『彼の戦い』 その2
「よし! 陸戦隊! 全隊集まれ!!」
訓練場に響き渡るジャックの声。彼はゼロを見送ると、険しい表情をして声を張り上げていた。彼の声を聞き、訓練中の者はその手を止め、急いで彼の前に整列を始める。待機していた部隊も、同じ様に整列しだしていた。
その最中、ショーナはジャックに声を掛ける。
「ジャック隊長」
「……何だ? ショーナ」
「オレも行きます! ……オレがあいつを……止めます!」
真剣な顔付きで言うショーナに、フィーも同じ様に続いた。
「私も……! 私も聖竜サマと一緒に行きます!」
腕組みをして険しい表情を二頭に向けたジャック。彼は表情そのままに鼻で小さくため息を吐くと、彼らに言葉を返した。
「……まぁ、お前達の事だ。そう言うと思っていたし、止めても無駄だろう。それに……ショーナは長直々のご指名だからな。俺達が……ジコウに関する事で、お前を止める事は出来ない。
そして……お前が『ショーナ隊』の隊長だから、フィーをどうするかは……まずはお前に決定権がある。フィーを連れて行くのかどうか、それを決めるのはお前だ、ショーナ」
真剣な表情で聞いていたショーナは、隣にいたフィーに目を向ける。彼女もまたショーナに真剣な目を向けており、それを見たショーナは、言葉は交わさずとも彼女の気持ちを察し、改めてジャックに目を向け、そして……
「……フィーも一緒に行きます。フィーは……『ショーナ隊』の隊員です。置いていく事は出来ません」
目と声に力を込め、ジャックに訴えた。それを聞いたジャックは微笑んで答える。
「フッ……だろうな。そう言うと思っていた。……お前が『置いていく事は出来ない』と言うのなら、それを俺達が止める事は出来ん。……さっき言った通り、ジコウに関するお前の行動は、長直々のご指名だからな。お前が言うのなら、フィーも一緒に行けばいい」
「……ありがとうございます!」
ジャックの言葉に、ショーナとフィーは同時に一言お礼を言っていた。ジャックは小さくうなずくと、更に言葉を続ける。
「ショーナ。ジコウの狙いは分からんが、あいつは恐らく……俺達と一戦交えるつもりだろう。
さっきゼロが言った通り、あいつはここ最近の行方不明者の件に絡んでいると思われる。その行方不明者全員が、恐らくあいつの『部隊』という事だ」
「友好派の若者達と……人間……。そして……『大弓』……ですか」
「そうだ。……この後、俺は陸戦隊のヤツらにも言うが、お前達には先に言っておく。ゼロも言っていたが、同胞と人間にケガをさせる事は許されない。そして……お前達はまだ、実戦を経験した事が無い。
そこでだ。お前達には……ジコウだけを相手にしてもらいたい」
「ジコウを……?」
「あぁ。……他の相手は戦闘部隊で何とかする。お前達は『大弓』に警戒しつつ、ジコウだけを相手にしろ。そして……あいつを止めろ」
最後は目に力を込め、真剣な表情で言ったジャック。そんな彼にショーナは問う。
「『止める』って言うのは……」
「……そのままの意味だ。あいつを止めろ、手段は問わん。……あいつの処遇も、一旦お前に預ける」
ジャックの言葉に、ショーナは真剣な顔付きで目を見開き、再度問う。
「……! そ……それはつまり……」
「……俺の言いたい事は、もう……分かっているだろう? ショーナ。……俺もあまり言いたくは無い。だが……曖昧な表現では語弊が生まれる。だから……念の為、言っておく。
……万が一、説得や拘束が難しい様であれば……最悪、殺しても構わん」
「……!!」
ショーナとフィーはその言葉を聞き、驚いて言葉を失ってしまった。それでもショーナは、ジャックが言った事をどこかで覚悟していた部分もあり、驚きながらも彼に問い返した。
「同胞や人間はケガさせる事は許されないのに、ジコウは……殺しても構わない……と……?」
「ショーナ、勘違いをするな。……もちろん、ジコウも他の同胞と同じ様に、ケガをさせずに鎮圧出来るのであれば、それが最も好ましい。
……だが、あいつには今、長を襲撃したという嫌疑が掛けられている。そして……同胞と人間を扇動し、こうして独立派に向かって来ている。一戦交えるつもりかは最後まで分からんが、あいつのこれまでの言動から考えれば……俺達とやり合うつもりで、まず間違い無いだろう」
