『遭遇』 その3
フィーは食料を保管してある容器をごそごそと漁ると、
「聖竜サマ、これ」
そう言って、三つの木の実を次々とショーナに向かって放った。
「えっ? あっ……ちょっ……いて!」
ショーナは一つを右手で、もう一つを左手でつかみ取ったが、最後に飛んできた三つ目の木の実をつかむ事が出来ず、その木の実は彼の顔に直撃して寝床に落ち、転がっていた。それが当たった瞬間、ショーナは自動的にバリアで守られて痛みは感じなかったが、物が当たった感覚で思わず声を上げていたのだ。
(ざ……雑だなぁ、もう……)
ショーナは苦笑いをしながら思いつつ、フィーから放られた木の実を手元に集め、それを見た。そしてその木の実が「何なのか」を認識すると、彼女に目を向けて声を掛ける。
「フィー、これ……!」
「朝食。……好きなんでしょ? 酸っぱいの」
そう言うと彼女は、自身が食べる為の淡いピンク色をした木の実を三つ右腕で抱え、母親の寝床へと歩き、そこで木の実を置いてから丸く座った。
それを見ていたショーナは、苦笑いをしながら彼女に言う。
「フィー、あのさ……」
「なあに?」
「もしかして、オレが酸っぱい木の実が好きだからって、『そればっかり食べてる』って……思ってない?」
「え? 違うの?」
「……違う」
彼はフィーの食事が偏食である事を前日に知っていた。そして今、彼女が自身への朝食として、同じ木の実を三つ放ってきたのを目にした事で、先の疑問が浮かんでいたのだ。
その問いにきょとんとしながら問い返したフィーを見て、ショーナは苦笑いをしたまま一言だけ答えていた。彼の言葉を聞いたフィーは、相変わらずきょとんとしたまま、彼に問い掛ける。
「じゃあ、こっちの木の実食べる? 聖竜サマ、昨日は口に合わなそうだったから、その木の実貰ってきておいたんだけど……」
「いや、フィー……。そういう事じゃなくて……」
「どういう事……?」
フィーの言葉に、ショーナは苦笑いをしたまま右手の指で顔を掻き、言葉を続けた。
「いや……だからさ……。『食事として木の実ばかり食べてる』って、思ってない?」
「え? 違うの?」
「…………違う」
きょとんとしたまま一言だけ返したフィーに、ついにショーナは声を出して苦笑いをし、一言だけ彼女に返してから一呼吸置き、続きを口にした。
「フィーが砦に泊まった時、魚とか食べてたじゃん……」
「あんな手の込んだ食事、出来る訳無いでしょ?」
「いや、別にそれを求めてる訳じゃなくて……。『オレが毎日、木の実だけ食べてる』って、思ってるのかを聞いてるんだけど……」
「え? 違うの?」
「………………違う」
彼女の変わらない返答に、ショーナは苦笑いをしたままため息混じりにうなり、一言だけ返した。それを聞いたフィーは、微笑んでショーナに言う。
「ふうん……。じゃあ、新鮮な気持ちになれていいでしょ?」
「まぁ……そうだね……」
苦笑いしながら、呆れ気味にぽつりと返したショーナ。
(朝から酸っぱい木の実三個かぁ……目が覚めそう……)
相変わらずの表情でそんな事を思いながら、右手の指で顔を掻いていた。ここでふと気になる事が頭をよぎったショーナは、それを木の実をかじり始めた彼女に問う。
「それにしても……。いつの間に……この木の実貰ってきたの?」
「え? ほえ?」
「そう」
うなずきながら相づちを打ったショーナに、フィーは木の実を飲み込んでから答える。
「昨日、聖竜サマ……一旦砦に戻ったでしょ? その時に貰ってきたの」
「わざわざ……?」
「だって好きなんでしょ? 酸っぱいの」
「ま、まぁ……そうだね……」
苦笑いをして顔を掻くショーナを気に留める事無く、フィーはかじっていた木の実の残りを口に放り込んだ。
(まぁ、わざわざ貰ってきてくれたんだし、頂くか……)
ショーナもフィーに続き、木の実を食べ始める。彼は木の実を半分程かじっては顔をしわくちゃにし、それを飲み込む。そしてまた半分を口に入れては顔をしわくちゃにして、それを飲み込む。そうやって三個の木の実を平らげた頃には、フィーも自身の木の実を食べ終えていた。
(な……なかなか刺激的な朝食だったな……)
