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竜好きのオレ、ドラゴンの世界に転生して聖竜になる。  作者: 岩田 巳尾


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『遭遇』 その1

 ショーナがフィーの家の前に到着した時には、もう空は夕焼けに染まっていた。急いで走ってきた彼は息が整うのを待たず、フィーの家の扉をノックした。

 扉が開き、その隙間から顔を出したフィーは、微笑んでショーナに言う。


「……遅かったわね、聖竜サマ。……てっきり、もう無かった事にして戻ってこないかと」

「……遅くなってごめん。……ちょっと母さんとの話しが長くなって……」


 彼女の言葉に、少し申し訳無さそうに微笑んで答えたショーナ。


「……ほら、入って? もう日が暮れちゃうし」

「あ、あぁ……。じゃあ、お邪魔するよ……」


 フィーがショーナを誘って顔を引っ込めると、ショーナは右手で扉を押さえながら家の中へと入る。彼が扉を閉めて振り返ると、フィーが調度自身の寝床で丸く座る所だった。そして、座って落ち着いた彼女はショーナに微笑み、


「聖竜サマは、そっちの寝床を使って」


 右手で指差しながらそう言った。ショーナがその先に目をやると、床には藁が敷き詰められた寝床が二つ準備されていた。それ自体はショーナも以前に訪問した時から気付いていたが、この機会にと思い彼女に問い掛けた。


「フィー、あのさ……。どうして寝床が二つあるの……?」

「え? それの事?」

「……そう」


 聞き返されたショーナは、うなずいて相づちを打ち、言葉を続ける。


「前から気になってたけど、どうして……二つも余分にあるのかと思って……」

「……それ、お父さんとお母さんの寝床なの」

「えっ……!?」


 フィーの言葉に、ショーナは目を見開いて驚く。そんな彼に、彼女は説明を始めた。


「一昨日、砦に泊めてもらった時……私のお父さんとお母さんの話したの、覚えてる?」

「もちろん……覚えてるよ」

「……だからなの」

「ど……どういう事……?」


 ショーナは聞くのをためらったが、自分から切り出した事だった為、恐る恐る聞く事にした。彼の問い掛けに、フィーは少し寂しそうな表情をして話し出した。


「お父さんとお母さん、私が小さい時にいなくなったって……話したでしょ? だから……お父さんとお母さんが、いつ帰ってきてもいい様に……残してあるの」


 それを聞いたショーナは、慌てて先のフィーの提案を拒む。


「じゃ、じゃあ……! そんな大切な寝床、使えないよ!」

「……どうして?」

「だ、だって……! それ、フィーの両親の為の寝床なんだからさ! オレは別に、全身に甲殻があるし、床で寝たって痛くないから……」


 ショーナの慌てた言葉を聞き、フィーは一呼吸間を置くと、少し寂しそうな表情のまま続きを口にした。


「……私、何となく分かってるの。お父さんとお母さん、もう帰ってこないんじゃないかって」

「フィー……」

「私が小さい頃は……いつか帰ってくると思ってた。……今でも、心のどこかでは……そう思ってる部分はあるけど……。

 でも、私も大きくなって……何となく分かるの。お父さんも……お母さんも……もう……」

「…………」


 寂しそうな表情でうつむき、黙り込んでしまったフィー。ショーナは掛ける言葉が見付からず、少し険しい表情をして鼻で小さくため息を吐く。

 少しの沈黙の後、先に口を開いたのはフィーだった。


「……だから、使って?」

「……でも……」

「……お願い」

「…………」


 フィーは寂しそうな表情をしながらも、ショーナの目を見て訴えていた。彼もフィーの目を見てそれを聞いていたが、その寝床は彼女にとって大切な物であり、両親の思い出とも言えるその寝床を、例えフィーのお願いといえど簡単には「使う」という決断が出来なかった。

