧するからな!
……では臨時編制だ! 第一から第九小隊で、三個中隊を臨時編制しろ! 第十小隊はバックアップとして、俺の護衛も兼ねて付いて来てもらう! 残りの部隊は集落にとどまり、万が一に備えておけ! その時はゼロの指示に従って行動しろ! いいな!!」
「オォッ!!」
ジャックの言葉に、一同は短く喊声を上げて答える。
「荒野の入り口に着いたら、三個中隊は横一線に陣形を取れ! その両端に一個小隊ずつ、空戦隊に直掩として付いてもらう! 俺は後ろから指揮を執るからな!
……では、各自の健闘に期待する!! 皆、拘束用の縄を忘れるな!! 準備が整った部隊から荒野の入り口へ向かうんだ!! 掛かれっ!!」
「オオォォーーーーッ!!」
ジャックが最後に発した号令に、整列した一同は再度喊声を上げると、一斉に行動を開始した。それを見たショーナとフィーは立ち上がり、ジャックの下へと歩み寄る。
彼らに気付いたジャックは、腕組みをしてその場にとどまっていた。歩み寄った二頭で口を開いたのはショーナだった。
「ジャック隊長……」
「あぁ。……少し驚いたか? 初めて見ただろう? 戦闘部隊の出陣は」
「……そうですね」
「いつもこんな感じだ。……一応、あいつらを鼓舞してやらんとな。隊長として」
真剣な表情をしつつも、僅かに微笑んで言うジャック。彼はショーナに続ける。
「それで、ああ言った手前、もう引く事は出来んが……。今ならまだ、『とどまる』という選択も出来る。……いや、今しか出来ない。……向こうに行ったら、それこそ後戻りは出来ない。
お前達にも最終確認になる。……本当に大丈夫か?」
「……はい!」
ジャックの問いに、ショーナとフィーは真剣な顔付きで、力を込めて一言返事をした。
「……分かった。では、お前達は……荒野までは俺の後ろに続け。そこからは向こうに行ってみないと分からん。ジコウの本当の狙いは何なのか、どう動くのか……。
とにかく……気を付けろ。ジコウを連れ帰るのが無理だったとしても、お前達は……お前達だけは、無事に戻ってくるんだ。……いいな?」
「……はい」
真剣に説くジャックに、ショーナとフィーも先程以上に真剣な顔付きをし、今度はどこか静かに一言うなずきながら返事をする。
それを見たジャックも静かにうなずき返すと、話を続けた。
「……よし。ではショーナ隊、一本道の前で待機しろ。俺は拘束用の縄を準備してくる。護衛の小隊と一緒に一本道の前に行くから、そこで合流して俺達に続け。
お前達も何か準備があれば、今の内に準備しておくんだ。……では、また会おう」
そう言うと、ジャックはその場を離れて準備に向かった。周りでは他の部隊が慌ただしく準備をし、時々大声が飛び交い、普段とは違った光景となっていた。そして準備が出来た部隊から、次々と荒野に向かって走り行く。
それを見ながら、ショーナはフィーに問う。
「フィー。……本当に良かったの?」
「……何が?」
「『一緒に行く』って……」
「……もう独りは嫌なの」
「……それは分かってるけど、今回は戦闘になるかもしれないし、そうなったら危険だし……」
「……守ってくれるんでしょ? 私の事」
「……!」
フィーの言葉にショーナははっとし、彼女に顔を向ける。当のフィーは微笑んで彼の事を見つめていた。彼女はショーナが自身に顔を向けたのを見ると、表情を曇らせながら言う。
「正直……ちょっとは怖い。……でも……聖竜サマと一緒なら、きっと……大丈夫だと思う……」
「フィー……」
「逃げるのは簡単だと思うの。……でも、そうやって問題から距離を置いて、独りぼっちで待つのは……もう嫌なの。私の知らない所で、私の大切なドラゴン達が……。そういうのは、もう……嫌なの……。
だから一緒に行く。……行かせて。……私だって、彼に『お返し』はしたいし」
「……分かった。……行こう!」
最後は真剣な表情で訴えたフィーに、ショーナも真剣な表情で一言返すと、彼らは一本道の入り口へと駆けていった。