食べ終えても尚、口の中に残る酸味に顔をしかめ、フィーの父親の寝床で丸く座り込みながら、そんな事を考えていたショーナ。彼がそう思っている事などつゆ知らず、フィーは母親の寝床で丸く座りながら彼に温顔を向け、この後の事について質問した。
「それで? この後はどうするの?」
「この後……? この後は……予定通り、昼過ぎに書庫に行って、その後に……ジャック隊長の所に行くよ。特に変更は無い」
「違うわよ」
「えっ……?」
「昼過ぎまでの事を言ってるのよ」
「あ……そういう……」
フィーが言葉を付け足した事で、ショーナは彼女が言おうとしていた事を理解した。彼は少し考えながら彼女に答える。
「う~ん……そうだね……。特に予定は無いし、他に出来る事も無いし……。昼過ぎまでは……ゆっくり休んだ方がいいと思ってる。明日からも、どうなるか分からないし……。
だから、お互いに……休める時に休んでおいた方がいいと思ってる」
「それは分かったけど、聖竜サマはどうするの?」
「え? オレ? ……オレも休むよ」
「違うわよ」
「えっ……?」
「砦に戻るのかを聞いてるのよ」
「あ……そういう……」
フィーが言葉を付け足した事で、ショーナは彼女が言おうとしていた事を理解し、苦笑いをしながら右手の指で顔を掻き、
(フィーって主語が無いから、時々……何を言おうとしているか分からないんだよね……)
そう思いながら一呼吸置いて、彼女に答える。
「オレは……一旦砦に帰ろうかな。昼過ぎまで……まだ時間あるし……」
「……帰っちゃうの……?」
「……!」
フィーの表情には表れていなかったものの、少し寂しさが入り混じる彼女の言葉を聞いたショーナは、はっとして彼女が以前口にした言葉を思い出していた。
(……独りに……しないで……か)
ショーナは僅かに険しい表情でその言葉を思い出すと、少し恥ずかしそうに微笑んで、彼女から目を逸らして言う。
「じゃあ……その……。フィーさえ良ければ……昼過ぎまで……いようかな……。それで……その……。その後、一緒に……書庫に行こっか……」
言葉に詰まりながら少し顔を赤くして言うショーナに、フィーは身を乗り出して、目を閉じて顔を擦り合わせた。
「……ありがと、聖竜サマ」
「……フィー……」
そんなフィーを受け入れながら、ショーナは彼女に思う所があった。
(……フィーって、コドモの頃から気丈だと思って見てたけど……。でも……やっぱり、心のどこかでは……寂しいんだろうな……。小さい頃から両親がいないってのは……、きっと……オレが思っている以上に……寂しかっただろうし……)
ショーナはどこか寂しそうな顔をしながら、しばらくフィーの事を受け入れた。そしてフィーは顔を引っ込めると、彼に微笑んで言う。
「……じゃあ、ゆっくりしてって?」
「……あぁ」
彼女に微笑んで相づちを打ったショーナは、少し落ち着かないながらも、フィーと共に彼女の家で昼過ぎまで過ごす事にした。
最初はそわそわ落ち着かない様子を見せたショーナに、フィーはあまり声を掛ける事無く、そっと彼の隣の寝床で静かに寄り添った。彼女は何も話さずとも、ただショーナが隣にいてくれる事を嬉しく思っていた。
彼女の何気ない配慮で、ショーナは次第に気持ちを落ち着ける事が出来た。そして彼らは昼過ぎまで、たわい無い話をしたり木の実をかじったりしながらゆっくりと過ごす。時折彼らは、小窓から射し込む温かい日の光でウトウトする事もあり、ここ数日の慌ただしい日々を忘れるかの様な時間が、しばらくその場には流れていた。
そして、昼過ぎ――
「書庫長! こんにちはー!!」
彼らは書庫の前に足を運んでいた。ショーナが大声で挨拶をすると、間も無くフォーロが扉を開け、ショーナとフィーを見るや否や微笑むと、彼らに挨拶を返す。
「これはこれは、ショーナ様にフィーさん。こんにちは。……フィーさんもご一緒とは、今日は珍しいですな」
「えぇ……はい……。一緒に行くって聞かなくて……」
ショーナは苦笑いをしながら答えていた。
「ふむ……。では、中へどうぞ」
挨拶も早々に、フォーロは二頭を招き入れ、彼らは地下へと下りていった。




