『遭遇』 その6
フィーの唐突ないじりに、ショーナは苦笑いをしながら右手の指で顔を掻き、彼女に言う。
「そ……そもそもなんだけどさ……。フィーって、『子作り』って……何なのか知ってて言ってる……?」
「えっ……?」
ショーナの問いに、フィーは伏せたままきょとんとして一言反応していた。そしてその問いに答える。
「タマゴを産む事でしょ? ドラゴンってタマゴから生まれてくるんだし」
「…………」
ショーナはそれを聞いて、苦笑いしたまま大きくため息を吐き、続きを口にした。
「……まぁ、そんな事じゃないかと思ったよ」
「えっ……? 違うの……?」
「あー……まぁそのー……。半分は合ってる……かな……」
「『半分』……?」
相変わらず伏せたまま顔をしかめたフィー。そんな彼女に、ショーナは気まずそうに言葉を続ける。
「『タマゴを産む』ってのは……その……、『結果』であってさ……。ほら、何も無しにタマゴを産む事は無いだろ?」
「……そうなの?」
「いや、もしそうだったら……もうフィーはタマゴ産んでるでしょ……。オトナなんだしさ……」
「……ふうん」
いつもの相づちを打ったフィーだったが、彼女の言動を見聞きしたショーナは、今の相づちは空返事であると見抜き、思う所があった。
(まぁ、今更だけど……。冷静にフィーの性格と境遇を考えれば、そもそも……フィーが子作りの事を知ってるハズが無いんだよね……。
フィーって幼い頃に両親がいなくなってるし、この集落で子持ちなのは母さんだけだし……。だから、子作りに関して教えてくれるオトナは……そんなにいないし、そういった機会も無い訳で……。
しかもフィーって書庫だと退屈するタイプだし、そもそもフィーって確か……あまり文字が読めなかったんじゃ……。
だから……踏み込んだ内容を知ってるハズが無いんだよね。オレに『子作り』って言ってくるのは……、きっと……『そう言えばオレが動揺する』って分かってて、からかって言ってるんだろうな……)
ショーナがそう長考している所に、フォーロが一冊の本を片手に戻ってきた。彼は今の会話を微笑ましく聞いており、それを補足する様に、彼らに言葉を掛けた。
「ふむ。ショーナ様もフィーさんも、もうオトナですからな。子作りに関する知識も、学ばれても良い時期ではあるでしょうな」
「しょ……書庫長……!」
それを聞いたショーナは、顔を赤くして一言だけ発していた。そんなショーナに、フォーロは微笑んで優しく諭す。
「ショーナ様、これは恥ずかしがる事ではありません。この先、ショーナ様とフィーさんがパートナーになられた時、もしくは……別の誰かと出会い、その方とパートナーになられた時……。子孫を残すのであれば、正しい子作りの知識を持ち得ていないと……子孫を残せないですからな」
「それは……そうですが……」
「ふむ。……それはまた、いずれ……落ち着いた時にお話ししましょう。しかし……ショーナ様は『前世の記憶』をお持ちですから、そういった事は……ご存じかと思ったのですが……」
テーブルに本を置いて、腕組みをしながら右手をアゴに添え、首をかしげたフォーロ。ショーナはまだ赤みの残る顔で、慌てて答える。
「えっ!? え、えぇ……まぁ……。動植物がどうやって子孫を残すのか……というのは、一応……教育を受けるので……」
「ふむ、なるほど……。そういえば……確かショーナ様が人間だった世界には、『魔法は無かった』……と」
「えっ……? はい、そうですが……」
「ふむ……。でしたら、ショーナ様も……この世界のドラゴンが、どの様にして子作りをするのか……というのを、今一度、学ばれた方が良いでしょうな」
それを聞いたショーナは、少し顔をしかめて問う。
「書庫長、それって……どういう事ですか? ドラゴンは……他の生物とは違った子作りの仕方をするって事ですか……?」
「ふむ。ドラゴンも他の生物と同じ様な子作りの仕方をしますが、わたくし達ドラゴンは魔力が強いですからな。もう一つ、他の生物とは違った子作りの仕方もあるのですよ。
そのお話しも、またの機会にしましょう。……さ、こちらが生物学の本です」
そう言うと、フォーロはテーブルに置いた先程の本をショーナの前へと押し、言葉を重ねる。
「今は、ショーナ様もフィーさんも、向き合わねばならぬ事がありますからな。あまり他事に時間を割くというのは、わたくしは……あまり良い判断とは思いません」
「……そうですね」
ショーナはフォーロに微笑んで一言返し、テーブルの本を受け取った。
(……でもまぁ、この調べ物は『他事』の一つなんだけど……)
彼は表情に出さない様にしながら、受け取った本を開く。
(え~っと……。『食事』とか『栄養』とか、そういった項目は…………あった!)
