『彼の戦い』 その1
ショーナは全力疾走で荒野を駆け抜けたが、独立派に続く一本道に入った所で、彼は息切れして立ち止まってしまった。それを見て心配したフィーは、彼の下に降下して声を掛ける。
「だ……大丈夫!? 聖竜サマ……」
「フィー……。オレに構うな……、先に行け……!」
「な……何言ってるの!? 聖竜サマを置いて行けないでしょ!?」
「ここまで来れば……遭難しない……。だから……」
「ダメよ! 聖竜サマ、隊長でしょ!?」
息を切らしながら苦しそうにうつむて言うショーナだったが、フィーは彼の指示を拒んで聞かない。
(隊長か……、くそっ……。こんな事は言いたくないけど、状況が状況だ……仕方無い……!)
ショーナは意を決し、息が上がる中、一度唾を飲み込んでからフィーに目を向け、力を込めて言う。
「フィー……! 隊長命令だ……! 先に行ってジャック隊長に報告しろ……!」
「……っ!! せ……聖竜サマ……!?」
「頼む……フィー……。早く……!」
ショーナの「命令」に、フィーは目を見開いて驚いていたが、重ねて言うショーナの言葉に覚悟を決め、
「……分かった……!」
険しい表情で一言相づちを打って走り出す。そして走りながらショーナに目を向けると、大きな声で言う。
「向こうで待ってるから!」
そう言い終えた彼女は、前を向くと力強く大地を蹴って羽ばたき、飛び立った。その様子を目で追うショーナ。
(頼むぞフィー……。オレも……すぐに……)
そう思いながら、彼は力無くゆっくりと走り出す。もはや早足とどちらが速いかも分からない様な速度で、彼はよろよろと一本道を進んだ。
しばらくして、フィーは一足早く集落に到着し、訓練場へと着陸した。
「ジャック隊長!? ジャック隊長!!」
彼女は大声でジャックを呼び、きょろきょろと辺りを見回している。そんな彼女が目に留まったジャックは、動揺しているフィーに異変を感じ、彼女の下へと駆け寄って声を掛ける。
「どうした! フィー! ……お前は友好派に向かったんじゃなかったのか? それに……ショーナはどうした?」
「聖竜サマは……今、一本道で……」
動揺して言葉が思う様に出ないフィー。ジャックは真剣な表情をしつつも、まずは彼女を落ち着かせようと、優しく言葉を掛けて一つずつ質問する。
「フィー、とりあえず落ち着け。説明は順番でいい。……ショーナは今、一本道と言ったな。あいつは大丈夫なのか?」
「……はい」
「……よし。では……次は……確認だ。……フィー、お前は今日……ショーナと一緒に、輸送部隊に付いて友好派に向かったんだったな?」
「……はい」
「……それで、今こうして慌てて戻ってきた訳だが……。何があった……?」
丁寧に質問するジャックのおかげで少し落ち着いたフィーは、彼の最後の問いに、声を震わせながら必死の形相で訴えた。
「ジコウが……! ジコウが……ドラゴンと人間を連れて、こっちに向かって来て……! それと……『オオユミ』ってのも……」
「な……何だと……!?」
フィーの報告は断片的だったが、彼女の様子とその情報から、ジャックは危機感を抱き一声漏らしていた。彼はとっさに近くにいたドラゴンに顔を向け、大声で指示を飛ばす。
「おい! お前! ジョイとゼロを呼んで来い! 今すぐだ!! 行け!!」
「あっ……は、はい……!」
そのドラゴンは慌てて走り行く。ジャックは再びフィーに真剣な顔を向け、彼女に事の詳細を聞こうと口を開く。
「フィー。今の話、もう少し……」
ジャックがそう言い切る前だった。
「ジャ……ジャック隊長……!」
「……!! ショーナ!!」
「……聖竜サマ……!」
息を切らしながら、二頭の下にショーナがよろよろと到着し、険しい表情をしながら荒い呼吸でうつむいている。
「ショーナ! まずは無事で良かった……! さっきフィーから大体の報告は受けた。それで……今、手近なヤツにジョイとゼロを呼びに行かせている。
お前からも報告を聞きたいが、まずは息を整えるんだ。お前からの報告は、ジョイとゼロが来てから一緒に聞こうと思う。だから、今はとにかく息を整えろ」
「は……はい……」
ショーナの返事を聞いたジャックは、また別のドラゴンに顔を向けて指示を飛ばす。
「おい、お前! ショーナに水を持って来い! 急げ!」
「は……はい!」
指示を受けたドラゴンは、慌てて走り出した。
