『遭遇』 その7
今後の方針を聞き、驚愕とするショーナとフィー。それでもジャックは冷静に、その理由を説く。
「俺達は……捜せる範囲で、可能な限り捜した。戦闘部隊の面々も、スケジュールやローテーションを無視して稼働させたからな。……隊長としては、これ以上の無理はさせたくない。
そもそも、これだけの範囲で捜して見付からないとなると、もう俺達では手に負えん。近くで捜す場所は無いし、捜していない場所は遠すぎるからな」
説明を聞いて落胆する二頭に、ジャックは更に続ける。
「捜索は打ち切るが、広域偵察や支援部隊の輸送班には気に掛ける様に言ってある。見付けた時はもちろん保護するが……。これだけ捜して、手掛かりさえ見付からなかったとなると、ちょっとな……」
そう言って、ジャックは顔をしかめて右手で頭を掻く。ショーナとフィーも暗い顔で黙り込んでしまい、その場はしばらく静まり返ってしまった。
少し間を空け、ショーナは気持ちを切り替えると、静寂を破ってジャックに質問した。
「あの、ジャック隊長」
「……ん?」
「ちょっと別件で気になる事があるんですけど……」
「……何だ?」
「……はい。次に友好派に向かう輸送部隊って、いつ出るのかと思って……」
ショーナの質問は突然の話題転換だったが、ジャックはその質問に冷静に答えた。
「ん? あぁ、次は……明日の朝だな。最近は悪天候や捜索関係でスケジュールが乱れたから、その分をニ部隊で交互に動いて取り戻している。
……しかし、どうしてそんな事を?」
「いえ……。ちょっと気になっただけです。特に意味は……」
「……そうか」
ショーナが真剣な表情で質問した割りに、その質問理由が「気になっただけ」という返答だった事で、ジャックは少しきょとんとし、一言呟いていた。そんなショーナを、彼の左隣に立つフィーは横目で見つめていた。
ジャックは一呼吸置き、改めて話を始める。
「あぁ、それで……。今後のお前達の訓練についてだが……。一応、お前達は長から直々の『ご指名』を受けているから、訓練の再開は……長やゼロ達と話し合って、それから決めたいと思う。
まぁ、ジコウの件があって……お前達も色々とショックだとは思う。だから……しばらくは時間を空けよう。お前達も少し休むんだ」
「……はい」
「では……決まり次第連絡する」
ジャックの最後の言葉を聞き、ショーナとフィーは静かにうなずく。ジャックも小さくうなずき返すと、それを見たショーナとフィーは静かに一礼してその場を後にした。
ショーナはフィーを自宅まで送り届けていた。彼らはフィーの家の前で向き合い、先にフィーが口を開いた。
「それで……。明日からはどうするの?」
「……分からない。……とにかく手掛かりが無さすぎる。ゼロ司令達が大掛かりで捜しても、手掛かりさえ見付からなかったってのは……ちょっと……オレも想定外だった……」
「…………」
「とりあえず今は……ジャック隊長に言われた通り、オレ達も……少し休もう……。ジコウを捜すにしても、もう少し策を練ってからじゃないと……」
暗い表情で話すショーナの言葉を、フィーは静かに聞いて受け止め、一呼吸置いてから彼に返す。
「……そうね」
「まぁ、フィーは退屈かもしれないけど、とにかく……ちょっと休もう。……明日はお互いにフリーにして、その後は……様子を見ながら、その時に考えるよ。……オレも母さんと相談した方がいいと思ってるからさ」
「……分かった」
少し疲労の色が見える表情で相づちを打ったフィーは、自宅の扉に手を掛け、ショーナを見ていつものセリフを口にする。
「じゃあまたね、聖竜サマ」
そして扉を開け、中へと入っていった。ショーナは扉が閉まるまで見届けると、鼻で小さくため息を吐き、その場で顔をしかめる。そうして意を決した彼は、キッと訓練場の方へと顔を向けたかと思うと、再び訓練場へと走り行く。そんな彼の後ろ姿を、フィーは自宅の小窓から静かに見届けていた。
「ジャック隊長ーー!!」
「……ん? ショーナ? ……どうした、何か忘れたのか?」
ショーナはジャックに駆け寄りながら、大声で彼の事を呼んでいた。ショーナに気付いたジャックは足を止めて振り向き、駆け寄ってきたショーナに腕組みをして答えた。
ジャックの前で急停止したショーナは、息が整うのを待たずに話を始める。
「あの……! 明日の事なんですけど……!」
「ショーナ、少し落ち着け。俺はどこへも行かないから、まずは息を整えろ。……話はそれからでも遅くない」
それを聞いたショーナは顔をしかめながら小さくうなずき、しばらく深呼吸をして呼吸を整え、改めて話を始めた。