「……戦う……理由……ですか」
「そうだ。……あいつはそう言ってお前達を撃ち、姿をくらませた。お前達を撃ったヤツが、『お友達』を連れて戻ってきたら……。お前なら、どう思う?」
「それは……まぁ、あまりいい状況とは思いません」
「……そういう事だ。……まぁ、あいつの言う『戦う理由』は……聞いてみない事には分からんがな」
「…………」
ショーナは険しい顔をしてジャックから顔を逸らし、鼻で小さくため息を吐く。そんなショーナに構わず、ジャックは話を続ける。
「……だから、どうしてあいつが、こんな事をしたのか……。俺達は、それをあいつから聞かないといけない。
さっき言った『殺しても構わない』というのは、あくまでも最終手段だ。……お前達に難しい事を言っているのは重々承知している。だが……それでも、あいつを……連れ帰ってほしい。
お前達はこの集落で育った幼馴染みだ。だから……お前達なら、お前達にしか分からない事もあるだろう」
「…………」
「俺は今回、全体の指揮を執らないといけない。だから戦闘になった場合、俺は戦闘には参加出来ん。陸戦隊のヤツらには、他の相手を鎮圧次第、お前達の掩護に向かわせる。だから……」
「……いえ、あいつは……オレが止めます」
ジャックが言い切る前に、ショーナは真剣な顔を彼に向けて言葉を返した。すると、
「『オレ達』の間違いじゃないの? 聖竜サマ」
彼の横で、フィーは不敵な笑みを浮かべながら横目を向け、ショーナの言葉を訂正する。
「……あぁ、そうだね……」
ショーナはフィーの声を聞き、彼女に目を向けて微笑みながら相づちを打つと、今一度ジャックに向き直り、先程とは違う表情でジャックに訴えた。
「『オレ達』で、あいつを止めます!」
その表情は、真剣ではありながらも、僅かに微笑んでいる様だった。まるで彼の内側にある自信と覚悟が顔に出たかの様な表情に、ジャックも微笑んで返す。
「……分かった。だが決して無理はするな。ジコウを止める事ばかりに気を取られて、自らを危険な状況にさらし続けるのは控えるんだ。お前はバリアを使えるが、過信をすれば深刻な事態になりかねん。
万が一の時は支援要請をするか、一旦下がる事も忘れるなよ。俺も後方から確認して、万が一の時は部隊を送るが……。戦場は生きているからな、どうなるかは分からん。
とにかく……油断はするなよ。一瞬の油断が命取りになるのが戦場だ。……いいな?」
「……分かりました」
ショーナとフィーは真剣な表情で、同時にジャックに返事をした。するとそこに一頭のドラゴンが歩み寄り、ジャックに声を掛ける。
「ジャック隊長! 偵察で出払っている部隊を除き、集落に残っている陸戦隊全隊、整列しました!」
「分かった。……あぁ、そうだ。お前、報告に来た『ついで』だ。空戦隊で一番暇そうにしている部隊を二個小隊、ここに連れて来い」
「えっ……? 『暇』……ですか?」
「そうだ、暇な連中で構わん。……今すぐだ、行け!」
「あっ、は……はいっ!」
そのドラゴンはジャックの言葉にきょとんとしていたが、ジャックに急かされると、慌てて空戦隊が待機している場所へと走り出す。
それを目で見送ったジャックは、今一度ショーナとフィーに目を向けて声を掛ける。
「……俺はこれから、こいつらに話をしないといけない。お前達はしばらく……端で待機していろ。動き出すのはその後だ。……今の内に、少しでも休んでおけ」
「……はい」
ショーナはうなずいて返事をし、その隣ではフィーも静かにうなずき、二頭は陸戦隊が整列している場の隅まで移動し、そこでジャックの方を向き腰を下ろした。
しばらくして、先程走ったドラゴンが空戦隊を連れて戻ってきた。そのドラゴンは陸戦隊が整列している場所に急いで並び、同じくして空戦隊の二個小隊も、陸戦隊の横に並んでジャックの方を向いた。
彼らが整列したのを見たジャックは、腕組みをしてどっしりと構えると、真剣な表情をして声を張る。
「よし! そろったな! ……まずは突然の召集、すまなかった。緊急事態という訳では無いが、一応……緊急ではある。程度は軽いがな。
これから現在の状況と、今後の対応を皆に伝える。……心して聞いてほしい」
ジャックの言葉に、整列している者達は皆、真剣な顔付きをして彼に注目した。