 難しい顔をして黙り込んだショーナを見て、フィーは言葉を重ねる。


「……私は……前に進みたいの……。いつまでも……お父さんとお母さんの事で……後ろを見たくない……。

 自分では分かってるつもりでも、どうしても……自分から片付ける決断が……出来なかった……。だから……ずっと残しっぱなしで……」

「…………」

「残すなら残すで、きちんと気持ちの整理をしたいの。そうしないと……」


 フィーはここで少し顔を逸らした。その顔は少し赤みを帯びており、彼女は少し恥ずかしさと気まずさが入り混じった表情で言葉を続けた。


「そうしないと……私は……。この先、聖竜サマのパートナーになった時に、ちゃんと……寄り添えないんじゃないかって……」

「……!!」


 思い掛けない言葉が飛び出した事で、ショーナは顔を真っ赤にして目を見開き、驚愕して固まってしまった。

 当のフィーは表情そのままに、ショーナに顔を向けて訴える。


「……だからお願い、使ってほしいの……。聖竜サマに……」

「…………」

「お願い……!」

「…………分かった」


 最後まで決断を迷っていたショーナだったが、フィーの切実なお願いに心を決め、彼女が指差していた寝床へと歩き、丸く座り込んでフィーの方を向く。

 そんなショーナを見てフィーは安堵したのか、鼻で小さくため息を吐き、表情をほころばせた。


「……ありがと、聖竜サマ」

「……そこまで頼まれたら、さすがに断れないよ」


 互いに少し赤みが残る顔で、微笑んで言葉を交わす。すると、フィーはふと思い立ち、


「……じゃあ、私も……」


 そう言ってゆっくり立ち上がると、自身の寝床からもう一つの空いている寝床へと移動し、そこで丸く座り込む。


「……これで聖竜サマと一緒」


 微笑んで言ったフィーの言葉で感付いたショーナは、それを彼女に問い掛けた。


「……もしかして、オレが座ってる寝床って……」

「……そう、お父さんの」

「じゃあ、フィーが今座ったのが……」

「……お母さんの」

「……そっか……」


 言葉少なに語る二頭。フィーは少し間を空けると、ショーナへと身を乗り出し、目を閉じて顔を擦り合わせながら言う。


「……戻ってきてくれて、ありがと。……聖竜サマ」

「フィー……」


 少しぽかんとしながらフィーを受け入れたショーナ。フィーは顔を引っ込めると、微笑みながらショーナを見つめて言葉を付け足す。


「……さっき言うの忘れてたから」

「……約束は……守るからさ……」


 ショーナはそう返すと、フィーへと身を乗り出して、目を閉じて顔を擦り合わせる。


「えっ……!? 聖竜サマ……!?」


 フィーはショーナの行動に驚いて声を漏らした。ショーナから顔を擦り合わせられたのは、これが初めての事だったからだ。

 ショーナは顔を引っ込めると、少し恥ずかしそうに微笑んで言う。


「……オレの……気持ち」

「…………ありがと」


 フィーは少し顔を赤くし、恥ずかしそうに少し顔と目を逸らしながら、呟く様に一言ショーナに返していた。

 フィーの反応を見たショーナは、微笑んで彼女に問う。


「……フィーも……そういう顔するんだね」

「え……?」

「いや、一昨日……フィーはオレの事、初心(うぶ)って言ってきたからさ。てっきり……平気なものとばかり……」

「だ……だって……! まさか聖竜サマが……顔を擦り合わせてくるなんて思わないでしょ……!? いつも……恥ずかしがってて……。なのに……」


 フィーは更に顔を赤くし、むきになってショーナに言葉を重ねていた。それを見てショーナは苦笑いをし、彼女に言う。


「……嫌だったら謝るよ」

「い……嫌じゃないわよ……! もし嫌だったら、私から顔を擦り合わせる事だってしないでしょ!? 私は……ただ……ちょっと驚いただけよ……」


 再び顔を逸らし、気まずそうに答えたフィー。ショーナはここで声を掛けるのを止め、フィーが落ち着くのを待つ事にした。

 フィーは顔を逸らしたまま鼻で小さくため息を吐くと、少し寂しそうな微笑みを浮かべながら、違う話を始める。


「……私、『小さい時にお父さんとお母さんがいなくなった』って言ったでしょ? ……お母さんは……集落を出たっきり……帰ってこなかったんだけど……。でも……、お父さんは……一度帰ってきた事があるの」

「えっ……?」


 ショーナが一言反応した時には、既にフィーの表情は暗くなっていた。


「お父さんは……傷だらけで集落に帰ってきたの。……黒いドラゴンに支えられて。……でも……、お父さんはその場で倒れて……どこかへ運ばれて……。それっきり、帰ってこなかった……」


 それを聞き、ショーナは少しためらいつつも、彼女に質問をした。


「……それって、いつの事だったの……?」

「……私が聖竜サマと出会う、少し前の事よ」

「……そっか……」


 相づちを打ったショーナは、フィーと同じ様に暗い表情をして考える。


(……前に母さんから聞いた話とも合ってるな……。オレが出歩く様になる少し前に、フィーの両親は……旅に出た……って。

 ……一体、何があったんだ……? フィーはさっき、父親は『傷だらけで帰ってきた』って言ったぞ……? それに、母親は『出たっきり帰ってこなかった』って……。

 こんな平和な集落で、そんな事が……起こるのか……?)

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