間も無くショーナに水が届けられ、彼はそれに口を付けて一息吐いていた。そこにジョイとゼロが慌てた様子で到着し、ゼロは真剣な表情をしてジャックに問う。
「ジャック、何事だ?」
「……少々まずい事になったかもしれん」
「どういう事だ?」
「ジコウが見付かったそうだが、何やら……『お友達』と一緒に、こちらに向かって来ているそうだ。……詳しくはショーナから聞こうと思う。
……ショーナ、話せるか?」
「……大丈夫です」
「よし。……では、今日の報告をしてくれ」
「……はい」
ショーナは険しい表情をして、横並びになったゼロらに話を始めた。
「今日、オレとフィーは輸送部隊と一緒に友好派に向かっていました。オアシスに近付いた辺りで、護衛をしていたミレット副長が、支援部隊とオレ達を止めに来ました。
その時、副長は……『オアシスの向こうに、ドラゴンと馬に乗った人間らしき影が多数見える』……と。それで隊員が偵察に向かい、報告に戻って来て……。
副長が見たのは間違いではなく、その通りだったそうです。ドラゴンと人間、合わせて……一個大隊程だと……。そして……その一団の先頭にはジコウがいて、その一団の人間は……『大弓』を一台、馬で引いて持ち出してきた……と」
ショーナの報告を聞いたゼロらは、一斉に顔をしかめる。ここで真っ先に口を開いたのはジョイだった。
「それで……。一緒に行ったあなた達だけが戻ってきた訳だけど、輸送部隊はどうしたの?」
「はい。ミレット副長から『先に戻って伝える様に』と言われたので、オレ達は先行して戻ってきました。
副長は……最悪、『しんがり』もしないといけない……と。ただ、『今戻れば追い付かれる事は無い』ともおっしゃっていたので、恐らく……もうしばらくすれば……」
「……分かったわ」
ジョイが険しい表情で一言だけ相づちを打つと、すぐさまジャックが口を開き、ゼロに問う。
「ゼロ、どう思う」
「……恐らく、その一団はジコウが集めたのだろう。ここ最近、各集落で行方不明者が相次いでいたのは、きっとジコウが何かしら上手く言って引き入れた……と、見るのが妥当ではないかと思う」
「もし……ヤツらが独立派に対して攻撃を意図していたとしたら……。聞くまでも無いが、やり合うつもりか?」
「聞くまでも無いなら分かっているだろう? ジャック。同胞と人間を傷付ける事は絶対にあってはならない。向こうにその気があったとしても、我々は相手を傷付けずに無力化し、鎮圧しなければならない。
……君達なら、それぐらい朝飯前だろう?」
「……もちろんだ、ゼロ」
互いに真剣な面持ちで言葉を交わすジャックとゼロ。ここでジャックはショーナに顔を向けて問う。
「ショーナ。相手の戦力は聞いているか?」
「すみません、戦力までは……。ただ、直掩をしているドラゴンがいるとは聞きました。後は……さっき報告した情報しか、オレには分かりません……」
「いや、それで十分だ。つまり……『直掩付きの一個大隊と大弓一台』という事か……」
ジャックは相変わらずの表情で腕組みをして呟く。それを聞いてすぐ、ジョイが話し出す。
「全く……。私は友好派の長に、この事を伝えに行くわ。少しでも早く向こうに着けば、事態を収めるのも早く出来る。
その間の空戦隊の指揮は、ミレット副長が戻ったら彼に任せるわ」
「ジョイ、ちょっと待て!」
「……何? ジャック」
飛び立とうと翼を広げたジョイを、ジャックは慌てて呼び止め、その続きを口にした。
「ヤツらは陸戦隊で何とかするが、空戦隊を二個小隊借りたい。ヤツらは直掩を上げているという話だ。陸戦隊だけでは空の連中を相手に出来ん」
「分かったわ。……待機している部隊から、あなたが適当に選んでくれて構わない。……私は行くわ」
そう言うと、ジョイは力強く羽ばたいて急上昇し、全速力で友好派へと向かって飛び去った。そんな彼女を見守る事無く、ゼロはすぐさま口を開いた。
「ジャック。私は万が一に備えて集落に残る。ミレット副長が戻ったら、彼にも集落に残ってもらい、残りの空戦隊と共に万が一に備える。
彼らを鎮圧するのは陸戦隊と空戦隊二個小隊だけだ。指揮は君が執れ。……頼んだぞ、ジャック」
「あぁ、任せろ。……集落の守りは任せたぞ」
ゼロとジャックは真剣な顔付きで言葉を交わし終えると、互いに小さくうなずいて、それぞれ行動に移った。