「……すみません、明日の事なんですけど……」
「あぁ。……明日がどうかしたのか?」
「オレ……。支援部隊と一緒に、友好派に行こうと思っています」
「友好派に……?」
ショーナの言葉を聞き、ジャックは少し顔をしかめて問い返していた。
「それは……どうしてだ?」
「はい。もちろん……ジコウの捜索の件で、です」
「捜索か……。だが……友好派の捜索は……ゼロ達も行っているハズだが……」
「オレもそうだと思っていました。ただ、ゼロ司令達が捜索したのは、集落周辺の林です。もしジコウが集落内に潜んでいたら、友好派のドラゴン達では分からないかもしれないと思ったんです」
「……それは何故だ?」
ジャックは腕組みをしたまま真剣な表情で、ショーナに端的に質問していた。対するショーナも真剣な表情で、訴えるように質問に答える。
「はい。ジャック隊長からお聞きしたお話だと、友好派にはジコウの情報がジョイ隊長によって伝えられたと。ただ、その情報は……口頭か文書によって、あいつの特徴が伝えられたんじゃないかと思ったんです。
友好派のドラゴン達は、ジコウの顔を知りません。そして、その情報が集落の隅々まで行き渡るとは思えません。書庫長からお聞きしたお話だと、友好派には稀に『流れ者』としてドラゴンがやって来る事もあると、オレはお聞きしました。
それに、今……友好派には行方不明者が多数出ています。そんな状況で……友好派のドラゴン達が、ジコウの事を気に掛ける余裕があるかと言われれば、恐らく……無いと思うんです。
だから、オレは……友好派の集落内を、自分で捜索したいと思っています。オレならジコウの顔は分かります。だから……」
「分かった、お前が言いたい事は分かる。だが……何故、支援部隊と一緒に行く事にしたんだ? 必要であれば、お前達だけで友好派に行く事も出来たハズだが……」
ショーナの力説を途中で止め、ジャックはふと浮かんだ疑問をショーナに投げ掛けていた。ショーナは変わらず真剣な目をジャックに向け、その疑問に答える。
「オレ達は遠征訓練の時に、一度……追い返されています。だから、支援部隊と一緒に行く事で、『支援部隊の護衛』という名目で、友好派に入れるんじゃないかと思ったんです。
……もちろん、名目だけのつもりとは思っていません。万が一の時、必要であれば……オレも護衛として戦います」
「なるほど……。お前がさっき、『次に友好派に向かう輸送部隊』について聞いてきた理由が分かった。まぁ、お前達が同行する事に関しては、俺は止めるつもりは無い。
だが、万が一の事があっても、お前達が護衛として戦うのは……俺は賛同しない。万が一の時は自分達の身を守る事を優先しろ。いつも言っているが、お前達は戦闘部隊じゃないからな」
「……分かりました」
真剣な表情で返事をしたショーナだったが、ここでジャックは別の疑問が浮かび、それをショーナに問い掛ける。
「そういえば、フィーがいないが……。フィーはこの話、知ってるんだろうな?」
「いえ……。明日はオレだけで、同行しようと思っています」
「お前だけでか……? 何だ、喧嘩でもしたのか?」
きょとんとしながら問うジャックに、ショーナは小さく顔を横に振り、その問いに答える。
「今回は……支援部隊に同行して、友好派の集落内を捜すだけなので……。なので、小隊として動く必要は無いと思ったんです。それに、フィーには少し休んでいてほしいし……」
「……なるほどな。まぁ確かに、支援部隊に同行するのであれば空戦隊の護衛もあるし、友好派の集落内であれば、危険な事があっても自衛部隊が対応するだろうからな。
……分かった。では友好派に行く件、きちんと長に話しておくんだ。さっきの慌て様からして、長に話す前に戻ってきたんだろう?」
「……そうです」
見透かされたショーナは、少し苦笑いをして一言返した。
「お前は長直々のご指名を受けているが、きちんと長に話は通しておけよ。長にとって、お前は我が子なんだからな。
……あぁ、それと……。明日、明後日の道中と友好派での行動については、ミレット副長の指示に従え」
「えっ……!? ミレット副長ですか……!?」
「あぁ。明日の護衛はミレット副長が小隊を率いるからな。……副長には俺から話を通しておく。明日の朝、一本道の前で輸送部隊に合流するんだ。
遅れたら輸送部隊は出発するからな、寝坊するなよ?」
「わ……分かりました……」
ショーナは苦笑いをしてジャックに答え、内心でふと思う。
(ミレット副長か……。何を言われるか分からないから、ちょっと苦手なんだよなぁ……)