目次を目でたどり、目的の項目を見付けた彼は、パラパラと本をめくって目的のページを開く。その時だった。
「ね~、まだ~?」
床に伏したフィーが、退屈のあまりショーナに声を掛けた。彼は振り向いて答える。
「あぁ、もうすぐ終わるから。……何なら、フィーは先にジャック隊長の所に……」
「いいわよ別に。……隊長には従うわよ」
「……だから、今は捜索に出ている訳じゃないから、隊長ってのは気にしなくていいって……」
「分かったから早くして……。退屈すぎて死にそう……」
「分かった分かった……」
うんざりしながら言うフィーに、ショーナは苦笑いをしながら答えると、再び本へと顔を向ける。
(……だからフィーには『休んでて』って言ったんだけどなぁ……。休んでも退屈、書庫に来ても退屈……か。本当、お転婆なんだから……)
ショーナは苦笑いしながら鼻で小さくため息を吐き、先程開いたページを注視した。
(え~っと……栄養……栄養…………これか!
なになに……『ドラゴンは足りない栄養素を魔力で補い、体内で生成する。その為、栄養が偏っても病気や死に至る事は無いが、栄養素の生成で僅かに魔力を消費する事になる。栄養バランス良く食事を取る事が大切』……か)
フィーの偏食が心配になり、この機会に調べていたショーナ。彼は本を閉じて再び鼻で小さくため息を吐くと、苦笑いをしながら、ふと思う。
(……今度から時々……フィーを食事に誘おうかな……。まぁ、フィーにとっては……栄養バランスより『退屈』の方が死活問題だろうけど……)
そう内心で結論付けた彼は、フォーロに顔を向け、
「書庫長、本……ありがとうございました」
一言お礼を言う。
「ショーナ様が知りたい事は、見付かりましたかな?」
「はい」
「それは良かったです」
微笑んで言うショーナに、フォーロも微笑んで言葉を返す。
「じゃあ書庫長、すみません……。フィーが『こんな』なので、オレ達……もう行きます」
「えぇ、お気になさらず。……色々と大変でしょうが、一番大切なのは……ご自身の体ですからな。ショーナ様もフィーさんも、どうかあまり無理をされぬ様に……」
「はい、ありがとうございます。……では失礼します」
ショーナはそう言うとフォーロに頭を下げた。フィーも立ち上がって頭を下げると、二頭を見たフォーロは同じ様に頭を下げ、階段を駆け上がる二頭を見送った。
ショーナとフィーは書庫を出ると、そのまま訓練場まで走る。彼らが訓練場に到着すると、二頭を目にしたジャックが先に声を掛けた。
「ん? お前達か。どうした?」
それを聞き、二頭はジャックの前で横並びになる。ジャックに口を開いたのはショーナだった。
「ジャック隊長、ゼロ司令は……戻られましたか?」
「あぁ、ゼロ達は戻ってきたぞ。……なるほど、その様子だと……友好派での捜索結果を聞きに来た、といった所か?」
「……はい」
ジャックの問いに、ショーナは真剣な表情で返事をした。ショーナの返事を聞いたジャックは、腕組みをして真剣な顔付きをし、ショーナが聞きたがっていた話を始めた。
「結論から言えば……ジコウは見付からなかった。痕跡という痕跡も無かったそうだ」
「そうですか……」
「あぁ。……友好派の周りにある林を全て、ゼロの能力を使って調べたそうだが……。ドラゴンの反応は無かったそうだ。
調度、友好派でも行方不明者が多数出ていた事で、自衛部隊や一般のドラゴンも手伝って、かなり大掛かりな捜索をしたらしい。それでも……ジコウはおろか、友好派の行方不明者さえ見付からなかったという話だ。……痕跡さえもな」
「…………」
ジャックの説明に、ショーナは顔をしかめてため息混じりにうなる。
「それで……俺達の今後の捜索方針なんだが……。お前達には悪いが、戦闘部隊による捜索は……打ち切る事にした」
「そっ……そんなっ……!」




